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103. 誠意


 「到着しましたよカルラ様!」

 

 「ありがとうポロンロ」

 

 ビスタが俺のもとを離れて数時間、俺は自分の屋敷に戻ってきた。

 

 この間、俺は何もしていなかったわけじゃない。むしろその逆だ。

 

 いてもたってもいられなくて、何かビスタのために出来ることはないかと行動を起こし、とあるものを探すためドランジスタへ向かっていた。

 

 今は目当てのものが見つかったので帰って来たという具合だ。

 

 

 ちなみにポロンロとは例のスターバードの名前だ。ドランジスタへ向かうときに世話になり、これだけ協力してもらって粗雑な扱いを続けるのもどうかと思って俺から名前を聞いたのだ。

 

 そんなポロンロと屋敷の前で別れ、俺はそのまま中へと入った。

 

 

 「リサ、入っていいですか?」

 

 「おっ、噂をすれば……」

 

 俺がリサ達の部屋をノックして扉越しにそう訊ねると、部屋の中からそんなリサの声が聞こえてくる。

 

 そのリアクションで、何となく向こうの状況がわかってしまう。きっと、ビスタが帰って来ているに違いない。

 

 

 「……おかえり」

 

 

 扉を開けると、案の定何とも言えない雰囲気のビスタがそこにいた。

 

 「た、ただいま…… です……」

 

 あのときのことを思い出して返す言葉に詰まってしまう。

 謝罪の言葉は考えていたはずなのに、いざ本人の目の前になると全てがパーだ。

 

 どうしよう、早く何か言わなければ……

 

 

 そんなふうに脳を回転させていると、驚くことに向こうから切り出してきた。

 

 

 「……ごめんなさいっ」

 「……へ?」

 

 

 これはいったいどういうことだろう。何故かビスタが俺に頭を下げている。

 

 

 「あ、えっ? ど、どうしたのですかビスタ。顔を上げてください」

 

 俺は促すが、ビスタはその体勢を崩そうとはしない。

 

 「私が、私が悪かったの。カルラ君は何も間違ったこと言ってないのに、八つ当たりして突き放した……

 それに、大切な人を失う辛さを知らないなんて酷いことを言った。

 だから、どうしても謝りたくて……」

 

 その言葉からは彼女の誠意が伝わってくる。だから俺は、彼女の肩に手を置いてもういいと合図を送った。

 

 「カルラ君……?」

 

 それで彼女は顔を見上げ、様子を伺うようにこちらを見た。

 俺はそんな彼女の顔をじっと見ながら答える。

 

 「大丈夫、私は気にしていませんから。というか、私こそビスタの気持ちをわかったつもりになって浅はかなことを言ってしまったのが悪いんです。……あのときは本当にすみませんでした」

 

 「違う、違うのっ、 カルラ君は何も悪くない。

 私が、私が全部いけなかった……」

 

 そんな会話を二人でしていると、横からリサがこの場を執り成そうと割って入ってくる。

 

 

 「……あー、はい! それじゃあ今回も子供の喧嘩、両成敗ってことで!」

 

 そして、いつしかのエミリアを想わせるようにそんなことを言った。

 

 「ビ、ビスタがそれでいいなら……」

 

 「私はカルラ君が許してくれるならそれで……」

 

 

 「うんうん、それじゃあこの話終わりっ! それよりカルラ、例のものは見つかったのか?」

 

 「ああはい、一応は…… 念のため見てもらえますか?」

 

 リサに言われて、思い出したかのように俺は亜空間からソレを取り出した。

 

 「これって……」

 

 それを見て、ビスタが目を見開く。

 

 それを確認して俺は何も言わず彼女に渡した。

 

 

 簡素に紙で巻いたその花束を渡した。

 

 

 「ビスタリアの花……?」

 

 ビスタが呟く。

 

 そう、それはビスタリアの花と呼ばれる純白の花弁をした美しい花。

 

 ビスタと、ビスタの母の思い出の花だ。

 

 以前セントラルクへ向かう船の中で聞いたことがある。

 ビスタという名前の由来はこの花から来ているのだと、その名には「展望」という意味が込められているのだと。

 

 そのことを思い出して俺は探しにいったのだ。

 

 かつてビスタの母が願ったであろう、その想いを彼女に今一度思い出してほしくて。

 

 

 「ど、どうしてカルラ君がこれを?」

 

 「えっと、なんていうかその、ビスタに元気になってほしくて探してきました。はい……」

 

 少しだけ恥ずかしくなって、頭の後ろを掻きながら俺は答える。

 

 するとビスタは少しだけ上擦った声になる。

 

 「だ、だってコレ、ものすごく珍しい花なのよ? そんな簡単に見つけられるわけ……」

 

 「……あーいや、そんなことなかったですよ。あの鳥の魔物に手伝ってもらったので移動には困りませんでした」

 

 「おいカルラ、しょうもない嘘を吐くな。こっちで数時間経ってるってことは、最低でも一ヶ月は向こうで探したんだろう?」

 

 「ちょ、言わなくていいのに」

 

 

 そう、リサが言うように俺は向こうの世界で一ヶ月この花を探し続けた。

 我ながらどうかしていると思ったが、これでビスタが立ち直ってくれるならと思えば苦ではなかった。

 

 リサには素人に見つけられるものじゃないなんて忠告されていたのだが、どうやら運がよかったようだ。

 

 

 まじまじと俺の全身を見てビスタが言う。 

 

 「よく見たらカルラ君ボロボロじゃない。 いったいどんな危険な場所に……」

 

 「えっとまあ、ザンバリ峡谷とかニシア山とか、その辺です……」

 

 「ザンバリ峡谷!? あそこはドラゴンが出るのよ!? 」

 

 「ま、まあそれも修行ですよ」

 

 

 ああまずい、この流れは非常にまずい。

 

 このままではビスタに呆れられてしまう。力を失っているのにどうしてそんな無謀なことをしたんだって言われるに違いない。

 

 

 言われる前に何か弁明しなければ……

 

 

 「あ、その、えっとですね。一ヶ月と言ってもそのほとんどは……」

 

 

 「バカ!!!」

 

 

 ……しようとしたが、ビスタの雷が落ちて失敗に終わる。俺はその迫力に押されて黙ってしまい、彼女は攻め入るように続けた。

 

 「また一人でこんな無茶して! カルラ君はいっつもそう! 私を心配させるようなことばかりする! ……ズルい、ズルいわカルラ君。私は貴方を傷つけてばかりなのに、どうして貴方はそこまでして私を……」

 

 話すにつれ、彼女の勢いは徐々に失われていくのがわかる。

 最後の方はもう声も表情も涙で崩れてしまっていた。

 

 「ど、どうして泣くんですか? もしかして私はまた余計なことを……」

 

 その様子を目の当たりにするとなんともいたたまれなくなって、俺は咄嗟にそんなことを言った。

 

 

 するとリサが、

 

 「ドのつくアホなのか君は、嬉しくて泣いているに決まっているだろう」

 

 なんてことを言ってくる。退路を塞ぐように言ってくる。

 

 

 

 「あ、あぁ…… 喜んでもらえて何より、です……」

 

 リサに言われて、自分の口からもそう言って、俺は途端に照れ臭くなってしまった。

 こういうとき、どうすればいいのかまるでわからない。

 

 すると、見かねたリサが俺に言う。

 

 「抱け」

 

 「へァッ!?」

 

 「いいから黙って抱き締めて差し上げろ。……あぁ、そうなると私はお邪魔か」

 

 なんてことをリサは独り言のように言って、さも当たり前のように立ち上がり退室した。

 

 おいケガはどうしたなんて突っ込む暇も与えてくれない。

 

 そうしてむりやり二人きりにさせられて数秒。なんとも気まずい沈黙を埋めるように、俺は覚悟を決め彼女の後ろに手を回そうとした。

 

 しかし……


 「ま、まって……」

 

 それまで黙っていたビスタが止まるよう言ってきた。

 

 「あ、えっと……?」

 

 「ご、ごめんなさい。嫌だとか、そういうことじゃないの。 ただ……」

 

 「ただ……?」

 

 「今カルラ君にそんなことされると、どうにかなってしまいそうで……」

 

 なんてことを、ビスタは潤んだ瞳で訴えかけながら言ってくる。

 

 それを見て、俺の中で何かが弾けた。

 

 自分でもわからない、何か大切なものが弾けとんで……


 

 「……」

 

 

 どういうわけか、俺は彼女の美しいアメジストの瞳をじっと見つめていた。

 

 その、吸い込まれそうなほどに綺麗な目をまじまじと見ていて。

 

 もう、たまたま目が合ってしまったなんて言い訳は通じそうにもないくらい互いの目を見つめ合っていて……

 

 


 

 「よーっす! カルラいるー!?」

 

 「!!!」

 

 ……空いた窓の隙間からロロが乱入してきて、無惨にも事なきを得た。得てしまった。

 

 

 

 「全くもーどこ行ってたのさー? 遅くなるなら事前に言ってお…… ん、え? もしかしてお取り込み中だった?」

 

 まるでデリカシーもなくロロが聞いてくる。

 

 俺はなんだか急に力が抜けてしまって、ビスタに申し訳ありませんとだけ告げてロロを追いかけ回した。

 

 きっとビスタも察してくれたのだろう。何も言っては来なかった。

 

 

 ただ、彼女がぼそりと……

 

 「バカ……」

 

 と呟いたのはきっと空耳なんかじゃない。

 

 ここまできて、今の出来事を無かったことになんてお互い出来るはずもなかった。

 

 やはりと言うべきか、自分の気持ちを抑え続けられるはずもなかったんだ……

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