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141. 旧き神

 

 突如放たれた暗黒の瘴気。


 間一髪のところで俺はそれに対応することが出来ていた。


 

「……私達、助かってる?」


 

 死ぬことを覚悟していたのだろうか、固く閉ざしていた目を開けてはジェシカが呟く。


 俺とガウス達。そして少し離れたビスタ達を覆うように展開された半球状の銀液。


 それはメタルスライムと同じ反魔の性質を持った物体。間違いなく俺が作り出したものだ。


 そもそもメタルスライムというのはかつてラウディアラを討った神殺しの槍〈銀の救済〉から生まれた魔物で、唯一奴の放つ瘴気に対抗することが出来る存在だ。


 それを前にアルルカげ言っていたことを思い出して咄嗟に試してみたが、どうやらそれが功を奏した。


 

 いや、そんなこと今はどうだっていい。


 

「ビスタッ!!!」


 

 俺は叫び駆け出して、倒れる少女の身柄を抱き抱える。


 そして何回もその名を呼ぶが、まるで人形のように微動だにしない。


 

 それでも諦めずビスタの名を叫ぼうとしたそのとき、同じくすぐ側で倒れていたリサが呻き声を上げた。


「リサっ!」


「カルラ、か…… すまない、私は従者失格だ…… あのとき肉体を奪われてから、何の抵抗も出来なかった…… 本当に、すまな、い……」


 それだけ言ってリサはまた気を失った。


 その言葉からわかるとおり、やはりリサはアベルとの決着の直後ラウディアラに乗っ取られていたようだ。


 思い返せば不自然な点は幾つかあった。


 

 あれだけの激闘を繰り広げたにも関わらず一睡もせずにいたことも、ビスタがガウス達についていくときに然程抵抗を見せなかったことも。


 今思えばあれはラウディアラがリサに取って代わって行動していたからに他ない。


 

 そして今彼女がこうやって話すことが出来たということは、ラウディアラはもうそこに居座る必要が無くなったということだ。


 奴は今どこへ消えた?


 ビスタから〈鍵〉を取り出したということは、最後の〈門〉を開いて〈界竜核〉に何かするつもりなのではないだろうか。


 

 ……そうとなれば行くしかない。


 

 かつて世界を混沌に陥れた邪神の好きにさせてはならない。


 

 そう決意した矢先、オリヴィアとジェシカがこちらまでやって来る。


 やって来るが何を言うわけでもない。ただ重く暗い表情で、ビスタがこんなことになってしまって責任を感じているようだった。


 

「……二人からして、ビスタが助かる見込みはありますか?」


「それは……」


 オリヴィアの言葉が詰まる。


 そんな反応を見て何も気づかない俺ではない。奇跡を体現する聖女ですら匙を投げてしまうこの状況。


 まさか、ビスタはもう助からないとでもいうのだろうか?


 俺の鼓動が早まったそのとき、頼りない足取りでオリヴィア達の後ろから現れたガウスが一言。


 

「……諦めるのはまだはやい


「……どういうことですか?」


 適当な発言は許さないと、迫るように俺は問う。すると、そんな険悪な雰囲気でもガウスは臆することなく次のように答えた。


 

「おそらく今は〈鍵〉が抜き出されたことによって仮死状態にあるだけだ。 だから奴から〈鍵〉を取り戻すことが出来れば……」


「……またビスタの意識が目覚めると?」


「……そうだ、だから今すぐにでもラウディアラを追いかけるぞ。奴と〈界竜核〉を接触させるわけにはいかない」


「……わかりました。今は貴方の意見に従います」


「決まりだな。……オリヴィア」


「なんでしょう」


「お前達はビスタ・サードゲートの肉体を見ておけ、ラウディアラは俺とこいつで討つ」


「……承知しました」


 ガウスがオリヴィアに指示を出して、二人の間でそのような会話が交わされた後、横にいたジェシカが重々しく口を開く。


 

「わ、わたしは……」


「……お前もここに残れ、いつ守護獣がオリヴィア達を襲いにくるかわからないからな」


「……わかった」


 

 そうして、ビスタとリサ、ジェシカとおりを置いて俺とガウスの二人は最奥部へと向かった。


 

 ◆ ◆ ◆


 


「……あら? 貴方達だけ?」


 

 女型の影が俺達に問いかける。


 光の回廊を辿った先、その最奥部で見た光景は鎖に繋がれた巨大なクリスタルが術式に似た何かの文字列を展開しているというもの。


 どうやらあれこそが〈界竜核〉のようだ。


 

「旧き神、ラウディアラよ。 貴方の目的は知りませんが思い通りにさせるわけにはいきません。 さあ、覚悟しなさい。すぐにアベルのもとへ送ってさしあげます」


「……アハッ、アハハハッ!!! なぁに? アベル? ああ、いたわねそんな奴! 懐かしすぎて思い出し笑いしちゃったわ!」


「……何がそんなに可笑しいのです。 かつての恋人の名を耳にして、その仇を今目の前にして何故そう笑っていられる」


「恋人? やめてよもう! あんなの私にとってただの暇潰しの玩具でしかなかったわよ!

 あのときはただ遊びに付き合ってあげただけ。 あんな木偶を愛したことなんて、ただの一度もないわよ!」


 

 もしやとは思っていたが、ラウディアラはアベルのことを然程も気にしてはいない様子だった。


 きっと奴もアベルと同じ、いやそれ以上の狂気と孤独を抱えた存在だということがわかる。


 少しだけ安心した。これで心置き無く戦うことが出来る。


 

「……さあ、正真正銘これが最後の戦いだ。 行くぞ! ラウディアラ!」


 言うと同時に力を解放する。


 俺の背部から伸びる黄金の翼、そして全身に纏わりつく銀の甲冑。


 〈銀の救済〉の力を兼ね備えたこの状態ならラウディアラとも互角に渡り合えるはずだ。


 

「一撃で終わらせる! 顕現せよ、神殺しの槍!!!」


 

 俺の中で湧いた〈銀の救済〉のイメージ。


 俺はその想像を忠実に再現し一振りの長槍を造り出した。


 

「穿てッ!!!」


 

 そしてそのままの勢いで投擲し対象に迫る。


 

「はっ、こんなもの……」


 

 どうやらラウディアラは避けれるつもりでいるのか、それを大した驚異とは認識していないようだ。


 なら、俺にだって考えがある。


 

「起焔!」


 

 瞬間、槍の石突き部に火が点される。それは瞬く間に爆炎と化して、直進する槍の勢いをさらに加速させた。


  言うならばこれは呪いを焔で代用した銀精剣。いや、その形状からして銀精槍と表現するべきか。


 

「なっ……」


 

 相手がまともに言葉を発する間もなく渾身の一撃が炸裂する。


 その槍は間違いなくラウディアラの胸部を貫いていた。


「アハッ…… アハハ…… アハハハハハハハハ!!!!!」


 しかし奴は無傷で、平然と動いて槍を引き抜いては高笑いを上げる。


「なんで……!」


「効かないわよそんなんじゃ! いくら神を滅ぼす特性を持っていても、肝心の威力がままなってないわ!」


「なんだと……!」


「ハハハハ…… それじゃ、そこで大人しく指くわえて見てなさい!」 


 

 先手必勝で仕掛けた攻撃は無駄に終わり、俺は作戦を組み立て直すことを迫られた。


 そうこうしている内にラウディアラは〈界竜核〉に触れては儀式のような何かの作業を進めている。


「いったい何をするつもりだ!」


「んーそうねぇ、言うなれば世界の再構築ってところかしら?

 ガウス、貴方が悪いのよ? 貴方が神であるこの私に逆らい、知らなくていいことまで知ってしまったからこうなってしまったの」


「知らなくていいこと、だと……?」


「ええそうよ。 この世界の仕組みなんて知らなくてよかったの。 貴方はただ与えられた役所のまま道化を演じてくれていたらよかったのに……

 その記憶を次に持ち込まれたらこっちは面倒なんだってどうして分かってくれないのかしら」


「聞くに堪えんな。 俺達は貴様の傀儡ではない」


「傀儡よ。 人間も、魔族も、この世界の生命全てが私の退屈を満たす人形にすぎない。

 人形は、主人の意思に反して動いてはならないの」


「……外道が」


「道を外れているのは貴方の方よ? さあ、今度こそ止めを刺してあげる」


 ラウディアラは告げると同時に天井から漆黒の杭を撃ち出してきた。


 それは間違いなくあの呪いで造り出されたもの。


 勇者と言えど、耐性を持たない生身の人間が受ければ間違いなく一瞬で絶命してしまう。


「させるかッ!」


 それを防ぐために俺は翔んでそれを受け止め弾き飛ばした。


 それを見て、少しだけ怪訝な顔をするラウディアラ。


「……さっきから気になっていたのだけれど、貴方はどうしてソレを庇うの?」


「彼は大馬鹿者ですが、平和を求める心それ自体に偽りは無いと思ったので」


「そういうことを聞いているんじゃない。 コレはもう勇者でも何でもないの、せっかく迷いを振り切れるチャンスをみすみす逃し聖剣を呼び出すことも出来なくなったただの無力な人間なの。

 それをどうしてこの決戦の場に連れてきて、なおも庇おうとすると聞いているのよ」


「……連れてくるも何も、彼は自分の意思でここに来ていますが?」


「そ? じゃあガウス、貴方に問うわ。 足を引っ張るとわかっていてどうしてここを訪れたの?」


「……」


「あらあらァ、答えられないのね~。 その様子だと勢いのまま来ちゃったって感じ? 全く仕方のない子」


 ラウディアラは煽るがそれでもガウスは何も言い返せずにいた。

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