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47. しょうがねえだろ童○なんだから


 商業都市リデリアは、貿易の要所としての機能も持ち、世界各地から交易用の物資を載せた大型船がこの街の港に集まる。

 

 

 「チケット、大人二枚で」

 

 

 俺達はその港の外れにある。とあるチケットの販売所に来ていた。

 

 本当はロロやリサもいるが、金が勿体ないのでいないことにする。

 

 「はい、ヴァーゲ港行き二枚ね。3万ビスだよ」

 

 俺は提示された金額を黙って渡す。やはりとんでもない大金だ。

 

 実のところ、俺達はリデリアから出る定期便に乗ってセントラルクへ向かおうとした。

 もちろんそれだけで行ける場所ではない、俺の故郷は海から離れた山深い場所だ。

 ヴァーゲというゴルド領最南端の港街まで船で行き、そこからはまた別の移動手段を考える必要がある。 

 

 これだけだと、必ずしも大金を払ってまで船なんかに乗る必要があるのかという疑問が出るかもしれないが、もし船を使わなかったら10倍の日数、つまり1ヶ月近くの日を要するだろう。

 

 残念ながらそんな時間を浪費するくらいなら俺は迷わず金を使う。下手に陸を移動していると、俺を狙う連中と出会す可能性が高まってしまうしな。

 

 

 

 「おまたせしました。行きましょうか」

 

 

 後ろで待っていたビスタにチケットを一枚渡し、俺達は停船所へと向かう。

 

 都合のいいことに、次の便はもうすぐ出るそうだ。

 

 

 

 「おっきい船ね、こんなの私の世界で見たことないわ」

 

 彼女は目の前にそびえる木造のオブジェクトを見上げて感想を漏らした。その大きさは一つの城と言われても不思議じゃない。

 

 こんなに大きな船が約100人の乗客を乗せて海を渡航するというのだがら、驚きなものだ。

 

 

 「お肉食べられるかな!」

 

 

 ロロは相変わらず食い意地を張っている。

 

 

 俺達はそのまま船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 「二泊三日、ここで過ごすことになります。あと、もう察しはついていると思いますが……」

 

 そこは船内の一室、ロロを除けば俺とビスタだけしかいない空間。俺は説明しようとしたが、どうにも歯切れが悪くなってしまう。

 

 ビスタは腕を組んで俺の言葉を待っていたが、痺れを切らして自分から口を開いた。

 

 「今回は部屋を分けないって言いたいんでしょ? 別にそんな気を使うことないわよ」

 

 「え、あ、そうですか?」

 

 「あら? なにか釈然としないリアクションね?」

 

 

 

 ビスタはあのイタズラっぽい眼差しを俺に向けてクスリと笑う。

 

 何かを見透かされそうな気がして、俺は目を逸らした。

 

 しかしだ、年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりするなど、彼女はなんとも思わないのだろうか。

 

 いや、あの様子を見る限りなんとも思ってないのだろう。つまり、俺を男として意識していないということか。なんだか悲しくなってきた。

 

 まあ、リサもいるしな、本から変な気を起こすつもりなんてない。これはあくまで節約と安全のためだ。

 

 なんせ個室を二つとると3万ビスから5万ビスに跳ね上がるからな、流石にそれだけ出すほどの余裕はない。

 

 

 「にしても3日間こんなところに閉じ込められるなんて退屈ね」

 

 「はい、でもそれもちょうどいいかなって」

 

 「ん?」

 

 「ビスタ、世間話しましょう」

 

 「んえっ?」

 

 

 突然の誘いに、ビスタは驚いている様子。そりゃそうだ、彼女は昨日の俺とリサの会話を聞いていないのだから。

 

 

 「いやね、昨日の夜リサと少し話をしたんですよ。そのとき彼女が、これから共に戦う者同士、互いのことを知る必要があるんじゃないかって言い出して」

 

 「リサらしいわね」

 

 「はい、それで、ビスタのこともっと知りたいな~っと思いまして」

 

 「……ふぅん、まあいいわ。そうね、コミュニケーションは大事だわ」

 

 少し溜めがあったが、なんとか了承してもらえたみたいだ。

 

 

 「賛同してくれたみたいでよかったです。それで、リサはまだ寝ていますか?」

 

 3人でお喋りする約束だったので、俺は他意なくそんなことを質問した。

 

 しかし、なにを勘違いしたのか、ビスタは俺の予想していたものとは異なる返答をする。

 

 

 「まだ寝てるようだけど…… 私だけじゃ嫌?」

 

 別にそんなつもりで聞いたわけではないのだが、彼女はえらく不安そうにこちらを見てくる。

 

 

 なんというか、なんだろう。

 

 

 昨日と今日とでビスタの様子が少し変わった気がする……?

 

 まあ、大人しいならこちらとして好都合だ。

 

 

 「……なによ」

 

 「えっ、いや、なんにもないです……」

 

 

 前言撤回、なんなら昨日より気まずくなってる。

 

 

 「それで? いったい何を話すっていうの?」

 

 「え、あ、うーん…… そこまで考えてなかったです」

 

 

 予想だにしてなかった事態、まさかの何を話したらいいのか分からない。

 

 いや、そもそもこういうお喋りって改まってするものなのか……?

 

 もっとこう、自然な流れで移るものだったのでは……?

 

 

 「カルラずっと森に籠って修行ばっかしてたから、こういうのに免疫ないんだねぇ、……なんかごめんね」

 

 

 適当なこと言ってんじゃねえよ。ぶっ飛ばすぞテメエ。

 

 女子とトークなんて俺にだって出来るわい。

 

 

 ……とは言ったものの、切り出し方が分からない。

 

 

 

 「……それじゃあカルラ君のこともっと教えてくれないかしら」

 

 見かねたビスタから助け船を出されて、いよいよ俺の大切な何かはズタズタにされてしまった。

 まあ、今はその優しさに甘えるとしよう。

 

 「でも、私のことなんて……」

 

 「何でもいいわよ、特技とか、好きな食べ物とか。 あっ、昨日の双子の弟君とのことなんて気になるわね、双子ってどんな感じなのかしら。もちろん話せる範囲でいいけど」

 

 「特技、ですか…… あ、若干一発芸みたいなところありますけど、一つありますよ」

 

 

 「あら、いいわね、是非見てみたいものだわ」

 

 彼女は手を合わせて目を輝かせる。

 

 

 「あー、うーん、ちょっと屋内は危ないですね、なんせ火を使うので」

 

 俺が断ると、ビスタは少ししょんぼりしてしまった。意外と本当に見たかったのだろうか?

 

 

 「残念ね、なら今度見せてもらおうかしら」

 

 

 「ええ是非、それまで練習しておきますよ。……それでええと、次は好きな食べ物でしたっけ」

 

 「ロロはお肉が好きー!!!」

 

 

 ロロの飛び出す頭を思わず手で押さえ込む。誰もお前の話はしていない。

 

 「あ、すみません、ロロがうるさかったもので」

 

 「フフ、活発なのね、ロロちゃんは」

 

 「元気すぎますよ、まったく…… で、好物はズバリこれですね」

 

 そう言って俺は亜空間から一つの包みを取り出した。

 

 

 「……なにこれ?」

 

 

 「豆を煎ったものです。素朴な味ですが、香ばしくて美味しいんです。 一つどうですか?」

 

 

 ここで一つ言及しておこう。実のところ俺の豆に対する愛は異常だ。一生豆しか食えなくなっても、むしろ喜んでしまう程だ。

 

 意外だろうか? いや、マガンタの豆料理を食べしまえば、誰だってそうなるだろう。あのとき食べたマッシュビーンズの感動は、今だって忘れはしない……

 

 おっと、話が逸れてしまった。結局のところ何が言いたいかというと、俺は彼女のリアクションをとても気にしているということだ。

 

 もしも不味いなんて言われてみろ、俺は気が狂ってこの部屋を出て海に飛び込んでしまうかもしれない。

 

 

 

 

 「それじゃあ頂こうかしら…… あ、美味しいわね」

 

 「!!!!」

 

 幸い悪くない反応だった。客観的に見ればただのお世辞だと捉えることも出来る。

 

 だが、距離感とテンションを掴み損ね、ここまで大して会話が弾まなかったことを危惧した俺は、ここぞとばかりに盛り上げようと暴走してしまった。

 

 「分かりますか! 豆の良さが! 実はこの豆知り合いが独自に栽培している品種で、他所じゃまずお目にかかれないんですよ! なんと言っても、ずっと噛んでいるとほのかに感じる甘味とコクがいいですよね! 今は保存性のために煎ったものしかないですけど、機会があったら是非湯がいたものを食べてください! 旬のものを塩茹でで頂き、素材の味を堪能する。これ以上の贅沢はありませんよ! あと……」

 

 

 「カルラストォップ!!」

 

 せっかく勢いづいたというのに、ロロが後ろから頭を叩いて制止を求めてきた。

 

 いったいなにをするんだと思ったが、ハッとなってビスタの方を見てみたら、案の定彼女はドン引きしていた。

 

 

 「か、カルラ君って意外と熱くなりやすいところあるわよね」

 

 

 その眼差しの痛々しさたることや、やっちまったと俺は後悔した。

 

 

 

 

 

 リサ、早く出てきてくれ。

 

 

 

ご覧頂きありがとうございました。

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