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27. 契約


 「……んっ」

 

 小鳥のさえずり、そよぐ風。突き刺すような光を浴びて俺の意識は浮上する。

 

 

 どこからか聞こえてくる小さな音、これは、水の流れる音だろうか。

 

 

 水……

 

 

 水……

 

 

 

 水!?

 

 

 「うおぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

 気がつけば俺は地上に帰ってきていた。岩壁に囲まれたキャンプ場みたいな空間、間違いなくダンジョンの入り口だったあの場所。一つ違うのは、すでに天高く太陽が登っているということだ。

 

 いったい、いつ、どうやって戻って来れたのだろうか、俺はあのとき間違いなく濁流に飲み込まれて……

 

 

 

 「あら、起きたのねカルラ君」


 

 

 自分の記憶を思い返していたところに声をかけてきたのは、ダンジョンで出会った桃髪の少女。あんなことがあったのに、ぴんぴんしている。

 

 「ええ、ここには貴方が?」

 

 「いいえ、私もあの洪水に飲み込まれて気を失って、気がつけばここにいたの」

 

  

 彼女もなにもわからない、か……

 

 

 いったい何が起きたのだろう、考えられるのは、洪水に流された行き先とあの滝の向こうが繋がっていたとかだろうか。

 

 まあ、考えても仕方ないか、それよりも結果的に皆無事に地上に出ることが出来たことのほうが重要だ。

 

 

 って、皆?

 

 

 ロロは!?

 

 

 

 「私ならここだよ~」

 

 

 

 おお、よかった。ちゃんと生きてた。どうやらリサも彼女の影の中か、なぜか耳だけ見えてる。

 

 ということは、本当に全員無事だったんだな。

 

 

 「にしても、獅子奮迅の活躍だったわね。最後の一撃、見事だったわ」

 

 

 「ええ、おかげさまで…… じゃない、そうじゃないですよ! あのときはよくも人のことハメてくれましたね!?」

 

 「あら? 結果的にうまくいったんだからよかったじゃない」

 

 「そういう問題じゃない……! あなたは「契約」と言った。 つまり力と引き換えに私は何かを提供しなければならないと言うことです。 違いますか!?」

 

 「あら、あのときと違って冴えてるわね」

 

 自ずと怒気のこもる俺に対し、クスクスと愉快に笑う少女。こんな状況だというのに、いちいちドキッとするから腹立たしい。

 

 だが油断してはならない、コイツはどさくさにまぎれて人を陥れた悪女だ。 地上に出た今、また敵同士に戻ることだって……

 

 そんなことを考えていたら、突然ロロが俺の肩を叩いた。不審に思われるので口元を抑えた状態での会話となる。


 「ちょいちょいちょい」

 

 「なんですか?」

 

 「いや、カルラもしかしてあの女の子のこと悪い人だと思ってるんじゃないかなって。多分だけど、それ違うよ」

 

 「どうして、そんなことが分かるんです?」

 

 「だってこの子、目を覚ましたとき、ワンちゃんが無事だって分かったら、真っ先にカルラのこと心配してたもん」

 

 「……」

 

 「しかも、なんか魔法でブワァ~ってカルラの服乾かしてたし、じんこーこきゅー? もしてたよ。悪い人が、そこまでするかなぁ?」

 

 確かに、地上に出てしまった今俺なんか半分用済みの存在でしかないはずだ。それをわざわざ介抱するのは、悪人には出来ないかもしれない。

 

 って、あれ?

 

 

 「ロロ、今なんと?」

 

 「ん? じんこーこきゅー?」

 

 

 じんこーこきゅー……


 じんこうこきゅう?

 

  

 

 「じ、じじじじじじ人工呼吸!?」


 

 

 人工呼吸ってあれか!? あの、口と口を重ねてする、あの……!!!

 


  

 

 「チューってしてた!」

 

 

 マジかァァァァァァァ!!!!!!!

 

 うわ、マジかァァァァァァァ!!!?!!?!?

 


 うそん!? 俺のファーストキス、寝てる間に終わってた!? えーまじか、そんなことある!? 

 

 

 「どうしたの? 顔が赤いようだけど……」

 

 「!!!!! なんでもないです!」

 

 え、ちょ、うわぁまじか、流石にこれは動揺が隠せない。もうこの少女が敵か味方かとか、どうでもよくなってしまった。

 

 てか、この子はなんでそんな平気でいられるんだ。やっぱアレか、こんな見た目だし経験豊富だったりするのだろうか……

 

 

 いや、そんなこと言ってる場合じゃないな、そもそも俺は契約についての大事な話をしていたはずだ。話を戻そうそうしよう。

 

 

 「……こほん。それで、何か代償があったりするんですか?」

 

 「うーん、まあ代償ってほどでもないんだけど……」

 

 「もったいぶらずに」

 

 「はいはい、まあ、端的に言うとあなたはあの契約によって私の眷属になったわ。よく言うと家族、悪く言うと下僕ってとこかしら」

 

 いやいやいやいやいや、ちょっと待て。今のは聞き捨てならんな。

 

 眷属? 家族? 下僕???

 

  冗談だろ? 代償ってほどでもあるだろうが!!!

 

 

 「詳しい説明を求めます!」

 

 「もう、そんなに興奮しないでよ、家族って言っても、番になったとかじゃないんだからね?」

 

 

 わかっとるわい、アホンダラ! そんなふうに浮かれてられる状況じゃねえよ!

 

 

 「それで詳しい説明、説明ね…… それじゃあ逆に質問することになって申し訳ないのだけど、契約の直前に私が一つだけ質問したの覚えてる?」

 

 「ええ、どうして貴方を守ったのか、でしたっけ」

 

 「そう、あのときあんな質問をしたのには理由があったの。貴方が相応しいかを確めるために。あの契約はね、すれば誰でも力を得れるってわけじゃないのよ」

 

 「つまり、あの質問は私に力を得る資格があるかを見極めるためのものだったと?」

 

 「資格というのもまた違うわね、どちらかというと適正を計るためと言った方が正しいかしら。っと、ここまで言ったら想像つくんじゃない?」

 

 

 またもったいぶりやがって……

 

 でもまあ、確かに今ので大体わかった。彼女は、俺が何度も守ろうとする姿を見て、適正があるのではと思い、そして例の質問をしてきた。

 

 つまりキーワードは、「守る」こと。

 

 

 この結論から見いだされる答えは…… 

 

 

 「貴方を守りたいという想いが、力を得るのに必要だった?」

 

 「ご名答。守りたいと思えば思うほど強大な力を手にし、逆になんとも思ってなければ、なんの変化も起きない。あの契約がもたらす力はそういうものだったのよ」

 

 ほー、なるほどなるほど。

 

 ……っておい、ちょっと待て。

 

 そうすると俺があんな力を得たのは、つまり彼女のことをめちゃくちゃ守りたいと思っていたということか?

 

 なんかそれスッゲェ恥ずかしい。でも実際のところどうなんだ? 俺はめちゃくちゃパワーアップした部類に入るのだろうか。

 

 気になるけど聞き辛いな……

 

 

 

 

 

 

 ええい、どうせ相手には分かってることだ。この際どうとでもなってしまえ!!!


 

 「ちなみに、実際のところ私の適正は高かったんですか?」

 

  

 俺は半ばヤケクソ気味に質問した。心情を察せられると困るので、なるべくポーカーフェイスを貫いたつもりだ。

 

 意外だったのは彼女のリアクション。てっきり今までのようにイタズラな笑みを浮かべるのかと思っていたら、意表を突かれたように眉の上をピクリと動かしたのだ。

 

 

 マズイことを聞いてしまったか?


 

 「んー、まあ、そこそこね」

 

 「そこそこ?」

 

 「うん、そこそこ」

 

 なんか釈然としない答えだったな。まあ、めちゃくちゃ高くなかったらそれでいいんだ。無理な追及はやめておこう。 


 「で、話を戻すけど、最初に言ったとおり、力を得た者は私の眷属になる。そして、ここからは貴方にはとっては少し不都合でしょうけど、眷属となった者は役目を果たしていかなくちゃならないの。手に入れた力を用いて、主人を守るという役目を」

 

 「いや、それ、普通に困るんですけど」

 

 「あら、それは残念。何かやりたいことでも…… って、そういえば貴方、あの部屋の向こうに用があるんだったわね。しかも、リサによれば誰かを倒すためなんて物騒な理由で。 ちょうどいいわ、今度は貴方の話を聞かせてくれない?」

 

 え、俺の意志はスルー? このまま下僕確定?

 

 ツッコミたいところだが、地上に案内して質問に答えると約束したのは紛れもない俺自身だ。この話はいったん置いておいて、仕方ないから素直に教えてやるか。

 

 「えーと、そうですね。これもどこから説明したらいいものか……」

 

 「それならこちらが質問するから、貴方はそれに答えてくれればいいわ ……っとその前に」

 

 そこまで言って、彼女は何を思い立ったのか、突然立ち上がってはスカートの裾を軽くつまんでお辞儀してきた。

 

 そこら辺の娘にはとても真似できそうにない、小慣れていて無駄のない動作だ。

 

 

 「?」

 

 

 「ほら、自己紹介がまだだったじゃない? 私の名前はビスタ、ビスタ・サードゲートよ。よろしくね、カルラ・セントラルク君」

 

 自らをビスタと名乗った少女は、こちらを惑わすかのように微笑んだ。

 彼女の笑顔は何度も見てきたが、今のは特に鮮烈な印象を受けた。眩しいったらありゃしない。

 

 

 しかし、一つ気になることがある。

 

 

 

 サードゲート。

 

 

 

 俺はその名を知っている。いや、厳密にはマチューの記憶の中に存在している。

 

 この少女、いったい何者なんだろうか。

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