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125. アルルカ復活


 「まてまてー!」

 

 「アハハ! マチューおっそーい!」

 

 「なんだとー! 本気だったらもっと早いんだぞー!」

 

 「はっはっ、マチューは皆と遊ぶのが本当に好きなんだな」

 

 「うん! 俺みんなのこと大好きだ!」

 

 

 ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 「……」

 

 

 ああ夢か、今のはマチューの記憶、だな。

 

 

 アイツも昔はあんなふうに仲間達と遊んで笑う奴だったんだよな。

 

 知ってるよ、俺はずっと知っていた。

 

 そんなアイツが変わり果ててしまうくらいに人間達が憎いってことも。

 

 

 孤独と憎悪に苛まされながら、それでも止まれなくなっているってことも俺は知っている。

 

 

 それできっと、あいつは今人間達に復讐しているのだろう。

 

 今まで溜め込んできた怒りを武器に変えて戦っているのだろう。

 

 

 俺は、どうすればいい。

 

 昨日の夜、ビスタが言ってくれた。間違いを認める勇気も必要なのだと。

 

 それで、仮に認めたとして、それで俺はどうしたい?

 

 マチューのことを放っておいてもいいのだろうか?

 

 

 「……」

 

 

 アベルを倒した翌日の朝、俺は自室のベッドの上で目覚めてはそんなことを思った。

 

 なぜか当たり前のようにビスタが横で寝ているが、なんというかもう慣れた。

 

 しばらく彼女の寝顔を覗いているとちょうどお目覚めになったようで、おはよ、なんて言ってくる。

 

 だから俺も、おはようございますと返事をする。

 

 たったそれだけのことで幸福を覚える。相手が愛しくなってしまう。

 

 そんなひとときも束の間、ビスタは少しだけ真面目な顔をして言う。

 

 

 「ねえカルラ君、昨日の話の続きなのだけれど……」

 

 「はい」

 

 「もう一度、彼と、マチューと話し合ってもいいのかもしれない。 もとは一つの存在だったのだから、わかりあえる部分もあるはずよ」

 

 「そう、なんですかね…… でも、今更何を言えば……」

 

 「……そうね、とりあえず謝ってみる? 今まで蔑ろにしてごめんって。

  ……私も、武闘大会のとき無理矢理彼を抑え込んでしまったから、今思うと少し申し訳ないことしたかなって思う」

 

 「そんな……」

 

 「これはあくまで一意見よ。そういう考えもあるんだって受け止めておいて」

 

 「……わかりました。ところでビスタはどうするのですか? やはり彼女を、オリヴィア・ノーツ・ナルシスカに復讐を?」

 

 「するわよそりゃね。 ……けど復讐と言っても形はそれぞれじゃない? 殺すかどうかはまだ決めてない」

 

 「そう、ですか……」

 

 「ごめんなさい、昨日の今日でカルラ君を混乱させるようなこと言って……

 でも今度こそは、このことだけは、私自身の意思で選択したいの」

 

 「ビスタ…… いえ、それでいいんだと思います。 貴方が選んだ答えなのなら私は否定したりしません」

 

 

 朝からそんな話をした。

 

 きっとビスタは彼女なりに俺のことを考えてくれているのだろう。

 

 けれど、ああ……

 

 やっぱりまだ煮え切らないな。

 

 

 

 「いやぁ、きのうはおたのしみでしたねぇ」

 

 

 そんなとき、いきなり頭上に現れてはそんなことを言ってからかってくるロロ。

 

 

 「馬鹿なこと言わないでください。何もしてないのは貴方も知っているでしょう」

 

 

 冷静に俺は言い返す。

 

 

 「うん、いやまぁ、それはそれでどうなのってツッコミたくなるんだけど……」

 

 するとそんなことを言われてしまって、俺はそこで何も言い返せなくなった。

 

 

 「あ、それよりさ! さっき神様が記憶そーしつ治ったって言ってたよ!」

 

 「え、アルルカが!?」

 

 

 それを早く言えってんだバカヤロウ。

 

 俺達は急いで身仕度を整え部屋を出る。すると、部屋の前の廊下で警備をしていたのだろうリサと落ち合う。

 

 

 「おはようこざいますお嬢様。 それにカルラも」

 

 「おはようリサ、昨日くらいは寝てもいいって言ったのにずっと起きていたの?」

 

 「ええ、いつどこから人間達が襲ってくるかわかりませんからね」

 

 欠伸の一つもなくリサはそう答えた。俺なんかあれからすぐに寝ついたのに凄いな。

 

 

 

 

 「というか、人が多いな……」

 

 

 居間に降りて最初に思ったのはそんなことだった。

 

 すでに父と母、アルルカにエミリア、ジゴロウ、そして何故かリインやノエルまでいる。

 

 別にこの部屋は20人くらいいても賄える広さはあるが、これだけ人がいるのは中々珍しいんじゃないだろうか。

 

 

 「……さて、これで全員集まったようだね」

 

 

 席についた俺達を確認してアルルカが口を開く。

 その口調からして、記憶を取り戻したというのは本当なようだ。

 

 

 「アルルカ、貴方には聞きたいことがたくさんあるんです。一つ残らず答えていただきますよ」

 

 「わかっているさ、その前に一つだけ礼と謝罪をさせてほしい。

 皆、アベルの野望を阻止してくれて本当にありがとう。君達がいなければ今頃世界は混沌と化していたところだろうね。神として、最大の敬意を払うよ」

 

 「……謝罪というのは?」

 

 「それはもちろん、ヨルンを犠牲にしてしまったということさ。 ボクが不甲斐ないばかりに彼を死なせてしまった。 本当に申し訳ないことをした」

 

 いつもの余裕をもった態度の裏腹に、彼女が本当に師匠の死を悔やんでいることがわかる。

 

 手には力がこもって僅かに震えているし、俯く目にはうっすら涙が溜まっていた。

 

 

 「といっても、私達が謝られたって仕方ないでしょう? 死んだのはお師匠さんなんだから。

 謝罪なんかに意味はないわ、問題は貴方がその罪をどう償うってことか。違う?」

 

 ビスタは少しだけ表情を険しくしてそんな冷たい言葉をかけた。

 

 だけどそれは俺も思うところだ。

 

 きっと彼女は俺のためを思って代わりに言ってくれたのだろう。

 

 「……返す言葉もないよ。下界の者に諭されるなんて、やはりボクは未熟な神だね。

 ……それじゃあ君達の質問に答えていくとしようか。君達はこのボクに何を聞きたい?」

 

 そんなアルルカの問いかけに対し、真っ先に大きく手を上げたのはロロ。

 

 

 「ハイハイ!」

 

 「それじゃあ君から」

 

 「どうして神様はきおくそーしつのときカルラにベッタリだったの!?」

 

 「……」

 

 

 部屋の中が静まりかえる。

 

 そりゃたぶん皆聞きたかったことだろうけどさぁ、今じゃなくてもいいんじゃねえかなぁ……

 

 

 「ねーねーどーして!? 神様はカルラのことが好きなの!?」

 

 

 単純馬鹿ってこええ……

 

 なんかアルルカがかわいそうになってきた……

 

 

 「あのロロ、もうそのくらいに……」

 

 「ええ~? カルラも気になるでしょ~?」

 

 「いやまあ、それは……」

 

 

 言いながらチラリとアルルカの顔を覗く。

 

 彼女は顔を真っ赤にして動揺しているようだ。

 どうやらあのときの記憶は残っているんだな。

 

 

 そうして改めて思う。もともとこいつに神としての威厳なんかないのだから、これ以上苛めるのはオーバーキルだと。

 

 無能なのだから、あれくらいの醜態は見過ごしてやるべきなのではいのかと。

 

 

 「おいカルラ! 今また心の内で無能って言ったな!」

 

 するとそのとき、アルルカは勢いよく立ち上がって俺を指差しそう言った。

 

 「うえ!?」

 

 思ったことをズバリ言い当てられて驚く俺。不思議と誤魔化そうという感情はなかった。

 

 「い、言っておくがこれでもボクは色々頑張っているんだ。

 いきなり君に、く、くくくくく口づけを迫ったのだって理由が……」

 

 「理由……?」

 

 

 アルルカがものすごい形相で近づいてくる。

 

 鬼や魔物も捕って食いそう勢いだ。

 

 

 俺がそれに少しだけビビっていると、とうとう彼女は俺の目の前まで来てしまって、俺の額にそっと口づけをしてきた。

 

 

 「……ん」

 


 それを見てやはり周りは少しざわつく。

 

 

 「いったい何を……?」

 

 

 漠然とした恥ずかしさを誤魔化すために俺は咄嗟に質問した。

 

 するとやはりアルルカも少しだけ恥ずかしかったようで、口許を拭いながら険しい顔で答える。

 

 

 「……君に、力の一部を預けておいたんだよ。万が一アベルに利用される可能性があったからね、信頼できる男に預けておいて、そして今回収させてもらった」

 

 「……なるほど」

 

 

 つまりあの行為は好意によるものではなかったと……

 

 

 

 ……よかっっっっっったぁぁぁぁぁぁ。

 

 

 

 あーよかった。もしこいつに好かれていたりなんてしたらどうしようって不安だったんだよ。

 

 だって俺こいつ嫌いだもん。

 

 

 「……つまりまあそういうことだよ。さあ、次の質問は?」

 

 むりやり話を終わらせ次に進もうとするアルルカ。俺達はその勢いに圧されてしぶしぶ従うしかなかった。

 

 

 「えっと、それじゃ私から……」

 

 

 次に手を上げたのはエミリアだった。

 

 「カルラのお師匠さんが言ってたんですけど、何百年も前の時代の神様はラウディアラって名前の悪い神様だったって聞きました。それでアルルカ様がその神様を倒すのを手伝ってくれたって……

 それでビスタさん達の世界にもラウディアラって名前はよく耳にしました。これはいったいどういうことなんですか? ……ごめんなさい、上手く言葉には出来ないんですけど」

 

 「いいや大丈夫だよ。 おそらく皆、どうしてこの世界では新しい神になれたのに向こうの世界ではラウディアラの名が残り続けているのかを知りたいんじゃないかな?」

 

 アルルカの言葉にエミリアは静かに頷く。

 

 

 いい質問だと思う。

 

 それを最初に明らかにすることによって後の質問の内容も変わっていくからな。

 

 

 「そうだね、本来ならボクはラウディアラに代わってドランジスタの管理も行うはずだった。

 ……けれど奴はあの世界がひどくお気に入りだったようだ。この世界とは比べ物にならないほどのプロテクトを何重にも施して、自分が死んだ後も他の神が介入できないように対策していた」

 

 「しかし貴方はマチューを転生させることが出来ましたよね? それは防がれなかったのですか?」

 

 「ああそうだね、そう疑問に思うのは当然だろう。確かにあの世界は死後の魂含めてボクが扱えるわけではない」

 

 「だったらどうして?」

 

 「マチューは…… いや、メタルスライム族は特別なんだよ」

 

 「どういう、ことですか?」

 

 「彼らはもともとあの世界の住人ではない。 彼らの起源は一本の槍だった」

 

 「一本の槍? まさか……」

 

 「そのまさかさ、かつてヨルンに託した神槍、名を〈銀の救済〉という。 悪に堕ちた神を処刑するための槍、神殺しの槍さ。

 メタルスライムは、その槍をもとにしてボクが造った種族だ」

 

 「なんのために?」

 

 「ラウディアラの遺体を封印するためさ。 君達も見ただろ? 死してなおおぞましい障気を放つ光景を。

 奴の力は〈銀の救済〉でしか抑えることが出来ないんだ。だから〈銀の救済〉に魂を与え、恒久的に奴の障気を抑えるように命じた。生物の本能、遺伝子に直接ね」

 

 

 そんな話を聞いたときに少しだけ違和感を覚える。

 

 とすればつまり、メタルスライムのいたところにラウディアラの遺体があったということか?

 

 そんなことを考えると、察したアルルカがそれに答える。

 

 「君が思ったとおりだよ。メタルスライムが生息していたあの場所、森深くの人目につかないあの場所の地中にラウディアラの遺体を埋めた」

 

 「どうしてそんなことを? 神の世界に持って帰ればよかったのでは?」

 

 「いやまったくその通りなんだけどね。ボクの上司、最高神はラウディアラの遺体を神界に持ち込むことを拒否した。

 彼女は嫌われ者だったからね、その反応も当然っちゃ当然だ」

 

 「それで仕方なくドランジスタに?」

 

 「理由はそれだけじゃない。最高神はボクにこう命令してきた。悪神が戯れに創り出した狂気の世界。そんなものは即刻破棄せよ、と。

 けれどボクはとてもそんなことは出来なかった。創造主がどれ程の悪だろうとも、生まれてきた命に罪はない。

 だからボクは上司に持ち掛けた。ドランジスタにラウディアラの遺体を封印してはどうか、と」

 

 

 「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 

 俺は一通りの理解を示したが、メタルスライムについて疎い他の面々はあまり納得しきれていないようだ。

 

 

 「えっとつまり…… アルルカ様はすごいけどラウディアラって神様は一枚上手だったってこと……?」

 

 おそるおそるといった様子でエミリアが言う。

 しかしアルルカは否定せず意外にも謙虚な反応を見せる。

 

 「……そのとおり、やっぱりボクは半人前だよ。ボクがカルラにしたことを考えるとなおのこと、ね」

 

 そう言ってアルルカがこちらに視線を送る。まるで、そろそろ頃合いだと合図を送るかのように。

 

 

 「……そろそろ私から質問しても?」

 

 「どうぞ」

 

 「それじゃあ単刀直入に。いったい今私の身に何が起きているのですか? なぜ、マチューと分離するようなことになったのでしょう」

 

 「ふむ、どうやら君はマチューのことが気がかりなようだね。

 でも残念ながらボクから言えることは何もないよ。君達の間に起きている不可解な現象は、完全にボクの想像を越えたものだ」

 

 「つまりこの状況は貴方が望んだものではないと?」

 

 「そうだよ」

 

 アルルカのそんな返事を受けて俺は少し言葉に詰まる。

 そのとき隙間を埋めるように口を開いたのはビスタ。

 

 

 「それって大丈夫なの? もしかたらカルラ君の身に何か異変が起きたり……」

 

 「そうだね、万が一という可能性も十分にある」

 

 なんてことを言い出すアルルカ。

 

 

 「……いったいどういうことですか?」

 

 すると当然と言うべきか、俺はそれに反応せざるを得なく、自分でもわかるくらいには鬼気迫る勢いになっていたと思う。

 

 そんな俺とは対照的に、相変わらずの様子で答えるアルルカ。

 

 「そもそもだ。マチューは身体を自分のものに出来ないから君から離れた。

 つまり、今のマチューは実体を持って生きているようでほぼほぼ精神体に近い状態で現世に介在している。ということは……」

 

 「あの、もう少し分かりやすく……」

 

 「ああすまない。 つまり、だ。 マチューは

 かなり無茶をして活動しているということだ。

 ドランジスタではすでに何十年もの時間が経過している。そんな長い時間無茶し続けて存在を維持し続けれるわけがないってことさ」

 

 「そんな…… マチューはガウス達を倒すことは出来たんですか?」

 

 「四人の内ギーグバーンは既に倒したみたいだね。オリヴィアとガウスはまだ生きているようだ」

 

 そのとき、何かを思い出したロロが割って入る。

 

 「あれ? てか勇者とその仲間って合わせて四人いるんだよね? 私達が見たのって三人だけじゃない?」

 

 「言われてみれば確かにそうですね、魔法に長けた女性の仲間がいたはずです」

 

 「ああ、そうだね。 彼女のことに関しては色々複雑な事情があって…… おや?」

 

 

 何故かアルルカが何もない暖炉のすぐ側に視線を向ける。


 つられて俺達もそこを見るが、やはり何かあるわけではない。

 

 

 

 と、思ったそのとき。

 

 

 

 ほんの少し、まるで蜃気楼のように空間が揺れる。

 それは次第に大きくなって、次の瞬間床に魔方陣が形成されては辺り一面を光が大きく照らした。

 

 

 「な、なんだ!?」

 

 

 咄嗟のことに全員の目が眩む。

 

 もしこれが何者かの襲撃だったならば抵抗出来ていなかっただろう。

 

 「……」

 

 しかし突如としてそこに現れた一人の女は、俺達を一瞥するもこれといった動きを見せようとはしない。

 

 緊張した状況に、アルルカがコホンと咳払いして先陣を切った。

 

 

 「……君はジェシカ・ハンフルフ。勇者ガウスの妹であり元パーティーメンバーだね?」

 

 「そうよ、やっとここまで来れた。はじめまして女神アルルカ。そしておひさしぶり、カルラ・セントラルク」

 

 

 アルルカに対しては"はじめまして"、そして俺には"ひさしぶり"と声をかけてくる女。

 

 ジェシカ・ハンフルフ。確かにマチューの記憶にある顔だ。

 

 しかし何故俺の顔を見てひさしぶりと言う?

 

 マチューではなく、こいつは俺のことを知っているというのか?

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