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115. 信じる力は無限大


 場所は移り、オベリスク頂上〈神の間〉。

 

 そこではアベルとビスタ達が苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

 

 「覚悟しろアベル!!!」

 

 「……」

 

 

 リサとアルルカの二人が先陣を切ってアベルに仕掛ける。

 

 リサは最初から影尾を生やして全力で挑んでいて、力の使い方を思い出してきたのか、ラビアンとの戦いのときよりも動きはさらによくなっていた。

 

 

 4体の影分身が一斉に襲いかかる。

 

 

 「フッ、甘いな」

 

 

 しかしアベルは指を鳴らして、それを合図に分身達が一様にして消え失せる。

 

 

 「甘いのは貴方……」

 

 

 しかし隙を与えないようにアルルカが続く。

 

 彼女は見るからに鈍重なメイスを軽々と持ち上げ振り降ろした。

 

 

 「だから?」

 

 

 しかしアベルはそれを素手で掴んで受け止めてしまう。

 

 そして、何かの呪術を発動させたのだろう。彼の手に接触した部分からメイスが黒く侵されていく。

 

 「ゲロロ!」

 

 そこをジゴロウが粘液を飛ばして彼から離脱の選択を強制させる。

 

 結果、アルルカの武器は呪われることはなかった。

 

 

 「これは……」

 

 そのときアベルは違和感を感じておもむろに自分の手を見やった。

 

 手の表面が、メイスと接触した部分が僅かに霊体化してしまっているのだ。

 

 

 「……」

 

 

 それを確認してアルルカは少しだけ得意気に笑みを浮かべた。

 

 彼女は呪われると同時に自身の属性である聖なる属性を司った魔力を送り込んでいたのだ。

 

 それはアベルにとってはまさしく弱点。

 

 彼の手がもとに戻るには少しだけ時間がかかる。

 

 

 「……チッ、 まずはおまえからヤる方が良さそうだな!」

 

 そう言ってアベルは驚異的なスピードでアルルカとの距離を詰める。

 

 しかし彼は直線的な動きを見せておきながらアルルカ目前のところで姿を眩ませた。

 

 

 「どこ……?」

 

 

 辺りを確認しながらも慌てるアルルカの背後、そこからゆっくりと伸びる青い腕。

 

 

 「させないっ!!!」

 

 

 それにいち早く気がついたエミリアは雷撃を放った。

 

 直に当たり、アベルの企みは失敗に終わる。

 

 

 「ならば数で圧倒してやろう!」

 

 

 そう言って、アベルは幾つか召喚魔方陣を展開する。

 

 すると、そこから虫のように沸き出てくるドゥームレイダー達。

 

 「そう来ると思っていたわ!」

 

 しかしそれを、ずっと動きを見せなかったビスタが息巻いて対処する。

 

 

 彼女は仲間達が前に出ている裏で魔力を溜めていた。

 そして今がそのときだと渾身の大魔弾をドゥームレイダーの群れもろとも魔方陣目掛けて発射する。

 

 すると魔方陣はその衝撃の大きさのあまり消え失せて、巻き込まれたドゥームレイダーも例外無く朽ち果てていく。

 

 

 「こんな小細工に走るようじゃあ、案外余裕がなかったりするのかしら!?」

 

 「はっ! 戯れ言を!」

 

 

 ビスタの指摘は少なからず当たっていた。決して表情には出さずとも大なり小なり、アベルは先のヨルンとの戦いで相当消耗してしまっていた。

 

 とても本調子と言い切れるような状態ではなかったのだ。

 

 

 だから彼は、自身が回復する時間を稼ぐためにドゥームレイダーに頼っていた。

 

 

 「だが、さっきのがまたすぐに撃てるのかな!?」

 

 

 決して主導権を握らせないように、アベルは執拗に再召喚する。

 

 

 「キィキキキキキキ!!!!」

 

 

 すると今度のドゥームレイダー達は登場するなり分身しはじめた。

 

 

 「完全に時間を稼ぎにきてるね……」

 

 

 相手の意図は読めていても厳しい状況に変わりはしない。たまらずエミリアの表情が苦しくなる。

 

 

 「うううっ! これでもくらえー!」

 

 

 そのとき、どこからともなく放たれる閃光。

 

 それに照らされた分身達は砂のように崩れ落ちていく。

 

 それらの光を起こしたのは妖精のロロであった。

 

 「ロロちゃん、大丈夫っ!?」

 

 エミリアがロロに声をかける。

 

 「……大丈夫だよ。いつまでもくよくよしてらんない。私も戦う、ちょうろーの仇は私が取るんだ!」

 

 そう言ってロロが向けた視線の先、そこには無惨な姿で横たわるヨルンの亡骸。

 

 彼女は怒りに震えていた。家族同然だったヨルンをこんな目にあわせたアベルに一矢報いたいと意気込んでいたのだ。

 

 

 なぜ精霊使いでないエミリアがロロと会話が出来ているのか。

 

 それはこの〈神の間〉に渦巻く魔力がそうさせていて、どういうわけか精霊使いでなくとも精霊を視認出来るようになっていたのだ。

 

 故にエミリア達は〈第六波〉を受け悲鳴をあげる大精霊達の姿も確認していた。

 

 一目でわかる、自分達よりも強大な力を持つ彼らでさえアベルには敵わない。

 

 しかしそれらを踏まえても、彼女達は怯むことなく果敢にアベルに挑んでいた。

 

 

 なんとしてでもカルラが来るまで時間を稼ぐ。少しでも邪神の復活を遅らせる。

 

 それらを作戦目的にし、彼女達は心を1つにして戦っていたのだ。

 

 

 「まだ分からないのか! 雑魚が束になろうともしょせんは雑魚! 蟻が象を降す道理はないよだよ!」

 

 しかしアベルの闘志は決してひけをとらない。

 

 最愛の者との再会を目前にした彼にとって、余計な時間をかける理由はなかった。

 

 

 「ハァッ!」

 

 

 彼は両の手から衝撃波を放つ。

 

 それは到底ビスタ達が防ぎ切れるものではない。

 

 

 「きゃ!?」

 

 彼女達は成す術なくたちまち吹き飛ばされてしまう。

 

 唯一アルルカだけが堪え耐えていた。

 

 しかし、それもアベルの計算通り。

 

 

 「宣言通りだ。まずはアルルカおまえから消してやろう」

 

 アベルはアルルカの顔に手をかざして障気を送り込む。

 

 

 「あ、アアアアア!!!」

 

 

 アルルカは絶叫し、その場で力を失い倒れた。

 

 

 「アルルカ!」

 

 リサが叫ぶ。

 

 

 「人の心配をしている場合か!?」

 

 そんなリサの背後をとって、またもアベルは〈第六波〉を放った。

 

 

 「ぐぅ…… うっ、あああああぁぁぁぁ!!!」

 

 例に違わず、リサは痛々しい悲鳴を上げる。

 

 

 「……ん?」

 

 

 仕留めたことを確信したアベルだったが、しかしそのとき彼の身体に異変が起きる。

 

 

 「これは、動きが封じられ……」

 

 

 どういうわけか彼の身体は金縛りにあってしまったかのように身動き取れなくなってしまっていた。

 

 「か、かかったな……!」

 

 

 苦しみながらもリサはそう声を発した。

 

 それはつまり、この現象は彼女が仕向けたということ。

 

 

 「黒天秘技〈影縫〉…… こんなものに掛かるなんて相当マヌケだぞおまえ……」

 

 

 「ほざけ、どうせ数秒ももたないだろう。こんな時間稼ぎをしていったい何を……」

 

 

 ひどくつまらなそうにリサを睨んだアベル。

 

 彼はまるで予想出来ていなかった。

 

 仲間が必死の思いで作った好機。それを見逃さんと電気を矢に集めていたエミリアがアベルの頭部に狙いをつけていたことに。

 

 

 「……バイバイっ」

 

 

 気がついたときにはもう遅い。

 

 額に汗を浮かべながら、エミリアは別れの挨拶を口にした。

 

 その矢に宿る雷は、威力だけなら精霊化したヨルンと遜色ないほど。

 

 間違いなく、アベルを瀕死に追い込むことが出来るだろう。

 

 

 「なんだと!? この小娘どもがッ!」

 

 

 悪態をつくアベルだが、エミリアの引く弦が緩まることはない。

 

 

 「クソ、クソォォォォォォォォォ!!!!! ……なんてな」

 

 

 瞬間、アベルがほくそ笑む。

 

 

 「だ、だめエミっち!」

 

 そのアベルの思惑を、ロロはいち早く察した。

 

 察して、エミリアに攻撃をやめさせるように前へ飛び出す。

 

 「なっ……」

 

 突然の出来事にエミリアは慌てて矢が対象から逸れてしまう。

 

 それはロロが望んだ結果。

 

 

 エミリアはそんなロロの無茶な行動を咎めようとはしなかった。

 

 彼女も気づいてしまったのだ。

 

 自分の攻撃からアベルを守ろうと立ち塞がる人物。

 

 

 それが、力尽きたはずのヨルンだったことに。

 

 

 「そ、そんな……」

 

 「ククク……」

 

 そんなことがあってはならない。

 

 幼馴染みのかけがえのない恩師、その人物はもうこの世にいない。

 

 それだけでも受け入れがたい事実であるというのに、このアベルという男はさらに命を弄ぶのだという。

 

 自らの身を守るために、自らが殺めた命を蘇らせて使役させたのだという。

 

 

 エミリアの手が震える。動きが鈍る。

 

 そして、彼女が二の矢を引くことはもうなかった。射てるわけがなかった。

 

 そのたった一つの出来事だけで、アベルはエミリアの戦意を奪ってみせたのだ。

 

 

 「外道が……!」

 

 「なんとでも言え。それより、術の効果が薄れてきている、ぞ!」

 

 怒りを見せるリサに、自由を取り戻したアベルは回し蹴りを繰り出した。

 

 「ぐぁっ!」

 

 「リサ!」

 

 そして彼女は地に伏せうずくまる。

 

 もう立ち上がることは出来なかった。なんとかして持ちこたえていた〈第六波〉がいよいよ彼女を侵食しきってしまったのだ。

 

 

 「残るはおまえ達だけだ!」

 

 アベルはその勢いのまま失意に呑まれるビスタとエミリアに魔力弾を放った。

 

 「キャァァァァ!!?!?」

 

 反応が遅れたビスタ達は回避が間に合わず被弾する。

 

 彼女達の美しい肌からは何ヵ所も出血の跡が見られた。

 もう、立つことすらもままならない。

 

 

 

 「ククク、アハハハハ…… しょせんは無駄な足掻きだったな。人の心とはかくも脆い…… さあ、今度こそ儀式の仕上げを……」

  

 念を入れてアベルはビスタの側まで近づき彼女がもう動けないことを確認する。

 

 そうして勝ち誇ったように笑って、踵を返し邪神の亡骸へと足を向けた。

 

 

 「まちな、さい……」

 

 だが、そんな彼の足を這いずりながらビスタが掴む。

 

 その力は恐ろしく弱々しい。

 

 もう、彼女の命は風前の灯火だ。

 

 

 「……やめておけ、もうおまえにどうすることも出来ない」

 

 「そうはいかないっ……! カルラ君が来るまで私は絶対に諦めないんだか、ら……!」

 

 

 そんなビスタの覚悟を前にして、アベルの頭に血がのぼる。

 

 

 「……どいつもこいつも。 二言目にはカルラか。 なんなんだ、いったいあの男がなんだと言うのだ?

 あいつはもう二度と立ち上がることはない。百歩譲って呪縛から逃れたとしても、おまえ達なんて見捨てて逃げるに決まっている」

 

 「そんなこと、ない!」

 

 「あ?」

 

 「彼は、カルラ君は決して仲間を見捨てるような人じゃ、ない……

 彼は嘘をつかないの。また一緒に花を供えにいこうって約束してくれたの……! だから、だからカルラ君は絶対に来る!!!」

 

 呼吸もままならないはずのビスタは強い口調で言い切った。

 

 

 それに呼応されてか、エミリアも肘を突き立てなんとか身を起こし口を開く。

 

 「そうだよ…… カルラはいつだってピンチのときに来てくれるの……

 どれだけ離れていたって、どうしてか助けに来てくれるのっ……!

 今だってきっと来てくれる。私はそう信じてる!」

 

 

 そして、エミリアに続いてロロが叫ぶ。

 

 「そうだそうだ! カルラが来たらおまえなんかイチコロだ!」

 

 

 「ああ、よくわかったよ。 ……おまえ達が、底無しの阿呆だということがなッ!!!

 ならば奴が来たときに出迎えられるように、おまえ達の首を並べておいてやろうかッ!!!」

 

 どれだけ痛めつけられても、どれだけ恐怖を与えられてもビスタ達は決して屈することはなかった。

 

 それはアベルにとっては理解を越えた異常事態。

 

 そして、彼女達の執念の根底にはやはりカルラの存在があって……

 

 間も違いなく格下であるはずの相手を思う通りに出来ないことで、アベルの苛立ちはピークに達していた。

 

 

 彼はどこからともなく断頭台に用いられるような巨大な刃をビスタ達の頭上に出現させる。

 

 

 「死ねッ!!!」

 

 

 そして、まるで耳障りな雑音を掻き消すかのように、その刃を振り落とそうとした。

 

 

 「……なにっ?」

 

 

 しかしそのとき不思議なことが起きた。

 

 その刃は対象を穿つ前にことごとく謎の金色の炎に包まれ消滅してしまったのだ。 

 

 

 「……なんとか間に合いましたか」

 

 

 「カルラ!」

 

 「カルラ!」

 

 「カルラ君!」

 

 

 そして、その男は舞い散る羽と共にどこからともなく姿を現して、ビスタ達は彼の登場を前にして歓喜した。

 

 

 「カルラ・セントラルクッッッ!!!!」

 

 

 アベルはその姿に驚愕し叫ぶ。

 

 男の姿は、エルフでも人間でもなく、少しだけもとの姿の面影を残した人外のものへと、まるで精霊のようなものへと変貌を遂げていたからだ。

 

 

 「待たせたな悪逆大魔アベル、ここからは私が相手だ」

 

 

 指差し、睨み付け、啖呵を切ったカルラ。

 

 

 彼の全身は金色に輝き、背中には一対の翼が生えていた。

 

 それはまさしく精霊化。

 

 目映い金色の光が希望を照らしていた。

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