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13. 試験と機転


 「うおおおおお!」

 

 俺は素早さを存分に生かし、変則的な動きを交えて接近を試みた。

 リーチは完全に相手に分があるので、まず俺の距離に持ち込まないことには始まらない。

 

 「……」

 

 「ほほぉ!これはかなりの敏捷性じゃ!7000台は伊達ではなかったか!」

 

 さっき少しだけ見せたステータスプレートでそこまで確認してたか、ということはこちらの手の内は全てあの仙人に知られたかもしれない。いや、知られていると考えていいだろう。

 その情報がマガンタに伝わっているかはまた別問題だが、まあバレたからと言って困るようなタネじゃない。

 

 「さあさあマガンタさんよぉ!その図体でこのスピードについてこれるか!?」

 

 まるで悪役のセリフに俺自身少し戸惑うところがあったが、むしろこのほうがしっくりくるかもしれない。

 

 俺は戦いの主導権を握ることに成功し、景気よく一発突きを繰り出してやった。

 

 「おらよ!」

 

 背後に回って繰り出された一撃にマガンタは完全に不意をつかれていた、なんだ大したことないじゃないか、これじゃああのときの盗賊となんら変わらない。これはさっそく勝負あったか?

 

 「……!」

 「なにっ!」

 

 しかしマガンタがこちらに振り向いてからの動きは舌を巻くものがあった。圧倒的腕力によって豪快にて振り上げたられた木刀は、俺の剣を弾くだけに留まらずそのまま俺を投げ飛ばしてしまう。

 

 「うおっ!?」

 

 俺が投げ飛ばされた方向はちょうど薪が積まれていた場所で、ぶつかるなり盛大な音を上げて崩れ落ちてくる。

 

 「くっそ、やっぱそう簡単にはいかねえか」

 

 「どうした?降参するか?」

 

 「ハッ誰が!」

 

 仙人が声をかけてくるが突き返してやった。戦いはまだ始まったばかりだっつーの。

 

 地面に手をついて立ち上がる。さっきは手痛い反撃を受けたが、作戦を変えるつもりはない、愚直に攻め、こちらの間合いに持ち込む。攻め続ければどこかに勝機があるはずだ。

 

 「おおおお!!!」

 

 今度は剣を腰に構えて向かった。こうすれば奴の目線からは俺の体に遮られて剣が見えにくいはずだ。

 

 であれば剣筋も読まれにくくなる。今度は反応は出来ても攻撃を受けれることが出来るかな?

 

 「……」

 

 マガンタはそれを見ても特に焦った様子は見せない。まあ、所詮は小細工だからな、驚くこともねえか。

 

 「よっ!」

 

 真っ直ぐに向かうと見せかけ、右にバックステップ今度は左、右、左……と見せかけてさらに右。俺は順調に相手を翻弄させることが出来ていた。

 

 よし……!今度こそ……!

 

 ふたたび相手の死角に入り込み今度は袈裟斬りを放った。俺の目から見れば完璧な一撃、刃筋も通っているし、当たれば確実にダメージになる。

 

 しかし。

 

 「……」

 マガンタは全て読み取っていたというのか、剣を隠し、翻弄し、完全に死角をとって繰り出した一撃をコイツはいとも簡単に防いでみせた。

 

 「……!」

 「ぐぅ……!」

 

 マガンタはギリギリと木刀を返し伏せて俺の剣を押さえつけてきた。

 

 ここで筋力の差が露呈する。俺はそれに抵抗するも、マガンタはビクともしない。しかも事態の悪化はそれだけに留まらず、巧みな手首のスナップだけで俺の剣は地面に叩き落とされてしまった。

 

 「なっ!?」

 

 完全に不意を突かれた。まさかこの筋肉ダルマにこんな技術があったとは。

 

 「……!」

 

 武器を失い呆然としていた俺の隙をマガンタは見逃さず足払いでダウンをとってきた。重量を伴ったそれは耐久値の高さで耐えれるものではなく、ダメージこそ無いが俺はいとも簡単に倒されてしまった。

 

 「残り20分」

 

 残り時間を告げる仙人の声。くそ、この10分間なんの手応えもなかったぞ……。

 

 

 「……」

 

 マガンタは俺が地面に伏せている間に俺の剣を手にとって俺から離れた、そして自分のすぐ近くの地面に剣を突き刺して、そのあとは剣を構えて動かない。

 まるで、取れるものなら取ってみろ、そう言っているようだ。

 

 「くそ、さすがに剣がなくちゃあどうすることも出来ねぇ……」

 

 いや、そんな弱音を吐いている場合じゃあない、考えろ、考えるんだ、正攻法ではアイツは倒せない……。

 

 

 課題はどうやって剣を取り戻すか、そしてどうやってアイツに一撃を決めるか。

 

 やることは多いが、こんなとこで立ち止まれるか……!俺は必ず力を手に入れて見せる!

 

 なあに、ピンチはチャンス、追い込まれた状況にこそ逆転の活路が見いだせるのさ。

 

 俺は一先ず立ち上がるために身を起こし地面に手をつけた。そしてそのとき一瞬だけ視線が下を向いてしまう。

 

 あ、今のは駄目だな、実践で相手から目を逸らすなんて隙を見せているようなものだ。危ない危ないこれが試験でよかった。

 

 今この状況とは関係がないが、今後のために俺は自分を戒めた。

 

 

 まてよ……?

 

 

 しかし俺はふたたび地面に目を向けた。別に大したものはない、薪割りで出たであろう木の破片がそこら中に散らばっているだけだ。

 

 土、木片……。

 

 これは試験であって実践ではない……。

 

 そして、この試験のルール……。

 

 全ての要素が重なって、俺の脳裏に一つの答えが思い浮かんだ。

 

 これだ……この作戦に賭けるしかねえ!

 

 

 俺は身を屈めて体勢を低くしたままスタートダッシュを決めた。向かうは一直線突き立てられた剣の方向だ。

 

 その時俺は相手に悟られないように右手で土を掬い左手で木片を拾う。

 

 「うおおお!!!」

 

 鬼気迫る勢いで俺は叫んだ。しかしこれは作戦を成功しやすくさせるための演技、愚直に正攻法に取りに行くと見せかけるのが俺の狙いだ。

 

 マガンタは俺が剣を奪い返すのを阻止するために剣の前に立ちはだかる。

 

 問題ない、ここまでも俺の予想通り。


 そして俺はマガンタの目前に来たところで、左に避けると同時に持っていた土を相手の顔に振りかけてやった。

 

 「!?」

 

 マガンタは慌てて顔を逸らして、後ろを向く。

 

 瞬間俺はほくそ笑んだ。

 

 そう、そうだよなぁ、この状況じゃあ誰だってそうする。剣さえ取られなきゃ負けることはないんだから、是が非でも剣を守ろうと、後ろを振り向く。

 

 しかし、おまえが振り向いた先に俺はいない。なぜなら俺は剣を取りに行かず、急転回して後方に回っているから。

 

 「隙アリだァァァァァ!!!!」

 

 俺はマガンタの背中に、渾身の力を込めて先の尖った木片を突き立ててやった。はじめの時のように反応させもしない、最短、最速、最小限の動きで目標を穿つ。

 

 「!!!」

 

 「なんと!?」

 

 もちろんそんなものは致命傷になんかなるわけがない。実戦じゃあなんの意味もないただの引っ掻き傷だ。

 

 しかし、これは試験。

 

 仙人の説明したルールは、マガンタに一撃を決めれば勝ち。武器は真剣でもなんでもいい。

 

 つまり、ただの木片だろうがなんだろうが、少しでも傷をつけたらokってことだろう?

 

 「どうなんだ審判!?」

 

 「むむむ……まさかルールの裏をかくとは、子供だからと侮っていたわい、よかろう!カルラ・セントラルク!合格じゃ!」

 

 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 森の中、俺の雄叫びが響き渡る。再び聞こえてくる木々のざわめき、風の音、それに加えて近くを流れる滝の瀑声は、俺の勝利を祝っているかのようだ。

 

 「おめでとう、そしてこれからよろしく、弟子になる記念として、おぬしにこれを贈ろう」

 

 仙人が差し出してきたのは金属製のイヤリングだった。

 

 「ほう、さしずめ〈精霊使い〉に必要な装飾品といったところか?ありがたく受け取るとしよう」

 

 俺はそれをさっそく耳につけた。

 

 「それでだ、さっそく教えてくれるんだよな?〈精霊使い〉の術を……?」

 

 その瞬間、まるで俺の言葉に反応するように、イヤリングを付けたら俺の耳に異変が起きる。

 

 「痛い!痛い痛い痛い痛い痛!!!!」

 

 どういうわけか、俺の耳を挟んだ部分の力がギリギリと増していき、とてつもない痛みを与えてくるのだ。

 

 おかしい、痛みを与えるイヤリングの存在もおかしいが、なによりこの俺が痛みを覚えるという事実がなによりも異常な事態だ。

 

 

 「ジジイ!俺に何をした!」

 

 キッと睨み付けて仙人に迫った。

 そうしたらまた痛みが増してくる。

 

 「ぐぅああああ!!!」

 

 「ほっほっほっ、そのイヤリングには少し細工がされておってのぉ、身に付けている者がタメ口や汚い言葉を使ったら強烈に痛む幻覚を見せるようになっておるんじゃ」

 

 「げ、幻覚だと!?それで耐久値が関係ないのか!」

 

 まさかの俺特効お仕置きアイテム!

 

 「まあそういうことじゃ、カルラよぬしは弟子入り希望にしてはまるで礼儀がなっとらん、もちろん〈精霊使い〉の術も教えるが、礼儀のほうもその身に叩き込んでやらねばのぉ」

 

 「余計なお世話だ!」

 

 俺が吠えると痛みはさらに増してくる。幻覚にしてはえらくリアリティのある痛みだ。こりゃ相当格の高い術式が施されているのではないだろうか。

 

 屋敷を出てせっかく楽に喋れていたのに、なんでこんなことになるのか、こんなもの、外してやる!

 

 「無駄じゃよ、儂の許可がなければそれは外れん」

 

 「そうですか!無駄に高性能ですね!!!」

 

 敬語で話してやっと痛みが治まった。くそ、どうやら俺はとんでもねえヤツに弟子入りしてしまったらしい。

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