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127. タッグマッチ


 万が一、ドランジスタの人間達が何らかの方法を用いてこの世界に侵入出来てしまったときのために俺達はいくつかの対策を敷いていた。

 

 一つ、侵入者の居場所を知らせる警報。

 

 一つ、向こうから俺達の居場所が探知出来ないようにする結界の作動。

 

 他にもあるが、そのどれもが奴らがここに来るまで正常に作動することはなかった。

 

 

 「くそ、どうやってここが…… まさか貴方が?」

 

 「そんなふうに見えると思う? くだらないこと言っていないで早く向かった方がいいと思うのだけれど」

 

 「そうさせていただきます。 拘束を解くつもりはございませんので、貴方はここで待機していてください。

 言っておきますが、目には見えない見張りをつけておきますから下手なマネはしないでください。……ロロ!頼みましたよ!」

 

 「あいよ!」

 

 そうしてジェシカのことはロロに任せ、俺は足早に屋敷の外へと向かった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 「く、くそ……!」

 

 

 駆けつけると、既にラビアン含めた兵士の魔族が応戦していた。

 しかしまるで敵わない。たった二人の人間を相手に、ラビアン達は束になってもむしろ追い詰められていた。

 

 

 「ラビアン!」

 

 

 その白刃がうずくまるラビアンを穿とうとしたのを視認して俺はさらに加速した。

 結果、なんとかラビアンの安全を確保することに成功する。

 

 

 「……皇帝ガウス、教皇オリヴィア。どうやってここがわかった。目的はなんだ」

 

 

 俺の質問に、二人組の内の一人、紅髪の青年が答える。

 

 

 「居場所はアベルの記憶から突き止めた。ビスタ・サードゲートを引き渡せ、そうすればここは大人しく引き下がろう」

 

 

 ガウスの口からアベルの名前が出てくるというのは一見奇妙なように思えるが、先程ジェシカから聞いた話によるとそもそもコイツらはアベルの手によって不死身になったらしい。

 つまり俺の知らないところで繋がりがあったということだ。それを踏まえると特別おかしいことはない。

 

 そして、ガウスがアベルの記憶を手にしたということは、ガウスがアベルを倒し吸収したということだ。

 

 しかし、今そんなことは特に問題ではないだろう。

 

 コイツらはまだビスタを狙っているのだという。理由はわからない。もしかすればジェシカが何か知っているのかもしれないが、今は確認のしようがない。

 

 

 「奴は今どこにいる?」

 

 「教えるわけないでしょう」

 

 

 相手の質問をつっぱねる。

 

 もちろん相手がガウス達とわかっていてビスタを前線に出すわけがない。

 

 彼女はリサに任せて父達と蔵の地下に避難している。

 

 

 「アベルの記憶…… これは非常に厄介だね。 死霊術の方はどうなのだろう?」

 

 緊迫した状況の中、女神アルルカが姿を現す。

 

 それを見て反応を見せたのはブロンド髪の聖女オリヴィア。

 

 

 「貴方がこの世界の神……」

 

 「ああそうだとも、ごきげんようラウディアラ教団の聖女」

 

 「えらく余裕ぶった様子ですが、どうせ貴方は何も手出し出来ないのでしょう?」

 

 「あらら、バレちゃってるねえ」

 

 

 今こうして状況が確認されたわけだが、例にならって神であるアルルカは俺達の仲間ではあるものの戦闘に介入することはできない。

 

 まあ、もとより頭数にいれちゃあいないさ。

 

 

 

 「リイン、共に戦ってくれますか?」

 

 「あ? 土足で人の敷地に踏み入ってきてんだ。 言われなくても捻り潰すに決まってんだろうが」

 

 申し訳ないがそこら辺の魔族じゃ返り討ちに遭うだけ。

 

 負傷した兵士や住民の避難はエミリアやノエルに任せてここは俺とリインで二人を対処する。

 

 

 「ククク…… 異世界の勇者様がお相手か、燃えてきたぜ!」

 

 「リイン、百火世界をお願いします」

 

 「るっせえ! 俺に指図すんな!」

 

 

 俺が指示するよりも先にリインは動き出していて、四人が異空間へと誘われる。

 

 

 

 「言い忘れていたが、あまり精霊化に頼りすぎるな、ボクの推測じゃ……」

 

 別れ際、アルルカがそんなことを口にする。しかしそこで空間が遮断され最後まで聞くことは出来なかった。

 

 

 不思議なことにガウス達ははじめて見るであろうこの現象に特別驚くようなことも抵抗するような素振も見せない。

 

 俺達が用意した対策のことといい、まるで最初から全て知っていたかのようだ。

 

 いや、まさかそんなことあるわけがないが。

 

 

 「さっきはひでえ肩透かしを食らったからなぁ。 テメエらはしっかり楽しませてくれよォ!?」

 

 より強い方を求めてか、リインはガウスに挑みかかった。

 

 となると必然的に俺の相手はオリヴィアということになる。

 

 経験の差からして集団戦術は向こうに分があると考えるのが道理。

 相手を分断するのは有効な戦略と言えるだろう。

 

 

 「問題ない。オリヴィア、そちらは任せたぞ」

 

 「了解しました」

 

 

 冷静な態度を一切崩すことなく、オリヴィアが俺と対峙する。

 

 「〈吽壌邏〉!!」

 

 「〈オーレン・リスター〉!!」

 

 お互い補助をメインとする職業ゆえに、切った初手も直接攻撃とはならない。

 

 俺は防御力を上げる精霊術を。

 

 相手に施された効果はまだわからないが、何かしらの補助がオリヴィアとガウスに掛けられたことは間違いない。

 

 だがこちらのやることは何も変わらない。

 

 さらに強化を重ねて強みを押しつけていくだけだ。

 

 

 「さあ! いきますよ!」

 

 そうして俺は亜空間から剣を取り出し攻撃を仕掛けた。

 

 術の強化が乗った猛攻に、オリヴィアは杖による防御で対抗してくる。

 

 そうして幾つか打ち合って、鍔迫り合いになったときオリヴィアが口を開く。

 

 「久方振りですねカルラ・セントラルク……! わたくし、ずっと貴方に会えるのを心待ちにしておりましたの……!」

 

 「私もですよ、貴方には聞いておきたかったことがありますから」

 

 「ああ…… おそらくはアナスタシア・サードゲートのことですか?」

 

 「そうです。 なぜビスタのお母さんを殺したんですか? 痛めつけて目を抉って、挙げ句の果てには街中に首を晒して見せしめにするなんて、どう考えてもやりすぎでしょう」

 

 「そんなこと、決まっているじゃないですか。 あの女がわたくしよりも美しかったからですよ。

 そんな存在あってはならない。私は誰よりも美しく在らねばならない!

 だからあの娘っ子…… ビスタ・サードゲートも早々にこの世から消えてもらわねば困るんですよ!」

 

 なんてことをさも当たり前のように主張するオリヴィア。

 ここにきて彼女の本性が露になったわけだが、やはりジェシカとは異なり正常な思考が働いているとは思えない。

 

 

 こんな、こんな奴。

 

 

 ビスタが手をかけるまでもない。

 

 

 「……理解しました。貴方はここで私が倒す」

 

 「なにを…… ぐぅ!?」

 

 

 フェイントを掛けてがら空きの腹部を三度裂く。

 

 早くも勝負は決したかのように思えた。

 

 が、そのとき。

 

 

 「フフッ、アッハハハ……」

 

 オリヴィアは深刻なダメージを受けながらも不敵に笑って、次の瞬間光が彼女を包んだ。

 

 すると、斬ったはずの腹部が何事もなかったかのように再生されていく。

 

 

 「これは……?」

 

 

 不気味に思い距離を取る。

 

 完全に回復したオリヴィアは、まるで攻撃など一度も受けなかったかのように軽い調子で語りはじめた。

 

 「これが〈オーレン・リスター〉。 私達にふりかかったあらゆる事象を巻き戻す究極の神聖魔法!!! たとえ不死でなくとも、私達は無敵なのですよ!」

 

 「……厄介ですね」

 

 想像以上の相手の力を前にして、つい心配になってリイン達の方を見てみる。

 

 「ウォラ!」

 

 地の利がある分リインが優位に立ち回っているかのように見えるが、やはりオリヴィアの補助魔法のせいで今一つ決め手に欠けているように窺える。

 

 「……」

 

 一方ガウスは隙を見て着実にリインにダメージを与えている。

 一つ一つのそれは掠り傷程度で大したことはなくとも、このままではジリ貧なのは火を見るより明らかだ。

 

 

 ……なら、一気にケリをつけるしかない。

 

 アルルカに止められたが、背に腹は変えられないだろう。

 

 

 「安納垂元上代之翁、光明霊地仁覚於齎……!」

 

 

 瞬間、俺の体が金色に輝き出す。

 

 

 こうなればもう後には退けない、精霊化の力で一気に畳み掛ける!!!

ご覧頂きありがとうございました。

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