80. バケモノ
「……」
「な、なんだ? 急に叫びだしたと思ったら黙りこんで……」
コロスコロスコロスコロス……
目ノ前ノ男ヲ殺ス。
鋼鉄ノ体ヲ、腕ノ一部ヲ鋭イ刃二変エテ殺ス。
喉ヲ掻ッ切ッテ殺ス!!!
───シュパン!
「ぐっ!? 速い!!」
コロスコロスコロスコロス……
目ノ前ノ男ヲ殺ス。
口ト鼻ヲ銀液デ埋メテ、呼吸サセナクシテ殺ス!
「その手にはのらねえよ!」
……弾カレテシマッタ。
アアダメダナ、コレジャア前ト一緒ダ。
違ウンダ、ソウジャアナインダ。
俺ハ、コロス……
コロス、コロス、コロス……
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…… コロスッ! コロスッ! コロスッッッッッッ!!!!!」
オマエダケハ、絶対ニッ!!!
「ぐぁっ!?」
ナゼダ、ナゼ死ナナイ……!
アアソウカ、コイツハ不死身ダッタッケカ……!
ドウヤッタラ死ヌ?
ドウヤッタラコイツハ死ンデクレル???
取リ合エズ血ヲ全部抜イテミルカァァァァァァァ!?!?!?!?!
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「なっ!? くっ!? 攻撃が、速すぎる!?」
モットダ、モット!!!!
傷口ヲ増ヤシテ、モット血ヲ!!!
「ぐおっ!?」
イッチョ前ニガードシヤガッテ……
デモソンナノハ無駄ダ! 腕ノ肉ガミルミル削
レテイルゾ!
「調子に乗るんじゃねぇ!!!」
男ガ反撃シテクル。渾身ノ一撃を放ッテクル。
放ッテキテ、ソレガ俺ノ体ヲ貫通スル。
「て、手応えがない……!? てか、抜けねえ!?」
「ハハハハハ! ハハハハハ! ハハハハハハハハハハ!!!!! 捕ラエタゾ!」
モウ逃ゲラレナイ、逃ゲラレナイゾ!
サア、オマエノ腹二孔ヲ空ケヨウ!
腕ヲ鋭ク尖ラセテ、何度モ何度モ孔ヲ空ケヨウ!!!
「ヒィイヒャハハハハハ!!!」
「やめ、やめろ……!」
「聞コエナイィィィィィ! ナァンニモ聞コエナイナァァァァァァ!?!?!?
オマエハソレデ止メテタノカヨォォォォォ!?!? 俺ノ! 仲間達ヲ! 見逃シテクレタノカヨォォォォォ!?!?!??」
「な、何を言って……!」
「 アア゛ア゛ア゛ア゛!!! ウルセェ! 喋ンジャネエヨ! …… ヨシ! 次ハハラワタヲ掻キ回シテヤロウカァァァァァァァ!!?!?」
ぐちゅぐちゅぐちゅ♪
グチュグチュグチュ♪
肉ノ感覚ガ心地イイナァ!
もっと掻キ回シテ、ミンチニシマショウネェ!
ぐちゅぐちゅぐちゅ!
グチュグチュグチュ!
愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅ッ!!!!
「ぐあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「な、なんなんだよあれ!」
「あんなものただの化物じゃねえか! ギーグバーン様がやられてしまう!」
アア? サッキカラ外野ガ煩イナ……
誰ガ化物ダ。
化物ッテ言ウノハ、 己ノ身二代エテモ、目ノ前ノ敵ヲ地獄ノ底二叩キ落トストイウ、底知レヌ執念ト悪意ヲ持ッタ者ガソウ呼バレルンダゼ?
アレ? ソレッテ……
「ソレッテ、俺ノ事ジャアアアアアァァァァァァァン!!!!!!
オ、 レ、 ノ、 コトジャアアアアアン!!! アハハハハハ!! アハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
ソウカ、ソウカ!!! 俺ハ化物ダッタノカ!!!!
俺ハ今、コイツラ人間ヲ恐レサセテイルノカ!!!!
ソレダケデモ、転生シタ甲斐ガアルナァァァァァァ!!!!
嬉シイ! 嬉シイ! 嬉シイカラ、モット張リ切ッテイキマショウネ! モット孔ヲ増ヤシマショウネェェェェェ!
「モットダ! モットオマエノ血ヲ見セテクレ!!! 次ハ脳ヲ掻キ廻スカラサァァァァァァァァァ!!!!!」
愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅愚誅ッ!!!!!!
「く、そが……!」
「アアアアアア!?!??!? ナンデマダ生キテルンダヨォォォォォォ!?!?! 死ネヨ! 死ネヨ! 死ネヨッ!!!」
「カルラッ! ダメだよッ!!!」
ドコカラカ声ガ聞コエテクル。
知ッテイル声、アノチョロチョロト俺ノ邪魔ヲシテイタ虫ケラノ声ダッ!!!
引ッ込ンデイロ! 俺ノ邪魔ヲスルナァァァァァァ!!!!!
「きゃっ!」
……アア、モウイイ。面倒ダカラ、ココニイル全員呪イ殺スカ!!!
コノ木刀ノチカラデ、ミンナ殺シテシマオウカ!?!?!?
ドウセ、コンナゴミミタイナ世界、アッテモナクテモ一緒ダロォォォォォ!?!?!
コンナクズ共、生キル価値ナンテナイダロォォォォォ!?!?!
「きゃああああああ!?!?!?」
「なんだあの黒いの!?」
「に、逃げろ! 殺される!」
「でもギーグバーン様がっ……」
「言っている場合か!!!」
「フハハハ、フハハハ! イイゾ、イイゾ! 醜イ人間共! 泣キ叫べ、命乞イヲシロ!!! オマエタチノ嘆キガ、俺ガ生キテイルトイウコトヲ証明シテ…… ナンダ!?」
ドコカラカ発射サレタ魔力弾。誰カガ俺二攻撃ヲシテイルッ!!!
「待ちなさい!」
「……ア?」
アレハダレダ……
コレモ知ッテイル声ダナ……
ダレダッケナ、ダレダッケナ……
少シダケ懐カシイ声ダ、イッタイダレナンダ……
ドウシテ、コンナニ頭ガ痛ムンダ……
「私よ、ビスタよ。 カルラ君、わからないの?」
「ビ、スタ……?」
アァァ…… アアァァァ…… アアアアアアア!!!!
ダメダ、ソノ名前ハダメダ。ソノ女ハダメダ。
ダメダダメダダメダ。
ヤメロ、近ヅイテクルンジャナイ。
俺ガ俺デ無クナル……!
「カルラ君、貴方こんなところで何してるの? 私に自分の答えを見せてくれるんじゃなかったの?」
「ア、ア……」
「これが貴方が見せたかったもの? これが、こんなものが貴方の答えなの!?」
「あああっ、あああああ!!!!」
「見なさい! 私の眼を!」
ダメダダメダダメダ!
ソノ眼ハ魔眼ダ!
ソノ眼ハ危険ダ!
チカラヲ抑エラレテシマウ!
見テハナラナイ! 見テシマウ前二、コノ女ヲ始末シナケレバ!!!
鉄ノ刃デ、首ヲ飛バサナケレバ!!!
「アアアッ! アアアアアアァァァァァ!!!! 死ネェェェェェェェ!!!!」
───────。
ナ、ナゼダ……
ナゼコノ女ハ、マダ俺ノ目を真ッ直グ見テイル……
ナゼ刃ガ届イテイナイ……
コレハ、腕ヲ……
腕ヲ誰カニ抑エラレテイル!?
次カラ次ヘト……! 誰ダ!俺ノ邪魔ヲスルノハ!!!
「ハアッ、ハァッ!」
コレハ、コノ視界二映ルノハ……
オレノ、片腕……!?
空イタ腕ガ、俺の意思二反シテ動イテイル!?
マサカ…… マサカ……!
「ダメダ! 邪魔ヲスルナ! 俺ハ殺ス! 全員殺ス! 全テヲ潰シ、破壊スルンダ!」
───させない。
「クタバリ損ナイガッ! オマエノ出ル幕ジャナイッ! コレハ、元々オレノッッ!!!」
───だとしても。
「だとしてもッ! 私は自分の意思を貫き通すッ!!!! 」
───すっこんでろ! マチュー!!!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!!」
……そうだ。俺は、こんなことをするためにここに来たのではない。
俺の信じる理想を叶えるために、亡きカイゼルの想いを無駄にしないために、そして、ビスタ達を認めさせ、前に進むために、その為に俺は今ここにいるんだ。
「ハアッ……! ハアッ……!」
体はもう大丈夫だ。意識も段々スッキリしてきた。
しかしくそ、呼吸が中々戻らない。
「大丈夫? カルラ君」
そんな俺の身を案じてか、ビスタが俺の方に駆け寄ろうとする。
だが、自分が完全にマチューを押さえ込んだという確証もないので、一歩手前で止まるよう手の平を突き出して制止させる。
「だ、大丈夫です。 でも、どうしてこんな……」
どうして飛び出してきてしまったのか。俺はビスタに問いかけた。
「わかんないわよ、気づけば体が勝手に動いてた。私じゃないと貴方を止められないと思ったら体が勝手に……」
「そ、そんなこと……」
「そんなことってなによ!」
「すみません…… だってほら危険じゃないですか」
「そう思うなら守って、私をここから連れ出してみせて」
ビスタがそう言うと、前後から兵士達が迫ってくる。
「ビスタ・サードゲートだ! 殺せ、殺せ!」
クソが、どいつもこいつも早まりやがって。慈悲なんて一切持ってはくれないな。
「ビスタ、 私の側を離れないでください」
「それってプロポーズの類いだったりする?」
「ち、違いますよ……! こんなときにまでバカ言わないでください……!」
「あら、残念」
ああ、懐かしいなこの感じ。調子は狂わされるけど、自分でいられる感じがする。生きてるって感じがする。
この瞬間のために、俺は今ここにいるんだなって思える。
「全員そこを動くなッ!」
その"今"を失わないために俺は動いた。それすなわち迫り来る兵士を対処すること。
最初から画策していた。しかし、おそらくこの状況でも変わらず有効な手段を用いて。
「う、ぁ……」
「き、貴様……! なにを……!」
俺の命令に、兵士達は止まるしかなかった。
何故なら、俺が側で転がっていた満身創痍のギーグバーンの首を掴んで持ち上げていたから。
「動けばどうなるか、わかりますね?」
「クソッ! 卑劣な!」
「いやまて! ギーグバーン様のお命をそう容易く奪えるわけがない! はったりだ!」
まあ、そうなるよな。実際今の俺にはこいつを倒す手段はない。
銀精剣も、精霊術を使いすぎたゆえに魔力が不足していて撃てない。
だからこれは本当にはったりだ。少しでも怪しまれれば、もしくは少しでもポーカーフェイスを崩したら負けのゲームだ。
だが、一見無謀に見えるこの状況を、俺は今から潜り抜けてみせる。ビスタを、捕虜を、皆を守る。
「はったりだと思うなら、貴方からかかってくればいいじゃないですか?」
「なに……?」
「貴方が先陣を切ればいいと言っているんです。 まあ、もしアテが外れてこの男が死ぬようなことがあれば、全ては貴方の責任ですけどね」
「くっ……! くそっ……!」
しょせん人の心理なんてこんなもんだ。最初の一歩を踏み出すには、相当の勇気を必要とする。
俺の言葉を前に、言い出しっぺの兵士以外も尻込みしているのが目で見てわかる。
この状況で動ける奴なんて唯の一人もいるわけがない。そう確信した。
だというのに……
「何をしている」
兵士達の集団、その奥から聞こえてくる男の声。どこかで聞き覚えのある、冷たい声だ。
その男は臆することなくこちらに向かってきて、その存在に気づいた兵士達はそそくさと道を譲っていく。
そうして、他の兵士の誰よりも俺達に近い場所で止まった。
重厚な鎧兜、素顔は見えない。
だが、俺はこいつの素顔を知っている。 マチューの記憶で知っている。
「大ボスのご登場ですか」
そう、それはこの国のトップ。そしてこの狂った大会を計画した張本人。
そして、今俺が人質にとっているギーグバーンの仲間。かつて勇者と呼ばれていた男。
16代パージェス皇帝ガウス・レーレン・アウシュトロム・パージェス。
俺が最も警戒していた男だ。
ご覧頂きありがとうございました。




