プロローグ②
プロローグのつもりで書いたんですが、気持ち的にはほとんど本編です。
長くなりそうなんできりが悪いですが分割させてもらいます。
次から本編です。
俺は素直にやり直しを要求した。
気持ち的には次の人生で、アメリカ初の日本人大統領を目指すくらい本気だ。
「無理ね」
最高の笑顔でそう言われてしまった。
しかし、しかしである。こんな不思議空間で絶世の女神様と会話しているのである。きっと何か特典的なものを用意しているに違いない。俺のクソみたいな人生のどこに特典要素があったかは知らないが、とにかく得点を要求しようと声を荒げる。
「女神様!!!」
「な、なにかしら? 凄い剣幕ね」
「特典を要求します!!!」
「……特典?」
あれ? 反応が芳しくない。
「はい! こんな不思議空間に呼び出されたってことは何かあるんですよね? 個人的な希望としては異世界に転生してチートで活躍して美少女に甘やかされ何不自由なく自堕落な人生がいいです」
「それは、あなたでなくてもできるんじゃないかしら? 私があなたを呼んだのはあなたにしかできないことがあるからよ」
「俺にしかできないこと?」
俺にしかできないこととやらは分からないが、やはり何やら特典があるらしい。
ただ、言われてみると、異世界転生や転移でチートで無双するという行為は、言っては何だが誰でもいいのだろう。俺にも経験がある。数多くのそういう作品に出合ってきたから分かる。基本的には大半は没個性的であり、何をしても取り巻きが祭り上げてくれる。さらには、全く大したことをしていないにも拘わらず、なぜか認められる。物凄く拙い語彙力で褒められたりしている。そういうのを見ていると、あぁ、最早チートすら関係なくなっちゃったか……。と残念な気持ちになったりした。
つまり、俺にしかできないこととは、そういう没個性的な量産型主人公とは違う、俺による俺の為だけの、最高に個性溢れた、そんな異世界サクセスストーリーを求められているのだろう。
「分かりました! 女神様の希望に沿えるよう、精一杯頑張らせてもらいます!」
「……まだ何も説明していないのだけれど。一体何が分かったのかしら……?」
「だから! 2度目の人生ですよ! この際、やり直しは断腸の思いで諦めます。なので、女神様の特典で是非とも異世界に連れて行って下さい!」
「あなた、本当に私の話を聞かないわね。却下」
「なんでですか! じゃあやっぱりもう一度、あのクソみたいな人生をやり直すチャンスを!」
「無理」
またしても最高の笑顔をいただいてしまった。
しかし、却下と言われた。つまり、異世界への希望はあるような気がする。やり直しは無理と言っていた。
今度は疑問を目で問いかけてみた。ちょっとだけ目を潤ませて。
「はぁ……」
女神様はため息をつき、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、俺の全身が光に包まれ、元の姿に戻ってしまった。
「もし仮に、あなたの人生のランクが最高のものだったら、きっとその願いは叶えられたでしょうね。もっとも、最高の人生を過ごした人がやり直しを要求することなでないのでしょうけれど」
そう言いながら、女神様は俺のEランクを指さした。
「あのランクはね、下から2番目なの」
「2番目? てっきり最下位かと思ってました」
「途中までは評価されていたのよ。覚えがあるでしょ?」
「そ、それは、……まあ」
「あら、さっきまでの勢いがなくなったわね。ふふ、まあ、事情は知っているから気持ちは分かるわ」
女神様にはお見通しらしい。何だか急に恥ずかしくなってきた。
「ちょっとだけ、あなたの人生において評価された点に興味があったの。知りたい?」
「……知りたくないです」
「だめ。ちゃんと確認してもらうわ」
意地悪な笑顔だった。そんな顔で言われたら、断れない。
女神様はでかでかと浮かぶEランクの下に行き、おもむろにランクの下をスクロールした。
「これはね、人生の達成項目というところかしら。普通に人生を過ごしていれば、大体半分程は達成できるものよ」
そう言って、すーっとスクロールを続ける。その項目は多岐にわたっており、中には一輪車に乗れた、などという項目まであった。因みに俺の人生にはカウントされていない。
いつ、どこで、幼少期、青年期、はたまた死ぬ瞬間まで、とてもじゃないが半分も埋めることができそうになかった。
「これ、普通に生きてても半分も埋められないじゃないですか。何て無理ゲー」
「人生ゲームよ」
女神様はドヤ顔だった。憎たらしい程いい顔をしている。
「人生ゲームなら得意ですよ。ルーレットは狙った位置で止めれれますし。あれ、そういえば俺の人生も狙いすまされたかのように止まってましたね。途中から年単位で休めのマスから動いた記憶がありません」
「いきなりそういう自虐は止めてもらいたいのだけど。反応に困るわ。感情の浮き沈みが激しいわね……」
困っているところ申し訳ないが、俺のテンションはだだ下がりである。早く切り上げたいので続きを促した。
「それで、どういうことなんですか?」
「え、ええ、……こほんっ、この達成率は、あなたが決めたことなの」
「……俺が?」
「そう、あなたが。あなたが自ら下した評価なの」
「ちょ、ちょっと待って下さい。そんなの気持ちの持ちようで評価が変わっていいんですか? そんなのリア充共が皆高評価になるじゃないですか! あいつら頭お花畑だし、かなり幸福指数高そうですよ!?」
「ふふふっ、人生は幸せが一番よ?」
「ぐうっ、そ、それは、……そうですけど」
「そうでしょう? でもね、心の奥底にあるものは本人にしか分からないわ。あなたが自分を低く評価したように、例えリア充と呼ばれる人達でも自分を最高に評価できるわけじゃない。どこか後悔している記憶が必ず存在するものよ。だから、大半の人は半分程の達成率になるわ」
「……それが、普通の人生ってことですか?」
「達成率の統計だけを見ればね」
達成率、なんて分かりやすい評価だろうか。5割程度が普通の人生の基準となるのならば、俺の人生がクソなのも頷ける。1割の達成率では初心者モードの実装をお願いするしかない。
「俺は後悔して悔い改めればいいんでしょうか? 心から改心すれば輪廻転生の輪に加えてくれるんですか?」
「違うわ。私はあなたに幸せになってもらいたいの」
「俺に幸せに……?」
「そうよ。そのためにここに呼んだの。感謝しなさい。ここに呼ばれることなんて滅多にないのだから」
「普通はここに来ないんですね。因みにここをスキップしてどこに行くのが普通なんですか?」
「あなたにはいずれ経験してもらいたいから内緒にしておくわ」
「いずれ?」
随分と遠回しな言い方だ。そして何やら女神様との時間も終わりを迎えそうな雰囲気を感じる。
「そう、いずれ」
「……はあ?」
クスクスと笑いながら、俺に近づいてくる。そこには最初のころの拒絶は存在していない。どこか温かみを感じる面持ちで俺のほほにそっと手を添えた。
「私は、あなたにチャンスを与えたいの。ちょっとだけ無理をしてここに呼ばせてもらったのよ?」
その表情、仕草、鼻孔をくすぐる匂い、女神様の一挙手一投足を俺は目で追った。微かに吐息が掛かる距離まで縮められて距離は、俺のパーソナルスペースを遥かに侵害している。しかし、不快感は一切ない。それどころかどこか安心した気持ちにさせられる。
俺は言葉を返すことができなかった。それでも、女神様は続けて言葉を投げかけてくる。
「あたなはチャンスが欲しいかしら? もし、チャンスが欲しいなら、私はあなたに協力するわ」
「欲しいです。もう一度、いえ、でも」
そこでうつむいてしまった。もう一度、あの人生をやり直したくはない。いや、コンプしたい気持ちはもちろんある。でも、思い返すと嫌な気持ちになる。一歩が踏み出せない。
「大丈夫、あなたなら大丈夫よ。きっかけさえあれば必ず上手くいくわ。女神様である私が保証してあげる」
「本当、ですか……?」
俺は泣いていた。こんなに心が温まったのはいつ以来だろう。思い出せるのは対戦ゲームで一方的にはめられた時に顔を真っ赤にして煮えた時だろうか?
温まるどころか煮えた記憶しかなかったが、俺の心を動かしてくれた。あんなに悔しい思いはしたくない。
「ばいっ……。頑張っでみまず。ずずっー」
鼻をすすり、涙を堪えてそう宣言した。
「そう言うと思ったわ。それでは、あなたにチャンスを与えます」
そう言って、両手を大きく広げた。
俺の体を虹色の光で包み込むように、その両手から様々な光のオーラが発せられている。
「あなたの幸せを願っています」
そう言い終わると、俺を包む光が更に強まった。きっと俺には何かチャンスがあるのだろう。この低いランクを覆せるチャンスが。
自分の体が光に包まれ、段々と感覚が薄くなっていく。薄くなって意識の中で俺は強く決意した。必ず高ランクを獲得してやる。フルコンプしてやると。
「ちょっと待ってください」
ぶち壊しだった。女神様は何とも言えない表情をしている。何度か口をぱくぱくさせてようやく声をかけてきた。
「何かしら。かなりいい雰囲気で送り出したつもりだったのだけれど?」
「さっきのリストを見せてください」
「だめよ」
「無理。見せて」
俺は女神様を無視してEランクの下に行って、おもむろにスクロールをしてみた。
「おお! これって俺がやっても見れるんだな!」
「ちょ、ちょっと! 勝手なことをしないで!」
「嫌」
邪魔されたくなかったから俺は靴下を脱ぎ、女神様の顔めがけて投擲した。洗濯なんてした記憶のない靴下はさぞ香ばしかろう。
「うぉええええ!!」
女神様とは思えない程にえずいていた。
「オロロロロロ」
というか吐いていた。効果は抜群のよだ。