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12. 仙人と飯


 扉を開けて部屋に入ると、そこには巨大な男の姿があった。角の生えた奇妙な面をつけ、ローブを全身に纏い、動物の骨や骸骨でできた装飾品なんかをあらゆる部位に身に付けている。いかにも怪しい風貌だ。

 

 ほ、ほほう、けっこう迫力あるじゃねえか。仙人というからジジイを想定していたが、中々いい体格をしてやがる。別にビビってなんかいねえ、ちょっと驚いただけだ。

 

 ヤツの身長はゆうに俺の倍はあり、見上げなければ顔を見ることができない。まあ面をつけているからどのみち見えないんだが。

 

 そういえばいつの間にかあの妖精はどこかに消えたな、役目を終えて立ち去ったか?まあ気にすることはない、さっそく俺の話を進めさせてもらうとするか。

 

 「あんたが仙人か?」

 

 「……」

 

 「俺はカルラ・セントラルク、あんたは?」

 

 「……」

 

 ほぉー?俺にシカトを決め込むとはいい度胸じゃねえか、あの妖精にしてこの保護者アリだな。仙人だろうが関係ねえ、これは一度締めてやらないといけないかもしれん。

 

 もはや争いは避けられない。俺が殺気を放つとそこは一瞬で戦場に変わる。

 

 そうして俺が構えるために両の腕を上げようとしたとき、部屋の奥から何者かが姿を現した。

 

 「おーおーおーなんじゃ来てたんかい、気がつかんかったわ」

 

 現れたのは老人だった。

 

 頭頂部で結わえられた白髪に特徴的な尖って飛び出た鼻。その鼻以外のパーツは全てやたらフッサフサの眉毛と髭に覆われていて表情一つ読み取れない。耳は尖っていない、エルフではないようだ。

 

 腰はひどく曲がっていて、全身プルプルしている。杖がなければ立つこともままならなさそうだ。身に付けるものは少なく、もはや半裸と言っていい状態だ。かろうじて見にまとっている謎の紋様が刻まれた布は異国のものだろうか、ここらへんでは見ない代物だ。

 

 ついまじまじと見つめて気がついたことは、どっからどう見てもこいつが仙人の出で立ちをしているということだった。

 

 「あ、あれ?それじぁこのデカいのは……?」

 

 「ん?こやつはワシの弟子兼助手兼家政婦のマガンタじゃ、少し人見知りをする癖があってのー、初対面の相手を見ると緊張して硬直してしまうんじゃ」

 

 き、緊張!?硬直!?じゃあさっきのは俺が勝手に空回りしてただけ!?

 

 

 一人でイキってしまっていたことに気がつき途端に顔が熱くなる。恥ずかしいったらありゃしない。

 

 何が戦場に変わるだ、バカじゃねーの!

 

 数秒前の自分を心のなかで罵倒して精神の衛生を保った。強いメンタルとはこのようにして出来上がっていくのだ。と、俺のなかのマチューが言っている。

 

 「さて、要件を聞きたいとこじゃが、おまえさん、腹は空いておらんかの?先程のロロの無礼のお詫びとしてささやかながらもてなしたいんじゃが」

 

 「別に気にしてはいないが、そう言うのなら世話になろう」

 

 ポーカフェイスを貫いて応答する。よし、どうやら俺の焦りは感づかれてないらしい。

 

 「ではこちらに着いて参れ」

 

 そして俺は部屋の奥に案内された。

 

 「ここへ座ってくれ」

 

 外套を脱いで言われるがままに指定された席に座る。前には机があり、小綺麗なテーブルかけが敷かれている。どうやらここに食事を配膳してくれるようだ。少しして食事を持ってきたのはさっきいたマガンタとかいう大男だった。意外に綺麗な所作で持ってくるもんだから、そのギャップに思わず驚く。

 

 「……」

 

 マガンタは俺の前に食事のトレイを置くなり何も言わず去ってしまった。さっきからどうにも怪しいやつだ。

 

 まあそんなことは気にしないで用意された食事に目をやると、仙人の家で出される食事とは思えないほど、豪華なものがそこにあった。

 

 野豚の香草焼きに青菜のサラダ。パンはまさか焼きたてか?香ばしい匂いがここまでしてくる。さらには鶏卵の目玉焼きに薫製肉、湯気を立てているのは根菜のシチューだ。よく見ればここにも肉が入っているじゃないか。

 

 久しぶりにまともに食う肉祭りの食事に俺は思わず喉を鳴らす。ああ待ちきれねえぜ!

 

 「いただきます!!!!」

 

 俺は相手の許しを得る前に先に動き出していた。一度食べだしてしまってはもう止まらない。

 

 うまい!うまい!なんだよこの料理は!こんなうまいものはじめて食べた!!!

 

 パン一つとってもそれは今まで俺が食ってきたものとはまるで違った。表面パリパリ中はふわふわモチモチ、口に含めばあの香ばしいにおいが口や鼻の中を満たし、ほのかなバターの風味がさらなる食欲を呼び起こさせる。

 

 香草焼きもやべえ、野性味溢れる肉と弾ける脂の甘味と旨み、本来それだけでうまいはずなのに、はじめて口にするスパイシーな香草の風味がワイルドな肉の風味を和らげ口に残った脂をさっぱり流してくれる。もうこれだけで無限に食えてしまう。

 

 このパンに添えられている粘土のようなものはなんだ?気になってなにもつけずそのまま食べてみる。

 

 こ、これは!

 

 しっとりまろやかな口触りの中の素朴ながらも奥ゆかしい味……

 豆だ!蒸かした豆を潰してそれをクリームやバターと和えているのか!?少しガーリックの風味もするな!やや強めの塩気とペッパーの刺激がとても心地いい!パンにも合う!!!

 

 豆でこんな料理が出来上がるものなのか!正直見くびっていたぞ!

 

 「うまっ!うまっ!」

 

 俺はなりふり構わず食べ続けた。あっという間に全て平らげ、腹をさするとパンパンに膨らんでいた。

 

 「ごちそうさま……もう食えねえ……」

 

 「いい食いっぷりじゃな、それでは食後のティータイムとしよう。マガンタや、お茶を用意してくれえ」

 

 仙人の合図ですぐにお茶が運び出される。事前に用意してたのか、えらく早く出てきた。

 

 「おおぅ、茶もうめえな……」

 

 ずずず、とすすって口に広がるのは豊かなハーブの香りと繊細な茶葉の渋み。飲んでいるだけで旅の疲れが癒されてしまうようだ。

 

 「気に入ってくれたようでなによりじゃ、さて、食事も済んだところで本題に移ろうかの、旅人よ、いったいこの儂になんの用じゃ?」

 

 「そうだな、じゃあ単刀直入に言わせてもらう、仙人、この俺を〈精霊使い〉として育ててはもらえないだろうか」

 

 「なぬ?〈精霊使い〉じゃと?もしやおぬしは職を授かったのか?」

 

 「ああ」

 

 そう言って俺は〈精霊使い〉と記された自分のステータスプレートを相手に見せる。すると仙人は少し驚いたか眉をピクリと反応させた。

 

 「ほうほう、そうかそうか、こんな子供が一人で来るから何事かと思ったら、そういうことだったか、……よろしい、ではまず儂の教えを受ける資格があるか試させてもらう、ついて参れ」

 

 試験か、まあいい、俺ならどんな試験も突破してみせるさ。俺は大人しく従い、仙人の後をついていった。

 

 そうして案内され小屋の裏口の先に出た。普段この場所は薪割に使っているのだろうか、そこら中に木片が散らばっている。

 

 「ぬしにはここで実力を確かめさせてもらおう、……おーいマガンタ、こやつの相手をしてやれい」

 

 仙人の声に応じてぬらりとマガンタが俺の後ろから現れる。相変わらず無言で、今何気に一切気配を感じさせなかった。もしかして、けっこう強かったりするのだろうか。

 

 いやまあ、この図体だし弱いわけはないよなぁ。おもしれえやってやろうじゃねえか。

 

 互いに得物を構えて向かい合う。マガンタはやたら長い木刀を持っていた。

 

 「ぬしの武器は真剣でもなんでもよいぞ、ルールはぬしが制限時間30分以内に一撃でも浴びせることが出来れば勝ち、審判は儂が務めよう」

 

 なんだそのルール?俺に有利すぎるだろ!

 

 「手加減してくれるってか?こっちとしてはありがたいが、弟子が怪我しても知らんぞ」

 

 「ほっほっほっ」

 

 こいつ子供だからって完全に舐めてるな。そっちがその気なら俺は全力で行かせてもらうぜ。

 

 「では……はじめい!」

 

 仙人の合図で試験が開始される。

 

 「うおおおおお!」

 

 先手必勝。俺はうなり声をあげて威勢よく駆け出した。

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