表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/146

60. 波乱

 

 「いやぁ、ダンジョンの中ってなんかドキドキするね~」

 

 「……」

 

 「私も免許は持ってたけど、こうやって探索するのははじめてだな~」 

 

 「……」

 

 

 クリスタル煌めく洞窟の中。ゴルドのダンジョンで鍵を手に入れた俺達は、巻物の指示に従って、リデリアから数キロ離れた場所にある大陸最大のダンジョン《世界柱オベリスク》の内部を進んでいた。

 

 オベリスクはその名の通り、古代文字の碑文が刻まれた巨大な柱のような外観をしている。その高さは雲よりも高く、中に入れる造りをしていることからどちらかというと塔と称した方が適切なのかもしれない。

 

 最大のダンジョンと言われるだけあって、その内部は見た目以上に広く。また、最奥部へは通常のダンジョンとは異なりひたすら上階へ昇っていくことになる。

 現在、最上階へ到達した者は歴史上たった一人しかいないとされるが、その人物の記録は全く残っておらず、それに伴い最上階についての情報は皆無とされている。

 

 そして、確実に記録されている到達記録は64階とされ、それもおよそ50年は前のことらしく、挑戦する冒険者や全容を解明せんとする学者は後を絶えないものの、その進捗状況はあまり芳しくないようだ。

 

 

 まあ、そんなことは今の俺達にはどうでもいいことだ。

 

 何故なら俺達が目的とする隠し部屋は、最上階でも未到達域でもなんでもなく、14階にあるらしいからだ。

 

 オベリスクは上へ進めば進むほどに出現する魔物が強力になっていくが、ぶっちゃけこのくらいの階に出てくる程度なら苦戦することなく楽に撃退出来ている。

 

 まあそれでも、世間一般の冒険者パーティは大体10階辺りで詰んでいるらしい。

 

 いかに俺達四人のパーティの実力が高いかが分かる。

 

 

 「ねえねえカルラ!」

 

 

 ん? 四人? そう思った人もきっといることだろう。

 

 

 ロロは戦力外として、ここにいるのは俺、ビスタ、リサの三人なはずだ。

 

 それが何故四人なのか。

 

 

 「飛行系の魔物は任せてね! 私がこの矢でバシッと落としちゃうから!」

 

 

 そう意気込みながら俺の隣をぴったり着いて歩く金髪の少女。

 

 なんとエミリアが俺達の旅に着いてきてしまっていたのだ。

 

 「……あの、エミリア」

 

 「ん? なに?」

 

 「その、気持ちは嬉しいのですが、やっぱりやめておいたほうがいいんじゃないですか? 危険な戦いになりますし、貴方が無理に関わる必要は……」

 

 「またそれ~? 村でも言ったでしょ? 私カルラの役に立ちたいの。大丈夫! 迷惑かけるようなことはしないからさ!」

 

 

 うん、そういう問題じゃないんっすよね。

 

 

 なんてツッコミは村で散々言ったが、それで退いてくれることは全くなかった。どうやら彼女の覚悟は本物らしい。

 

 でもなぁ、やっぱりこれよくないよなぁ~。

 

 

 「ビスタも何とか言ってくださいよ」

 

 「あら? いいじゃない。実力も申し分ないし、賑やかなのはいいことだわ」

 

 確かに、ここまで来る道中エミリアには何階か戦うところを見せてもらったが、その実力は中々侮れないものだった。

 

 リードヴィーケに伝わる弓術と雷魔法を組み合わせた戦闘方を、彼女はこの五年間で完璧にマスターしており、ビスタと同等かそれ以上の実力を有している。

 

 いや、でもやっぱりそういう問題じゃねえよ。部外者巻き込むのは気が引けてしまう。

 

 しかし、ビスタは特にエミリアが着いてくることに何も問題はないと考えているようで、全く充てにならない。

 

 こうなったら、頼れるのはリサだけだと言いたいところだが……

 

 

 「リサはどう思うんですかッ!?」

 

 「へっ!? えっ、あぁ…… お、お嬢様がそう仰るならいいんじゃないかっ?」

 

 と、残念ながら彼女もこんな感じ。というか、それとは別にしてもリサは数日前から挙動不振なような気がする。

 

 

 

 怪しい、実に怪しい。

 

 

 

 

 とまあ、これからいよいよ世界を渡るというのにイマイチ締まらないまま目的の隠し部屋に来てしまった。

 

 

 そこはさほど広い空間ではなく、ポツンと宝箱が一つ設置されているだけだった。

 

 巻物によればあの中に《ゼファーの笛》なるアイテムが入っているらしいが、アルルカの性格の悪さをよく理解している俺はとりあえずロロに魔力感知を指示する。

 

 

 「たぶんだいじょーぶ」

 

 

 ということらしいので注意を払いながらゆっくりと宝箱を開けてみる。

 

 中には確かにきらびやかな装飾に彩られた口笛が入っていた。どうやらトラップの恐れはないらしい。

 

 

 「これでいよいよ勇者達がいる世界に……」

 

 

 少し感慨深くなって、俺は思わずそんなことを口にする。

 

 

 「綺麗な笛ね、ねえ、私にも見せてくれないかしら?」

 

 

 ビスタはどういうわけか笛の装飾が気になったようだ。

 

 こんな時に呑気だなぁ。なんて思いながらも、俺は何かを気に留めることなくそれをビスタに渡した。

 

 

 「これ笛なのよね? 吹けば向こうの世界に戻れるってこと?」

 

 「ええ、巻物の情報が正しければそうだと思いますよ。吹いた人間とその人が許可した周囲にいる者が一緒に飛ばされるようです」

 

 

 「……そっか」

 

 

 ビスタ少し悲しげな表情を見せて短く呟く。

 

 どうしてそんな顔をするのか俺には分からなかった。向こうの世界に行きたくなくなったのか、戦うのが恐くなくなってしまったのか。

 

 

 そんなことを思いつくが、それは全て見当違いな予想だった。

 

 

 「……リサ!」

 

 ビスタは不意にリサに向かって笛を投げた。

リサはそれが分かっていたのか、焦ることなくキャッチする。

 

 

 

 

 「ビスタ?」

 

 突然の展開に、俺は理解が追い付かなかった。

 

 いったい今何が起きているのか、彼女が何をしようとしているのか。

 

 だから、俺は彼女の名を呼ぶことしか出来なかった。だが、そんなことをしている内にもビスタは次の行動を起こしていた。

 

 

 「えっ?」

 

 

 エミリアに対し手のひらを向けて、間髪入れることなく魔力弾が発射される。

 

 「なっ!?」

 

 わけもわからないまま、俺はエミリアを守るために飛び出した。

 

 幸い魔力弾が当たる直前で割り込むことが出来たが、ちょうどその方向は笛を持つリサの反対側で、気がつけば俺は彼女から離れるように誘導されていた。

 

 

 そうして、リサは何かを堪えるようにして笛を鳴らす。

 

 

 位置の関係からそれを止めることは出来ない。

 

 きっとこれから向こうの世界にワープするのだろう。ビスタのリサは光に包まれていく。だが、俺とエミリア、ロロにはなんの変化もなかった。

 

 だから俺は、ただ光に包まれ消えていく彼女達を立ち尽くして眺めることしか出来ない。

 

 

 「なんで……」

 

 「ごめんねカルラ君…… 貴方の役目はここで終わり、今までありがとう」

 

 

 ビスタの目はどこか冷たく、俺を哀れむようなものだった。

 

 

 「ま、待ってください!」

 

 

 俺は勝手に体が動いてビスタの方へ腕を伸ばす。だが、それが何かに触れることはなく、ただ虚しく空振りするだけだった。

 

 

 

 最悪だ。

 

 

 

 

 こんなことってあり得るのか。

 

 

 

 

 俺は、信じていた仲間達に裏切られたのだ。

 

 

ご覧頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ