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57. 独白 ~リイン視点~


 ───嫌になるぜ

 

 ───どいつもこいつもバカばかりだ。

 

 

 

 「すごい、なんて習得速度だ……! さすがリイン様です、もう私から教えられることは何もありません。

 ですが、己を過信してはいけませんよ、魔法の道とは心の鍛練。それを怠らないものが高みへと進めるのです」

 

 バカ1号、俺に魔法を教えるために呼び出された家庭教師。

 大した実力も無いくせに、偉そうに説法を説いてくる。

 

 テメエの仕事は魔法を教えることだろうがよ、それが出来なくなったならさっさと俺の前から消え失せろ。精神論語ってんじゃねえよ。

 

 

 

 

 

 「リイン、今日は14歳の誕生日ね。……今頃カルラはどうしてるのかしら、元気にしてるといいのだけど」

 

 バカ2号、俺の母親シーシア・セントラルク。

 ことあるごとにカルラを引き合いに出して人の気分を害す空気の読めない奴。

 このときの誕生日も、奴はいねえのに奴の好物を用意したりする。頭沸いてんじゃねえのか。

 

 

 「あの子なら立派にやってるさ、なんせ私の子なんだからな。リインも、負けないように励みなさい」

 

 バカ3号、俺の父親シャーディー・セントラルク。堅物風を装っておきながら、テメエの都合で暴走してスキンシップを強要する勘違い自己満足野郎。

 今までどれだけこいつの身勝手に振り回されてきたことか。

 あいつに同情するわけじゃねえが、このアホの元に生まれついてしまったのは俺達にとって悲劇と言っていいだろう。

 

 

 

 

 

 「なあエミリア、今度の休みどこかに遊びにいこうぜ。たまには息抜きも必要だろ?」

 

 「え? うーん、練習サボるわけにもいかないし、私はいいや。

 カルラが帰ってきたときにメチャクチャ強くなってびっくりさせないとね。もう守られるだけじゃ嫌だもん」

 

 

 バカ4号、俺の幼馴染みで想い人のエミリア・リードヴィーケ。

 俺が勇気を振り絞って誘ったというのに、よりにもよってアイツの名前を出してくる。

 あの日から、こいつの頭の中はカルラカルラでまるで俺のことなんて異性として意識しちゃいねえ。

 

 こいつはバカのなかでも相当の大バカだ。魔導師としても優秀で、将来も約束された俺様をさっさと選べばいいものを、

 修練ばかりでこの年になってもまるで色恋の雰囲気を見せやしねえ。

 

 まあ、たぶんそういう純粋なところに惚れてしまったのだろうがな。ただ度を過ぎるとダメだ。女は男に媚びてなんぼだろうがよ。

 

 

 

 

 分かってねえんだよな。どいつもこいつも凡人だからよ、天才な俺様の崇高な考えなんて、まるで理解が追いつていないんだ。

 

 

 だが、エミリアよりもさらなるバカが一人いる。それが俺の双子の兄、カルラ・セントラルクだ。

 

 アイツはガキの頃から何でもかんでも俺と対立して、ガキ丸出しの感情論を振りかざして喧嘩を挑んでくる。

 

 

 それだけなら張り合いがあってまだ退屈しのぎ程度の価値はあった。だが、謎の原因で俺のレベルが上がったときから、アイツはまるで昔の勢いを失ってしまった。

 どうせ勝てないから、敵わないから。そんな理由で、今まで持っていたプライドを簡単に捨てて俺を避けるようになった。


 

 テメエには俺を引き立てるっていう役割があったのに、それを放棄しやがった。 

 

 

 ガキの頃魔法で勝負したあの日も、俺は遊びのつもりでしかなかった。

 ただエミリアやカルラに俺がすごいって思わせるための余興でしかなかった。

 

 それがカルラの野郎、ファイアーボールもまともに使えねえなんて。あれじゃあ俺が天才だというところを証明する以前の問題だ。

 

 しかも、あのあともちょっと茶化しただけなのに逆上してよ、まるで自分が被害者のように振舞いやがって、アイツのああいうところがことごとく気に入らねえ。

 

 

 聖儀の日も、朝から陰気な面して飯食って、話しかけてもまるで無視。勝手に殻に閉じ籠って、また被害者ぶる。

 

 うぜえんだよな、めでたい日にああいう奴がいると。こっちまで陰気な気分になるから消えて欲しい。腐るなら一人で腐っとけ。

 

 

 そんなこと考えてたら、アイツはあの日の夜にまるで人間が変わってしまった。

 

 

 エミリアが殺されそうになって、俺は足がすくんで動けなかったっつうのに、アイツは俺より弱いくせに飛び出して、エミリアを庇った。

 

 そうしたら、死ぬどころか蔵から武器を取り出してエミリアを助けに行くなんて言い出して、バカを通り越して死にたがりだなんて思っていたら、涼しい顔しながら本当にエミリアを救いだして帰ってきやがった。

 

 

 俺より弱いくせに、俺よりバカなくせに、アイツは俺に出来なかったことを平然とやってみせた。

 

 

 しかも、それは一度に留まらず二度にも渡った。街に現れた盗賊共を、俺達が敵わなかったアイツらを、おまえはたった一日で倒してしまったようだな。

 

 

 俺が倒すはずだった。俺がエミリアを救い出して、俺が領民達から称えられるはずだった。

 

 

 なのに、テメエは出来損ないの癖して俺のものをかっさらいやがった。

 

 

 カルラ、テメエはある意味天才だ。でしゃばっても、大人しくしていても、何をしても俺の心を逆撫でする。

 

 

 

 久しぶりに会ったときも、偉そうに説教垂れやがって。 結局テメエもそこら辺の凡人と一緒なんだよ。

 

 

 

 だがな、テメエは一つ勘違いしている。俺は他人に認めて貰いたいんじゃない。

 

 

 

 ただただ全てを一方的に服従させたいんだよ。

 

 

 

 他人が俺のことをどう思っているとか、そんなことはどうでもいい。

 

 

 地位も名誉も金も女も強さも何もかも全て、俺の圧倒的な実力で思い通りにさせたいんだ。

 

 

 

 

 しかし、そのためにはもう少しだけ俺自身が強くなる必要があるらしい。

 

 

 

 そう、誰にも負けない強さを手に入れれば、生意気な口をきくバカも黙らせることが出来るし、いねえ奴のことばかり気にしているバカも俺に注目せざるをえない。

 勝手なことばっかり言っているバカも自分のおめでたい考え方を改めるだろうし、守られるだけじゃダメなんてほざいてるバカも俺に守ってもらおうと尻尾を振るようになることだろう。

 

 

 

 そうなれば俺はもう最強だ。力さえ手にすれば、俺は全てを自分の思い通りにすることができる。

 

 カルラ、いちいちテメエに振り回されることもなくなる。

 

 

 力さえ手にすれば、魔法が暴発することもない。あのときのような醜態を見せることもない。

 

 

 噂によれば、カルラ、テメエを倒せば莫大な経験値を得ることが出来るらしいじゃねえか。

 

 にわかには信じられなかったが、あのときのことを思い出すと認めざるを得ないな。

 

 俺の力が僅かばかりでもテメエに依存していたという事実に少し怒りは覚えるが、今となっちゃそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 なんせ、俺はもう一度テメエの経験値を頂くからだ。

 

 

 

 

 なあカルラ、俺は思うんだよ。

 

 

 テメエはどうやっても俺の踏み台になる運命にあるんだって。

 

 

 お前が強くなったとか、魔法が効かないとか、五年間修行したとか、そんなことはどうでもいいんだ。

 

 凡人がどれだけ努力したって、どうせ俺には敵わないからな。この前はちぃとばかしミスを犯したが、あんなミスは二度もしねえ。

 

 

 どれだけ活躍して、どれだけ注目され称えられても、俺に負けてしまえば全てがひっくり返るんだ。

 

 

 結局、テメエは俺を引き立てるために生まれたんだ。テメエが成し遂げた何もかも全ては、俺のためのお膳立てに過ぎなかった。

 

  

 だからカルラ、テメエは大人しく俺に負けて、光ある未来の生け贄になってくれ。

 

 

 土の上で惨めに四つん這いになってよ、俺の靴裏を汚さないように、一生俺の靴踏み台になってくれ。

ご覧頂きありがとうございました。

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