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45. 仲間だから


 

 「何処かに出口は……!」

 

 「あ、見てカルラ! あんな高いところに!」

 

 

 リインを担いで出口を探していると、ロロが見上げるように言ってきた。

 

 それで上の方を見てると、元の公園らしき景色が覗けるヒビのようなものが空間に出来上がっていた。


もしかしたらあそこから脱出出来るかもしれない。対話の成果は多少なりともあったということか。

 

 俺はわずかな希望に賭けることにした。



だが、あんな高い所に届くには一筋縄ではいかない。 


 

 「それでも諦めるわけにはいかない!」

 

 俺は《繰主奈》を使って筋力を高め、ぐぐっと足に力を溜めた。

 

 「はあっ!」

 

 そして次の瞬間、溜め込んだ全てを一気に開放させて大ジャンプする。

 

 

 「くっ!もう少し……!」

 

 だが、ヒビの端に手をかけようとあとほんの少しのところで届かない。俺は諦めて、ヒビのすぐ下にまで伸びていた崖に手をかけた。

 

 まあ、このまま登っていけばすぐに辿り着けるだろう。

 

 

 「がんばれカルラー!」

 

 飛ぶことの出来るロロは、上から声援を送ってくる。俺はそれに応えるように、一つ、また一つと崖を登っていく。

 

 

 しかし、

 

 

 「なっ!?」

 

 

 無慈悲にも空間がまた揺れて、その衝撃で俺が掴んでいた部分が崩れてしまう。

 

 

 

 もちろん俺はそのまま一番下まで真っ逆さま…… とはならなかった。

 

 ビーン! と、紐に吊るされるような感覚。

 

 

 「え!?」

 

 俺とロロが驚きながら向けた視線の先には、ヒビの向こうから深紅の鞭を伸ばして俺を捕らえるビスタの姿があった。

 

 

 「お、もたぁぁぁい……!」

 

 

 よく見ればビスタの腰を後ろから引っ張って支えるリサの姿もある。

 

 

 「ッカルラ! ビスタ達にも《繰主奈》かけよ!」

 

 

 ロロの咄嗟の判断に従い、俺は彼女にも筋力補正をかけた。

 

 すると停滞して宙ぶらりんになっていた俺達の体がズルリズルリと引き上げられていく。

 

 

 

 

 

 「……ッハア!」

 

 

 そうして俺とリインはあの空間を無事に抜け出すことに成功した。

 

 後ろを振り返ると、ヒビが少しづつ狭くなっていた。危ないところだった。

 

 

 「た、助かりました。でも二人はどうしてここに……」

 

 

 そう、俺は確か待っておくように伝えたはずだ。なのに彼女達はなぜここにいるのだろうか。

 

 

 「ああ、それはだな……」

 

 そんな俺の問いかけに、リサは少し返答に困ったようで、チラッとビスタ達の方を見た。

 

 そして、リサの代わりに話そうと言わんばかりに、ビスタが一歩前に出る。

 

 

 「きまってるじゃない、助けにきたのよ」

 

 

 ビスタは腰に手を当てさも当然といった風だった。心なしか少しだけ不満気な表情をしている気がする。

 

 「でも、危ないから待てと……」

 

 「危ない? 私がカルラ君だけを危ない目に合わせると思う?

 さっき目を覚ましてリサから話を聞いたけど、そこで伸びてるのは貴方の弟らしいじゃない?」

 

 「ええ、だからこれは私達身内の問題、ビスタ達を巻き込むまないように……」

 

 「違う。カルラ君、貴方全然分かってないわ。いい? 私達は仲間なの、仲間が仲間を助けようとするのは当たり前のことなの。それが例え兄弟の揉め事だとしても、私達には巻き込まれる責任があるの」

 

 ───仲間が仲間を助けるのは当たり前のこと。

 

 ビスタはずいっと俺に顔を近づけてそう言った。彼女がそんなことを言うなんて少し意外だったので、俺は驚いて、黙って話を聞くしかなかった。

 

 「それにね、貴方は仲間以上に私の眷属なのよ? 私の許可なく勝手に動いて、危険なことしないでよ」

 

 「でもあの状況じゃ……」

 

 

 あの状況じゃ、ああするしかなかった。

 

 俺はそう言おうとしたが、遮るようにビスタが俺の胸にもたれかかってきたので言えなかった。

 

 「ちょ、ビスタ!?」

 

 戸惑いを隠せない俺。

 

 

 「心配させないでよ……」

 

 

 彼女は顔を見せずにそれだけ言った。

 

 それ以上の言葉は必要なかった。どうやら俺は、ビスタに申し訳無いことをしたようだ。

 

 

 「……すみません」

 

 

 しばらくの間続く静寂。

 

 

 誰もそれを邪魔しようとはしなかった。

 

 

 「んっ……」

 

 

 そして彼女は顔を上げて俺から離れた。

 

 

 「今日みたいなことは二度としないで、約束」

 

 「はい、約束です」


 彼女は小指を差し出してきて、俺はそこに自分の小指をかけた。

 

 どうやら、この小指と小指を結び合って約束を交わすポーズは向こうの世界でも共通なようだ。

 

 

 

 「んぐっ、ああッ!」

 

 どうやらリインが目を覚ましたようだ。唸るような声を上げて、自力で身を起こす。

 

   

 「ここは……」

 

 「元の場所ですよ」

 

 念のため、俺はビスタの前に立ってリインに声をかけた。リインは頭が痛むのか、額に手を当てて周りを観察している。

 

 「ビハップの奴らは…… いねえか、まあ所詮は雇われの連中だしな」

 

 まるで俺を無視するようにリインはポツリ呟いた。

 

 「他の三人は動けるようになるなり一目散に逃げ出したが…… ほら、もう一人はあそこに残っているぞ」

 

 リサはそう言って木の物陰を指差した。

 

 俺とリインがそっちに目を向けると、そこには半裸の少女が恥ずかしそうにしながらこちらの様子を伺っていた。

 

 

 「……チッ」

 

 

 リインは少女を見てひどくつまらなさそうな顔をして、俺達に背を向け彼女の方へ歩きだした。

 

 俺達は警戒しながらもそれを黙って見送ろうとしたが、奴は途中で立ち止まって、俺の顔を見てこう言った。

 

 「……カルラ!」

 

 「はい?」

 

 「これで終わったと思うな! 俺は近い内必ずお前を倒しにくる! いいか、必ずだ!」

 

 つまりこれは宣戦布告ということなのだろうが、俺は何も言わずにただ受け止めることだけに留めた。

 

 リインはそれを確認して再び歩き始める。

 

 

 そして少女の側まで行ったかと思えば、乱暴にコートを脱ぎ捨てて半裸の少女に貸し与えたようだ。

 

 そして少女は慌てたようにリインの後を着いていき、やがて二人は姿を消した。

 

 

 「ねえカルラ君、どうしても一つだけ聞きたいのだけど」

 

 

 「えっ? あ、はい、なんでしょう」

 

 「あの子の服は貴方が破いたの?」

 

 

 「へっ!? えっと、そのぉ……」

 

 俺はドキッとして、改めてビスタの顔を見てみれば、彼女は疑うような視線を向けていた。

 

 

 「あとあと、私の下着姿見たの?」

 

 

 「み、みみみみみ見てない見てない!見てないです!!!」

 

 抗弁するが、すればするほど彼女の威圧感が増していく。

 

 たまらず俺はリサに助けを求めた。

 

 

 「あ~、うん、そのまあなんだ。……ドンマイ!」

 

 

 どうやらこの場に俺の味方はいないようだ。

 

 

 「さあ! おもしろくなって参りました! カルラ氏史上最大のピンチ! 彼はいったいどのようにしてこの局面をきりぬけるのでしょーか!」

 

 ロロもはしゃいでそんなことを言っている。

 

 

 

 うんまあ、やむを得なく見えてしまったのは事実だ。でもそれだけだ、別に触ってもいないし嗅いでもいない。

 

 

 けっこうあるな…… なんて感想は抱いたが、俺は一切やましいことは考えていない。

 

 

 無実だ。俺は無実だ。

 

 

ご覧頂きありがとうございました。

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