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122. 英雄の旅路②

長らくお待たせして申し訳ございませんでした。今日から投稿再開します。


 あれからおよそ十年の歳月が過ぎ、少年は青年となっていた。

 

 

 そして青年は魔王討伐を掲げて旅をしていた。

 

 

 一人ではない。三人の仲間と共にいる。

 

 

 

 「なあー、 いったい次の街はいつになったら着くんだー? ちょっと休憩しようぜー」

 

 筋骨隆々の野性的な雰囲気でありながらも、その実とても気さくで取っつきやすい性格をした男、ギーグバーン・グレイドフォール。

 

 

 彼は武器を用いず己の鍛え上げた肉体と研ぎ澄まされた武術の数々で戦う近接戦のプロフェッショナルである。

 

 このパーティーに入るまでは武術の達人である祖父と共に山籠りの修行をしていたが、より強い相手を求めて、あるいは人々からの称賛を期待して勇者のもとに馳せ参じた。

 

 

 「ギーグバーン? あなたのそういうすぐに休みたがるところわたくしあまり好きではないです。

  今こうしている間にも魔族の襲撃に怯え戸惑っている人々が大勢いるのですよ? その人達のことを思えば自然と足が前を進むというものでしょう」

 

 だらけたギーグバーンの様子を見かねてそのように意見したブロンド髪の美少女はオリヴィア・ノーツ・ナルシスカ。ラウディアラ教団の聖女だ。

 

 彼女は未来の出来事を預言することが出来る特殊能力を持っていて、その能力を買われてラウディアラ教団に保護されることになった。

 

 青年が勇者であることを預言したのも彼女で、他にも神聖魔法を得意としている。

 

 「いやそうは言うけどよー…… おまえらと違って俺はこのバカ重い荷物背負ってんだぜ? 流石にもうヘトヘトだって」

 

 「お黙りなさい。 それならいっそこれも鍛練だと思えばよいのです。 ほぉら、そう思うと歩けませんか?」

 

 「おおっ! 確かに! 流石聖女様だ!」

 

 

 途端に機嫌が良くなり足取りが軽くなるギーグバーン。

 

 そんな単純な彼の様子を見て、オリヴィアは誰にも聞こえないようにぼそり、ほんと脳内筋肉迷路ですねえ…… と呟いた。

 

 

 そして、もう一人の同行人は卓越した魔法技能を誇る魔法使いの少女。

 

 

 「……」

 

 

 彼女は一切会話には入ろうとせず、ただ黙々と歩き続けていた。

 

 丸い眼鏡をかけ、栗のような艶やかな茶髪のその少女はジェシカ・ハンフルフという青年と同じ姓をした名だった。

 

 そう、何の因果か偶然か、幼い日に別れたはずの青年とその妹は、王国の召集によって再会することとなっていたのだ。

 

 

 「てかさぁ、ガウスとジェシカってほんと無口だよなぁ。 特に二人で会話しているところなんて見たことねえよ」

 

 「貴方はやたらに無駄口が多いですけどね」

 

 「二人の分まで俺が喋ってやってんだよ。 楽しい会話がなきゃ長旅も続かないだろ?」

 

 「屁理屈……」

 

 

 ギーグバーンとオリヴィアがそんなことを話していても、青年とジェシカはほとんど口を開くことはない。

 

 どうにも二人には他人と無闇に関わることを嫌う傾向があるようで、お互いが兄妹であることも明かしてはいないのだった。

 

 

 「魔物だ、構えろ」

 

 

 青年が口を開くのは専ら戦闘のときのみ、彼は迅速かつ的確な指示でパーティーを動かしていた。

 

 

 「よっしゃ!」

 

 「いきますわよ!」

 

 

 そのおかげでこれまでの旅の中で苦戦らしい苦戦は今までなかった。

 だからギーグバーンとオリヴィアはコミュニケーションがほとんどなかろうと青年のことを信頼していた。

 

 

 「……〈ボ・ルテ・ティル〉」


 

 そしてジェシカも戦闘になると兄の指示には従順で、正確無比な攻撃で魔物を蹴散らしていく。

 

 

 「……」

 

 

 そして青年はこの四人の中で誰よりも強かった。

 

 その剣は幾度となく人類の敵を薙ぎ払い、人類の障害を突き崩してきた。

 

 

 つまりこのパーティーは強かったのだ。少なくとも、人類側の最大戦力であることは間違いなかった。

 

 

 しかし、魔王軍の魔族、特に幹部級ともなるとそんな四人をもってしても一筋縄ではいかなかった。

 

 つい先日も、運悪く出会してしまった魔将軍と名乗る男はまさしく圧倒的な強さだった。

 

 もしも青年の判断が誤っていれば、あるいは少しでも遅れていればこの四人の命はなかっただろう。

 

 

 「……見つけた」

 

 

 力なき正義に価値はない。それでは誰も救えない。

 

 過去の過ちから学習せずに同じ事を繰り返すのは人のやることではない。進化をやめた猿のすることだ。

 

 それはあの日の悲劇を片時も忘れなかった青年の持論だ。

 

 だから彼は、それが修羅の所業だと理解してはいてもさらなる力を求めざるを得なく。

 

 

 

 森深い魔物の里を襲撃したのだろう。

 

 

 

 「うぉぉぉぉ!メタルスライムがこんなに!ラッキーだな!」


 


 「口を動かす前に手を動かせ、僧侶職と魔法職じゃ有効打を与えられないから俺達が率先して動かなければ」




 「わたくし達はおとなしく見物していますから、ダメージを受けたら言ってくださいね~」




 「……」

 

 

 

 

 青年は剣を振るった。

 

 なんの罪もない、誰にも危害を加えず慎ましく生活していた魔物に対し剣を振るい続けた。

 

 一匹、また一匹、魔物達はその白刃の贄となっていく。

 

 一つ、また一つ、青年は罪を重ねていく。

 

 

 されど勇者は止まらない。止まればそこで終わりだから、また同じ過ちを繰り返すだけだから。

 

 

 

 「剣技《魔神突き》、悪く思うな、これも正義のためだ」

 

 

 

 青年は魔物を深く突き刺しながら冷たく言い放った。

 

 そうして次の標的を見定めようとすると、ちょうど子供の魔物が目に入った。

 

 

 青年は素早く駆け出すが、それを阻む別の魔物。

 

 

 その魔物は二回りほど体が大きく、様子を察するに親であることを伺わせた。

 

 

 「……」

 

 

 きっとそのとき、青年はその光景に見惚れてしまったのだろう。

 

 わずかばかり残されていた人の心が揺らいでしまったのだろう。

 

 だから青年は魔物の覚悟を認め子を追うことはなかった。

 

 

 

 「いやぁ狩った狩った~、今のでかなりレベルが上がったな!」

 

 「わたくし新しい魔法を覚えました。 さっそく後で試してみましょう」

 

 「……」

 

 

 青年は己の内に何かがみなぎる感覚を覚えた。

 

 勇者は一般人よりも経験値を多く得ることが

出来る特性を持つ。

 

 それは、倒した相手の魂そのものを吸収することが出来るから。倒した相手の全てを、余すことなく己の糧にしているからだ。


 

 

 青年達は再び歩き始めた。

 

 全ては永遠に争いのない世界を実現するため。

 

 そのためならばどれほどの犠牲を払おうともかまわなかった。

 

 

 

 

 そうしてまた月日が経ち、青年はとある男と出会った。

 

 

 青い髪に青い肌をしたその男は、一見魔族のように見受けられたが彼はそれを否定した。

 

 その男はとても興味深いことを口にした。

 

 

 「このまま魔王を倒したところで、永久の平和など訪れはしないぞ? また同じ事を繰り返すだだけだ」

 

 

 青年は最初その言葉を信じようとはしなかった。

 

 しかし男の話には妙な説得力があった。

 

 たとえば、青年はライオが一度もたらした平和がなぜ崩れたのか気になっていた。

 

 そしてなぜ、魔王は定期的に誕生してしまうのか。

 

 男は青年が心の内で密かに疑問視していたことに悉く触れてはその回答を用意していた。

 

 

 その答えを耳にしたとき、青年の疑問は全て解消された。しかしそれと同時に焦りも覚えた。

 

 男が言うように、このままでは魔王を倒したところで真の平和は訪れないからだ。

 

 

 それは奪ってきた命に意味が無くなってしまうということ。

 

 

 そんなことはあってはならない。

 

 

 それは正義ではない。

 

 

 だから青年は、男の誘いに乗った。

 

 

 この世界を狂った円環から外すため、たとえ己が時の牢獄に囚われようとも、この血に濡れた旅路に終わりが無くなってしまうのだとしても、自身が世界平和の礎となれるのなら何の問題も無いと決意したのだ。

 


 男の誘いというのは、すなわち青年を不老不死にするというものだ。

 

 いったいそれで向こう側に何のメリットがあるのか、疑う余地はもちろんあったが、曰く青年達を応援したいとのことだった。

 

 青年はその言葉が嘘であることを見抜いていた。

 

 だが、嘘だとわかっていても拒むことはしない。

 

 真の平和をもたらす方法がそれしかなかったからだ。

 

 

 「……まあ、遅かれ早かれ君は不老不死を望むことになるよ。最低でも、魔王を倒せば嫌でもそうなる」

 

 「問題ない。今すぐ俺を不死にしろ」

 

 

 

 青年の決断は早かった。 思考に時間を取るのは愚行であるというポリシーがあったからだ。

 

 嵐の夜、青年は悪魔に魂を売った。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 その翌日、青年は驚愕した。

 

 自分だけだと思っていたはずが、何故か他の三人まで不老不死になってしまっていたのだ。

 

 青年は慌てて青髪の男に問いただそうとした。

 

 問いただそうとしたが男はもうどこにもいなかった。

 

 しかし仲間達が言うには彼らは皆自分の意思で不老不死になったのだという。

 

 ギーグバーンは永遠の強さを、オリヴィアは永遠の美しさを。

 

 ジェシカは、理由は口にしなかった。

 

 

 とにもかくにも勇者一行は皆不老不死と化した。

 

 先日メタルスライム達を襲いレベルが大きく上がったこたもあって、もう誰も彼らのゆく道を阻むことは出来なくなってしまっていた。

 

 

 ゆえにかつては苦戦していた魔王軍幹部も難なく打ち破り、いよいよ魔王城にて待ち構える魔王との直接対決のときが訪れた。

 

 

 

 「……来たか勇者ガウスよ」

 

 「魔王フルード、貴様の魂貰い受けに来た。観念しろ」

 

 「フフッ」

 

 「なにがおかしい」

 

 「いんや? 他者を殺め、魂を喰らい、挙げ句の果てには不死の肉体を得ておまえが未だ人間の大義を掲げることがあまりに変でな」

 

 「俺が化物だとでも言いたげだな」

 

 「化物だよ、とうの昔に。 我はおまえを許しはしない」

 

 「だが、勝つのは俺達だ。幾ら魔王と言えども不死身を前に成す術はない」

 

 「……本当にそうかな?」

 

 「なに?」

 

 

 瞬間、魔王フルードは魔法を発動させた。

 

 それはこの部屋全体に設置されていた魔法。

 

 

 「これは、まさか……」

 

 「想像通りだ。これは"封印魔法"。 願うことなら二度とおまえ達が目覚めないことを祈るよ」

 

 「……クソが」

 

 

 そうしてガウス達は封印された。

 

 錆びついた壺の中で、永い永い刻を過ごした。

ご覧頂きありがとうございました。

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