49. ゾンビ軍団
小屋を出ると、焦った表情の村人が俺に奴らのことを知らせにきた。
「カ、カルラ様! また奴らが!」
「分かってます、任せてください」
俺は足早に村の入り口に向かった。ビスタとロロは何も言わずに後ろを歩いた。
そしてやはり、さっきの男が大量の仲間を引き連れは村のすぐそこまで来ていた。俺は一通りの精霊術を己にかけ、入り口を遮るように立ち塞がる。
「警告します。これ以上先に進むなら命の保障はしません。今すぐここから立ち去ってください」
「ヒッ、ヒャハハハハ、やっぱまだいたかよセントラルクのお坊ちゃん。いや、最近じゃ銀精剣なんて呼び名があるんだったか?」
男達は止まろうとはしなかった。なので牽制として足元に転がっていた石を投げつける。
男達はそれを簡単に避けるが、その威力に少し驚異を感じたようだ。
「わーお、良い球投げんねぇ。こりゃ全力で行かなきゃやられちまうなぁ?」
男は仲間達に目をやって、戦いの合図を送った。こちらに迫り来る賊共を引き付けながら、俺は一振りの剣を亜空間から取り出した。
一気に踏み込んで、低い体勢からの太股を対象とした刺突。今ので二人片付けたが、敵はざっと数えて30人はいるだろう。まだまだ戦いははじまったばかりだ。
と、俺が振るった剣を見て、ロロが驚くような声を上げる。
「カルラ、それって……」
そう、ロロが指差したそれは、いつもの木刀ではなかった。
それは父から譲り受けたかのレイピア。
殺傷だけを目的とした道具。
俺がこの剣を握ることの意味を、彼女は一目で理解してしまったのだ。
「何も言わないでください。自分で決めたことです」
俺は多くを語らなかった。覚悟なら、父の前で済ましてきた。
「なっつかしいねぇ~、確かそれは俺のここを貫いた、あのときの剣だろォ?」
男は自分の左胸をとんとんと親指でつついてそう言った。実際のところ意識が無いときに刺したはずなので、見覚えはないはずだが。
「マジじゃねえかよ! あんときのクソガキにリベンジ出来るっていうのか!?」
なにやら気になる発言をした別の男のほうに目をやれば、そいつも青白い肌をしている。さらに驚くことに、そいつもその横にいる奴も、五年前俺が戦ったあの盗賊達だったのだ。
確かアイツらは憲兵に捕まったはず。普通の流れなら、後に極刑で死んだはずだ。なぜそんな奴らがここにいるのか。
「ビビってんのかァ? なんでお前らが生きてるんだってビビってんのかァ~?」
男の一人が俺を煽った。
「ええ、正直驚きましたよ。お久し振りですね」
俺は肩を震わせながら答える。
「おいおい!ブルってんじゃねえかよ! 本当に俺達を倒したあのクソガキとは思えねえな!? あのときの威勢はどうしたァ!?」
「倒したなんて、大袈裟ですよ。あのとき私は運がよかっただけです。憲兵が来てなかったらとても貴方達には……」
「ヒャハハ! 正直でいいじゃねえか! こりゃ大した苦労もせず倒せそうだな! 行くぜ!」
勢いづいた男達は、そのまま集団で突撃して俺を取り囲んだ。この陣形には見覚えがある。確か……
「アイス・プリズン!」
そうそう、確かそんな魔法だった。やることは五年前と変わらないんだな。
なんて思っていたら、逃げ場を塞がれた俺の頭上に魔方陣が展開される。
「ヒヒッ、あのときと一緒と思うなよ?」
男はどこか得意気だった。俺は構えて受けようとする。
次の瞬間、魔方陣から猛烈な冷気が俺を襲った。俺は少し驚いた、本当にあのときとは比べ物にならない威力に進化していたからだ。
「ウ、ウワァァァァァ!!!!!」
「カルラ君!?」
ビスタは驚いている。
「や、やった! やったぞ!」
自分でやっておきながら男達も驚いている。
「ぐぅ……!」
俺はその場で跪いた。肺や喉が冷気で凍りつく感覚を覚える。
「なんだよ大したことねえなあ? 期待して損したぜえ?」
「……ハハッまさかここまでとは思ってもいませんでしたよ。 信じられないパワーアップです。何か秘密があるのですか?」
「あん?気になるか? 仕方ねえな、どうせテメエは虫の息だ。冥土の土産に教えてやろうか」
すっかり勝った気でいる男達は、えらく気前がいい。いったい彼らに何があったのか、これで明らかになることだろう。
「あれは五年前のことだ。テメエのせいでコイツは死に、俺達も刑によって間もなく死んだ。でもな、驚くことが起きたんだよ」
「お、驚くこと?」
「ああそうさ。とある御方、俺達の今の主人が、俺達を蘇らせてくれた上に、今まで体験したこともないような甚大なパワーを授けてくれたんだよ!」
「……はっ?」
聞いてみれば、奴はとんでもなくおかしな事を言い出した。蘇る? たかが人ひとりの力で? あり得ない、そんなことがあるわけがない。
「信じられねえよなぁ? でも俺達は今こうして地に足をつけてここにいる。それが何よりの証拠さ」
確かに、奴らが死んだというのはこの俺が誰よりも知っている。信じがたいが、それくらいじゃないと辻褄が合わないだろう。
「それじゃあこの近辺を襲撃しているのはその主人の命令で?」
「まあそういうところだ。もっとも、今は好き勝手してるだけだがな。街の占拠も完了しちまったし、特別新しい命令もこねえ。最近はこうして女と遊ぶか雑魚を殺すくらいしか楽しみがねえのよ」
男達は愉快に笑った。
「それはおかしいですね。話を聞いたところ、住民達には手を出さないとエミリアと約束したはずですが」
「んあ? ハハッ、あーそんなこともあったっけかな? でもよお、そんな口約束俺達が守ると思うかよ?
あの嬢ちゃんもバカだよなぁ? 自分一人が犠牲になれば仲間を助けられるなんて本気で思ってたんだからよぉ? どんだけ自分の事を上に見てるって話だよな!?」
「ハハハ!!! ちげえねえや!!!」
男達は大きく笑い飛ばした。物陰から様子を伺っていた村民達は悔しそうな顔をしている。
そりゃ、自分達を守ってくれた人を侮辱されたんじゃあ悔しくもなるだろう。
だが、彼ら自身にその悔しさを晴らす手段はない。どれだけ想いが強くても、それで奴らに仕返し出来るわけではないのだ。
悔しいのは俺だって一緒だ。距離があったとはいえ、昔から知っている幼馴染みをこうも馬鹿にされて腹が立たないわけがない。
しかし、ここで俺まで激情してしまってはならない。エミリアを救う、この地を救う。それらを全てこなすためには、何よりも情報が必要なのだ。
幸い、弱ったフリをすることによって相手を乗せることに成功している。
何よりも俺が知りたい情報。それはコイツらが何の目的で街を襲撃し、占拠したかということだ。
しかし困ったことにこれ以上の情報を奴らから聞き出せるとは思えない。なぜならあの男はさっき、新しい命令がこないと言った。
それはつまり、コイツらが主人とやらの信用を受けていない末端でしか無いことを意味する。
相手のボスは人を蘇生できるような大物だ。そんなやつが、街を占拠してはい終わり。なんてことがあるか? きっと最終目的はもっと先にあるんだ。
例えば、街から住民を追い出してたのは、邪魔物がいないところでゆっくり作業をしたかったから、とかな。
ただ、こんなアホ共に全ての作戦を教えてしまうと情報漏洩に繋がりかねない。現にコイツらはペラペラと喋ってしまっている。
「……なるほど、理解しました」
俺は独り言を呟いた。
「ああん? 何がだよ」
賊共がその言葉の意味を追求してくる。
「なんでもないですよ、最後に、エミリアと貴方達の主人がどこにいるか教えて貰えませんか?」
俺は主人とやらに会うために、率直に居場所を訊ねた。
「おーっと、そいつは教えられねえなァ?」
と、ここで男は口を閉じてしまう。だが、想定内だ。
「ハハッ、教えられないではなく、単に知らないだけの間違いでは?」
「なんだと?」
俺が煽るようにそう言ってみせたら、男達はまんまとその挑発に乗ってしまった。俺は奴らにも分かりやすいように言い直す。
「下っ端すぎて、上から教えてもらってないんじゃないかって言ってるんですよ。貴方達全員、頭悪いですし」
「舐めてんのかテメエ!?」
「知らねえわけがねえだろうがッ!!」
集団の後ろの方からヤジが飛んでくる。俺はその声に返すように声を大きくした。
「だったら! 証明してくださいよ! 自分達が決して低脳でも下っ端でもないということを!」
ここまで来てしまえば俺の勝利は確定したようなもののはずだった。
しかし怒り狂った賊共は、俺の言葉を聞き入れると一斉に襲いかかってきてそれどころではなくなってしまう。
参ったな、そういう展開は予想していなかった。
……まあ、
一人だけ残っていたらそれでいいか。
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