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30. 悪魔を産み出す悪魔


 

 新たな決意を胸に秘めて、打倒勇者を目指してカルラの戦いはこれからも続いていく。

 

 それは間違っても楽なものではく、立ちはだかる敵は決して少なくはないだろう。そして、ここにまた一人、カルラの前に立ちはだかろうとする者達がいた。

 

 私達は知らなければならない。この男のことを。

 

 目を逸らすことなく見届けなければならない、これから起きる悲劇を。

 

 

 

 これはカルラ達が地上に戻る数時間は前のこと。

 

 街へ通じる道路を逸れて、夜更けの森奥深くを静かに進んでいくのは、1台の馬車。カルラがタダ乗りしていたあの馬車だ。

 

 その荷台の中には、やはりカルラに懲らしめられた五人兄弟の盗賊達が、縄で手足や口を縛られ身動き出来ずに積まれていた。

 

 ろくに舗装もされていない野道を無理に進んでいるためか、車内の震動は大きなものとなっている。

 

 

 「ふご、ふごごごごご! ふごふご、ふんごふんご!」

 

 最も知識が豊富で頭のキレる三男、サブローは口を抑えられ上手く発音できないと分かっていながらも喋ろうとした。もちろん言葉として成立してはいない。

 

 「ふごふごふごふーご!!!」

 

 だが、生まれた時から彼ら五人はずっと一緒に生きてきた。彼らにしか分からないシンパシーのようなもので、その会話を成立させる。

 

 サブローは言った。やっぱり何かがおかしい、この馬車は街に向かうはずなのに、全く違う場所に向かっている気がする、と。

 

 

 兄弟達のリーダー的存在の長男、イチローはそれに答えた。

 

 

 ビビってんじゃねえ! 隙を見て逃げ出すんだよ!と。

 

 

 皆に檄を飛ばすイチローだが、やはり彼らの表情は暗い。行き場のない不安が、皆の心を捕らえて離さない。

 

 

 そうしている内に、いよいよ馬車が止まった。確認するまでもなく、そこはやはり深い森の中。

 どこからか聞こえてくる、やけに乾いた野鳥の鳴き声は、決して街の中で聞けるものではない。

 

 サブローは荷台の被せ布に耳を当てて澄ませた。外の状況を把握するためだ。街の憲兵に突きだすと言っていた行商人が、なぜこんなところに来ているのか、その真相を確かめる必要がある。

 

 

 「お前が時間に遅れるとは珍しいな。何かあったか?」

 

 「申し訳御座いません。道中アクシデントがございまして……」

 

 サブローはさらに耳を押しつけた。商人以外の誰かの声がしたからだ。会話の内容から推測すれば、彼らは待ち合わせをしていたということになる。

 

 「まあいい、君と私の間柄だからな。それで? 銀精剣はどうだった?」

 

 「噂以上の実力でしたよ。しかも用心深く、終始私のことを警戒しているようでした。馬車に乗るよう誘っても、ことごとく断られてしまって、 せっかくの睡眠薬入り葡萄酒が台無しですよ」

 

 「ハハハ、男にもフラレるようじゃあ、いよいよその贅肉を絞ったほうがいいんじゃないか? ……と、冗談はさておき。君のことだ、代わりは用意してるのだろう?」

 

 「ええ、拾い物ですが五匹、殺さずに持ってきました。中々に使えそうですよ、久しぶりにソレを増やせそうです」

 

 

 そう言って商人は荷台の側面に回り、荷台に張られていた被せ布を翻した。

 

 盗賊達はそこではじめて外の状況を目の当たりにすることになる。

 

 

 

 

 そこは墓場だった。

 

 

 

 

 人はおろか、獣も寄りつきそうにない寂れた墓場。

 

 

 

 それまで、相手はたったの二人だと推測していた盗賊達は、隙を見て逃げ出すか、反撃してやろうと目論んでいた。しかし、そのとき全てを諦めた。

 

 

 そこにいたのは二人だけではなかった。

 

 

 

 「キキキキキキキキキキキ」

 

 

 

 聞く者平等に恐怖を植えつける不気味な笑い声。

 

 

 それは一つではない。幾重もの笑い声が重なり、その声の数だけ禁忌の魔物は確かにそこにいた。

 

 

 

 数えきれないほどのドゥームレイダー。

 

 

 

 

 

 それは決して分身でも幻でもない、れっきとした本物の個体が、何体もそこにいたのだ。

 

 

 言うなれば、ドゥームレイダーの集会。

 

 

 生ぬるい風が、絶望で震える盗賊達の肌をヌラリと撫でた。まるで食物を舌で転がし味見をするように。

 

 

 「かわいそうに、こんなにも怯えてしまって。……なあに、恐れることはない、少し眠って、次に目覚めたときにはもう君達は我等の仲間だ」

 

 先程商人と会話を交わしていた男は、そう言っておもむろに一握りの粉を盗賊達に振りかけた。

 

 「ン゛ン゛ーー! ン゛ン゛ーー!!!」

 

 我に帰った盗賊達は叫んだ。力の限り、魂の限りを振り絞って叫んだ。

 

 直感的に理解したのだ。自分達がこれからどのような目に会うのかを。ただでは死ねないということを。

 

 粉に触れた部分から、盗賊達の体に変化が起きていく。彼らは今まさに人ならざる者へと姿を歪めらようとしていた。

 

 

  「ウ、アウ……」

 

 

 しかし、たちまち彼らはもう何も言うことはなくなっていた。魂の限り叫んでいたはずだが、その魂すらも歪められてしまっていたからだ。

 

 

 

 「キ、キ……」

 

 

 

 歪められた魂は、叫び方も忘れ、ただ笑うことしか出来なくなっていた。

 

 「キキキキキキ、キキキキキキキキキキキキキキキキ」

 

 

 

 長い手足、剥き出しの歯。

 

 

 立ち上がった5体は、身に纏っている衣類こそ違えど、間違いなく彼らと同じ姿へと変わり果てていた。

 

 

 「ようこそ、不死の世界へ」

 

 

 

 古来よりその凶悪さと強大さから禁忌の悪魔と恐れられるドゥームレイダー。

 

 皆その名を恐怖の対象として記憶に刻み込んでいるが、その起源を知る者は誰一人としていない。

 

 その個体全てが、とある一人の男によっていとも容易く産み出されているということを。

 

 

 

 

 その男の名はアベル。世界に混乱を招こうと暗躍し、そう遠くない未来、カルラを脅かす者。

 

 

 「……それでは私はこれにて失礼。次こそ銀精剣を仕入れてみせますよ」

 

 「ああ、よろしく頼むよ」

 

 

 商人が立ち去り、残ったのはアベルと狂喜乱舞するドゥームレイダーの群れ。

 

 彼はそれらをまるで有象無象のものと言わんばかりに気に止めることもなく、月浮かぶ夜空を見上げた。

 

 「光陰矢の如し、だな」

 

 感慨深そうに呟く彼の姿は、どこか儚げ。

 

 

 その真意は誰にも分からない。

 

 

 取り巻き共は笑うだけ。

 

 

 永久の踊りを踊るだけ。

ご覧頂きありがとうございました。これにて一章の終了となります。

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