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138. 金銀一体の超戦士


 「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「ああああああ!!!!!」

 

 

 金焔が燃え盛る異空間。

 

 俺とガウス、二人の剣が交差する。

 

 

 「どうしたカルラ・セントラルク。 いや、マチュー。 俺が憎いだろう、ギーグバーンを屠った時のようにもっと打ってこい」

 

 神聖な雰囲気を漂わせる鎧と兜。

 

 おそらくはこの世界で受け継がれてきた勇者だけがその身に纏うことを許さるとされる伝説の防具。

 

 さらには星の衝突にすらも耐えしまうという究極の盾。

 

 紛れもない、セントラルク襲撃時には見せなかったガウス最強の姿。この作戦に奴が全てを賭けていることが伝わってくる。

 

 「そうはいかない。 憎しみも愛も、この胸の内にある全ての想いを剣に乗せて戦うと決めたんだ」

 

 「感情に全てを委ねるということか…… 甘いなッ!」

 

 「!?」

 

 互いの剣が鍔競り合ったそのとき、予想もしていなかった強い力でガウスが押し出してくる。

 

 俺はそれで後退を余儀なくされ、大きく距離を取ろうとしたところでガウスが追撃の魔法を放ってきた。

 

 

 「〈アール・リール〉!!!」

 

 

 数十の光剣が俺を襲う。 ダメージ自体は然程でもないが怯む時間が惜しくなる。

 

 どうやら相手は時間を稼ぐことが狙いのようだ。

 

 そう考えるのは戦略上当然のことと言える。

 

 向こうは元よりオリヴィアと二人で戦うつもりだった。それをこちらの魔法で分断されたのだから、ここで勝負を急ごうとは思わないはずだ。

 

 もちろんそうなってしまえばこちらの都合が悪くなってしまうのは間違いないことで……


 もしもビスタがオリヴィアを倒しきれていなかった場合、百火世界が解除されるまでのこの残り数分間が勝負の行方を左右するということだ。

 

 「はっ、貴方こそ勇者のくせしてえらく小狡い戦法を取るんですね。 もっと攻めてきたらどうです?」

 

 「ぬかせ! これが俺のやり方だ!」

 

 「!」

 

 俺が接近を試みようとしたそのときガウスが新たに仕掛けてくる。

 

 「〈エイルド・ソーン〉! 敵を捕らえろ!!!」

 

 ガウスの声に呼応して地中から飛び出す光の触手。

 それは俺の四肢に絡みつき俺の動きを封じようとした。

 

 「それがどうした!!!」

 

 

 しかしそんなもので今更止まる俺ではない。

 

 加速が緩まることはなく、絡まる触手は悉く焔が焼いた。

 

 手に携えた炎刀を握り直す。そして相手に斬りかかる。

 

 「ふんっ! はっ!」

 

 だがそれをガウスが盾で防ぎ切ってしまう。

 

 俺は怯まず連続して攻撃するが、奴の巧みな盾さばきを前にそのどれもが無駄に終わる。

 

 ……いや、決して無駄だったなんてことはない。

 

 精霊化による強力な攻撃。

 

 防ぐ方も相当に体力を消耗するはずだ。

 

 このまま続けていればいずれ俺の方に勝負は傾く。

 

 問題はそのいずれがいつになるのか分からないということ。

 

 繰り返すようだが百火世界の限界時間までに間に合わずオリヴィアと合流し回復されてしまえば全てが徒労になってしまう。

 

 「つまりは意地と意地のぶつかり合い。 より執念の強い者が勝利を手にするということだ!」

 

 相手も同じことを考えたのか、このタイミングでそんなことを言い出した。

 

 否定はしない。 この戦いはまさしくそういうものなのだろう。

 

 

 俺は絶対にビスタを守る。

 

 これ以上、大切な人を奪われて堪るものか。

 

 

 『だが、このままだとジリ貧なのはおまえもわかっているんだろ?』

 

 

 そのとき俺の脳内にマチューの声が響いた。

 

 

 「正直あともう一押しが欲しいところですね。 力だけではなく、速さで隙を突ければ言うことなしなんですが」

 

 『なんだ? まるで俺の力だけじゃ物足りないかのような言い方だな?』

 

 「いえそんな…… 〈数観陀〉も既に使用済みですし、相手の対応力が並外れているだけです」

 

 『気を遣わなくていい、実際俺はまだ自分の力を抑えている』

 

 「え? どういうことですか?」

 

 『まだ半分もおまえに力を渡していないんだよ。 おまえの中で全ての力を解放するということは俺の中の"憎しみ"の感情を解き放つことになるからな』

 

 「……つまり、もし全力を出せばあのときのように暴走する可能性があると?」

 

 『いや、このままだと100%そうなる。 だがカルラ、それをおまえの想いで繋ぎ留められれば……』

 

 「かつてない程の力を得て一気に勝負を決められるかもしれない、と」

 

 『そういうことだ。 どうする? 賭けてみるか?』

 

 「賭け? 馬鹿言わないでください。私達の歩む道は全て必然。今になって何を恐れるというのですか。

 全てを受け入れ共に戦う。 そう約束したでしょう 」

 

 『……フッ、アッハハハハハ!!! ……そうだな、おまえの言うとおりだ! ならその言葉がハッタリじゃねえってこと証明してみな!!!』

 

 瞬間、俺の中に力が流れ込んでくる。

 

 力だけじゃない、マチューが抱いていた負の感情もだ。

 

 それはまるで前を進もうとする俺の足に絡みつくかのよう。

 

 これ以上はいけないと、脳が危険信号を放ってくる。

 

 だが俺はこの一歩を強く踏み出す。憎しみすらも乗り越えて、勇気を以て道を切り開く!!!

 

 

 「ウオオオオオオオオォォォォォォォッッッッ!!!!」

 

 叫ぶと同時に俺の影から銀液が溢れ出る。溢れ出て、俺を全て呑み込もうとする。

 

 

 「……なんだその姿は」

 

 

 その間、突然の出来事に警戒し距離を取っていたガウスは俺を見てただ一言そう言った。

 

 いったい俺はどんな変貌を遂げたというのだろう。

 

 試しに自分の手を見てみる。

 

 

 

 ───カチャリ。

 

 

 どういうわけか俺は銀に輝く鎧を全身に纏っていて、手足を動かす度に鈍く重い金属音が鳴った。

 

 そして感じる熱さ、熱。

 

 どうやら俺は精霊化を維持したまま、メタルスライムの力を具現化させた鎧を装着しているらしい。

 

 

 けれどまるでそれを感じさせない身軽さ。

 

 ちょっと駆け出してみても、むしろ今の方が数段速度が出ていた。

 

 

 「!?」

 

 

 ガウスが反応出来ていない。

 

 ならばこのまま攻めさせてもらおう!

 

 

 

 「ハアアアアア!!!!」

 

 

 圧倒的なスピードで間合いに入り、拳を腰の位置に構えて放つ。

 

 すると、それに合わせるかのように俺の肘部から超高密度の焔が噴出した。

 

 その破壊力は驚くほどに凄まじい。

 

 ただのパンチはガウスの盾をあっさり粉砕してしまった。

 

 

 「馬鹿な……! 魔王の黒雷すらも防いだこの盾が破壊されるなど……!」

 

 「驚くのはまだ早いぞ!!!」

 

 相手が怯んでいる隙を見てさらに畳み掛ける。

 

 蹴りを放って上空に打ち上げ、先回りし組み固めた両の手で地面に叩き落とす。

 

 その一連の猛攻の中、ガウスからの抵抗は無かった。 いや、したくても出来ないといった様子か。

 

 土煙の中から再び姿を現した奴は体の至るところに傷を負っていた。

 

 が、それは必ずしも喜べることではない。

 

 

 「やりますね、ダメージを全身に分散させることによって致命傷を避けましたか」

 

 「〈山上散華〉、 気功を操ることによって力を分散させる。 ……いつの日だったか、ギーグバーンが教えてくれた技だ」

 

 その言葉からもわかる通りあれだけの攻撃を受けてもガウスはまだ動けるようで、口に溜まった血を吐いては剣を構え向かってきた。

 

 おそらく俺の急激な変化に逃げに徹するのはまずいと判断したのだろう。

 

 だが、メタルスライムの力を完全解放した今の俺にただの斬撃が通用するはずもない。

 

 全て避わすことなく胸で受け止めるがこの肉に届くことは一切無かった。

 

 「まさにメタルスライムが如き堅牢さよ。 ならばこの技の出番だ! 〈魔神突き〉!!!」

 

 痺れを切らしたガウスは、ほんの少し距離を取って間を置いたかと思えば、次の瞬間に大きく踏み込み渾身の突きを放ってきた。

 

 俺はその技をよく知っている。

 

 

 力を溜め、会心の一撃を誘発する剣技。

 

 メタルスライムのように防御力が高い相手にも有効な攻撃だ。

 

 だが、俺はもう本能のままに戦う魔物ではない。 メタルスライムのステータスに人の知恵と技術を兼ね備えた戦士だ。

 だからそれを防ぐ手段を知っている。対処する方法を知っている。

 

 正面から受け止めるのではなく、側面に回って相手の握る手を少し弾けば何の驚異もない平凡な一撃に成り下がることを知っているんだ。

 

 「はぁっ!」

 

 そうして俺はそのまま相手の剣を掴み取り握り潰した。まるで硝子のような、酷く脆い感触だった。

 

 

 「はっ…… 呆気ないな、俺の剣は……」

 

 

 まだ戦いが終わっていないというのに、その場で力なく項垂れるガウス。

 

 しかしその目はまだ諦めていないことを示している。

 

 奴は大きく飛び下がって、右手を前に出して何かの呪文を唱えた。

 

 

 「我が正義に応えよ……!」

 

 

 しかし、何の変化も起きない。

 

 

 「我が正義に応えよッ!!」

 

 

 ガウスはそれでも繰り返し唱える。

 

 それを何度も何度も、声が枯れ切れそうな勢いで唱えようとする。

 

 

 「何故だッ!!! 俺は世界を救おうとしているはず! 正義を遂行しているはずだッ!!! なのになぜ聖剣は現れない!!!」

 

 

 そして、取り乱してはそんなことを言い出した。

 

 そんな様子を見て俺は一言、迫るように質問を投げ掛ける。

 

 

 「自分の行いは正しいと、本気でそう思っているのですか?」

 

 「なに……?」

 

 「私の剣の師はあるときこんなことを教えてくれました。

 剣は口ほどに物を言う、と。 普段想いを言葉にしない人ほどその剣に想いが乗るということらしいです」

 

 「だからどうした。 仮に貴様の理屈に耳を傾けるとして、俺の剣から何が伝わってきたと?」

 

 「はっきり言うならば"迷い"ですね」

 

 「迷いだと……? 戯れ言を、俺の剣に迷いなどない。 個人の感情を捨て、ただ正義のみを信じてきた。 迷いなど入り込む余地もないわッ」

 

 不意にそんなことを指摘され、らしくもなく声を荒げるガウス。

 

 奴は剣を呼び出すことをそこで諦め、怒りのままに拳で訴えかけようとしてきた。

 

 が、それを俺は正面から掴んで受ける。

 

 

 「……ッ!」

 

 「迷いですよ、完全に。 迷いのある者の剣ほど脆いものはない。 その証拠がそこで転がっている残骸だ。

 正義を信じた? 感情を捨てた? 馬鹿馬鹿しい、自分自身を信じれない者がいったい何を成せるというんだッ!」

 

 語気を強めると共に、相手の拳を掴んだその掌から焔を放つ。

 

 奴の全身は一瞬にして焔に呑まれるが、再び姿を現したガウスはまだ辛うじて未だ立っていた。

 しかしもうとても戦闘を続けられるような状態ではなかった。

 

 ないはずなのに、ガウスは戦意を鈍らせることなく、俺を睨み付けては絶え絶えの息でこう言った。

 

 「ハッ、ハッ……! 違うな、カルラ・セントラルク。 貴様の言っていることは全て綺麗事だ。 強者だけが口に出来る理想論だ。

 その理想論にいったいどれだけの小さな命が犠牲になったと思っている……!

 俺は認めない……! 力は常に正義のため、民衆のために在らねばならないんだッ!!!」

 

 「だったら、貴方は一切他人を犠牲にしなかったのかッ!!!」

 

 「ッ!?」

 

 「貴方の言う正義のために一体どれだけの命が犠牲になった!?

 正しければどれだけ命を奪ってもいいのか!?」

 

 「極論を持ち出すな!」

 

 「その極論で動いたのが貴方だろう! 犠牲のもとに成り立つ平和にいったいどれだけの価値がある!

 貴方の行いこそ、自分勝手なエゴだったんじゃないのかッ!!!」

 

 「ふざけるな! 俺とアイツらを同列に語るな! 全ては結果だ! 結果こそが正義だ!

 俺は必ずや〈界竜核〉を破壊し、二度と争いのない世界を……!」

 

 俺がどれだけ責めても、ガウスは僅かに怯みはするもののその考えが屈することは無かった。

 

 調度そのとき限界時間に達した百火世界が解除され、俺達を取り囲んでいた金焔が次第に消えていく。

 

 すると、決着がついたのであろうビスタ達が、片方は見たことのない巨大な怪物の腕に座り、もう片方はその怪物にしっかりと握り込まれ拘束されているという形で待機していた。

 

 どうやらビスタはオリヴィアを殺しはしなかったようだ。

 

 それが彼女の選択なら俺は何も言うまい。

 

 

 問題は未だ諦めずにいるガウスだ。

 

 奴はまだ己の非を頑なに認めようとしない。

 

 そんな状態で決着をつけても俺もマチューも納得は出来ない。

 

 

 ならば一先ずガウス達を無力化、後のことは皆で相談して決めよう。

 

 そんなことを考えていたときだった。

 

 

 「……やっぱり、こうなると思ってた」

 

 

 光の階段を一段ずつ降りてはそんな台詞と共に姿を現した一人の女。

 

 

 ジェシカ・ハンフルフ。

 

 ガウスの妹でありながら、俺に奴を倒してくれと頼んできた謎多き女。

 

 彼女はどこか不穏な空気を漂わせていた。

 

 「ジェシカ、どうして貴方がここに? 私の屋敷で待機していたはずじゃあ……」

 

 「それはあのリペアのことでしょう? 私はオリジナル。 ガウスの監視の目が緩まったから封印を解いてここまで来たのよ」

 

 「いったい何のために?」

 

 「何のため? そんなの決まってるじゃない。 貴方に全部任せるのが不安だったから様子を見に来たのよ。

 それがびっくり、まさかまだとどめを刺していなかったなんてね」

 

 「まだ彼は自分の非を認めていませんから」

 

 「甘い、甘すぎるわカルラ・セントラルク。 これは戦い、殺し合いなの。

 貴方がどれ程の力を手にしようとも、一定のリスクは常に付き纏う。 悠長なことなんかしている場合じゃないはずよ」

 

 

 「しかし……」

 

 

 ジェシカの言うことは最もだ。

 

 そもそもの目的はビスタの奪還なのだから、こんなところで時間をかけるのは間違っている。

 

 だから俺は一先ずここは中断して地上に戻ろうと考えた。

 

 しかしどうやらジェシカにとってはそれすらも甘いようで、彼女は今ここで決着を付けたいらしい。

 

 けど、そんな彼女の要望をわざわざ聞き入れる義理はない。

 

 邪魔をするというのなら、ジェシカごと拘束しようと構えたそのとき。

 

 

 「……だから、そういうのが甘いんだってば」

 

 

 呆れ気味にジェシカが呟く。

 

 そしておもむろに指を鳴らして、何かの魔法を発動させた。

 

 

 「!!」

 

 「カルラ君!!」

 

 

 咄嗟にビスタが俺に手を伸ばす。

 

 俺もそれに応じるように手を伸ばすが、二人の手が触れることはなかった。

 

 俺の視界は光に包まれ、それが晴れたときには同じ空間ではあるものの元の場所から相当離れた最下層部に強制転移させられてしまっていたのだ。

 

 まずい。

 

 彼女は、ジェシカは、自分の手でけじめをつけるつもりのようだ。

 

 そんなことあってはならない。どんな理由があろうとも妹が実の兄を、かつての仲間を手にかけるなどあって良いわけがない。

 

 それを、よりにもよってビスタの目の前で。

 

 彼女は母の死も憎しみも乗り越えてオリヴィアを生かすという選択を取ったんだ。

 

 その選択を、彼女の想いを、こんな形で無下にして良いわけがないだろう。

  

 

 「クソッ!」

 

 

 翼を羽撃かせて飛翔する。

 

 

 急げ、急げ……!

 

 全てが手遅れになってしまう前に……!

ご覧頂きありがとうございました。

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