文化祭の一大計画!
二作目の短編小説です。
恋愛経験に疎いため、上手く書けているか不安ですが、ぜひぜひ宜しくお願いします!
「はーい、みんな席に着けー!」
威勢の良い大きな声が教室中に響く。友達と話していた者はだらだらと歩き、木でできた椅子に座る。
ここは都内にある、東京第一高校の一年三組の教室だ。狭い教室の中には教師含め、四十一人もの人がぎっしりと詰め寄って座っている。この学校から新任教師となった社会担当の若い男の先生が点呼を取る。
「さて、これから朝のHRを始めるぞ」
その教師はいつも通りHRを始めた。挨拶から始まり、短い連絡を終える。いつもはここで終わりとなり、全員が次の教科のために大移動を開始するのだ。しかし今日はいつもと違った。
「さーて、いよいよ今年の文化祭まで一ヶ月となった。文化祭実行委員、詳しい説明を頼む」
この連絡で生徒はいよいよ迫る、高校初の文化祭に目をキラキラ輝かせていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「遂にあと一ヶ月かー」
「そうだな、クラス全体での企画だってな。将太は何やりたい?」
「うーむ、何か楽しいものが良いな! …女子どもが言うカフェなんてものは御免だけどな」
「ははっ、それは分かる。カフェなんかして何が楽しいのか分からんな」
「明日のクラス会議で案を出すとしたら…うーむ……あっ! お化け屋敷とかどうだ?」
「っ!? お化け屋敷? 無理無理、俺超苦手!」
「徹が苦手なのは分かるけど、ほら、作る側だから全然怖くないと思う。それにほら、麻友はああいうの好きだろ?」
「…そうだな、そういうことなら仕方ない」
「徹もチョロイな」
「…そういう将太は何か進展あるのか?二組のアノ子と」
「………いや、まだ無い」
「ふっ、ならば俺の方が先輩だな。じゃあ、恋愛の先輩が一つ計画を練ってやろう! よし、何とかお化け屋敷を企画して、そこで将太、アノ子に告ろうぞ!」
「………は? 本気で言ってんの?」
「無論!」
「…え、本気?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ほんとのほんと?」
「ほんとのほんと」
「ほんとのほんとのほ___」
「しつこーーい! 将太は勇気が無さすぎる。当たって砕けなきゃ何も始まんないぞ。俺が手伝うから安心してくれ」
「…わ、分かった。…でも大丈夫かな?」
「何とかなるさ!」
「…じゃあ、頑張ってみる!」
将太はそんな徹に圧され、文化祭の企画を考えるつもりか、好きな女子に告る計画を練ることになった。
◇ ◆ ~翌日~ ◆ ◇
「それでは、これからLHRの時間を使って一年三組が文化祭に何をやるのか決めたいと思います」
文化祭実行委員がそう言葉にする。その途端、興奮した生徒達が割れんばかりの拍手をした。そして、どこのクラスでも同じように拍手が巻き起こった_。
「(徹、いよいよだぞ!)」
「(ああ。でも俺達は今日の朝の時間を使っていろいろと仕込んだだろ? 必ずいける筈だ!)」
_それと同時にひそひそ話も盛り上がった。
「先ずは何か意見がある人、手を挙げて下さい!」
委員がそう言葉にした瞬間、徹は勢い良くピンと手を伸ばした。しかし速攻挙げた徹とほぼ同タイミングで同じく勢い良く手を挙げた女子二人がいた。
「では明来さん、どうぞ」
一番最初に指名されたのは明来だった。クラスでは女子のリーダー的存在で、頭が良く愛想も良いため男女問わずクラスの人気者だ。
「はい! 私はクラスで屋台をやりたいです」
定番と言えば定番だ。これが人気な理由は複雑な工夫が必要無く、また簡単に客を集めることができるからである。しかし衛生面に気を付けなければいけないため意外と大変だったりもする。
彼女の意見を聞き、書記が黒板に箇条書きで屋台と書く。
「では次に加奈子さん、どうぞ」
次にもう一人の女子が指名される。加奈子も明来と同じくリーダー的存在を示しているが、穏やかな明来とは違いキリッとした感じのクールな雰囲気を纏っている。
「私はカフェとかをやりたいです。面白そうだし」
その答えは男子にとって意外なものだったらしい。女子の間で噂になっていた”加奈子可愛いもの大好き説”は今実を結んだのかもしれない。しかしそのざわざわとした雰囲気を感じ取った加奈子は、顔を赤らめながら即座に席に着く。
そして遂にこの時が来た。委員が手を挙げた最後の一人を指名する。
「では最後に徹さん、どうぞ」
「俺はクラスのみんなで最っ高のお化け屋敷をやりたい!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いやぁ~流石だな、徹」
「だろ?」
「やっぱりクラスの男子を味方にする作戦は良かったな」
「ああ。それに麻友も協力してくれたのはデカいな」
「さて、そうと決まればめちゃめちゃ怖いお化け屋敷にしないとな」
「ああ!」
◇ ◆ ~放課後~ ◆ ◇
放課後、家の方向が全く違う将太と徹は別れ、将太は自宅へと独り歩いていた。いつもは同じ方向の友達と一緒に帰っているが、今日は家に帰ってから将太には楽しみなあることがあったのでせかせかと急いで帰っているのだ。その楽しみなこととは言うまでもなくお化け屋敷の計画だ。子供っぽいと言われても仕方ないほどの興奮っぷりだが、将太にとってそれは関係ない。なぜなら高校生活初めての文化祭に重ね、今までの十数年の人生で一番大事で大きなイベントと言っても過言ではないものが待っているのだから。
そしてそれは唐突に起こった。
「あの、将太くん、今日一人なんだね」
その声で将太はピタリと足を止める。いや、正確には緊張して足が動かないのだ。そう、この女子こそ将太が正に告ろうとしている女子なのだ。彼女とは中学生からの付き合いで、三年間ずっと同じクラスという奇跡的な関係でもある。今こそ違うクラスになってしまったが、未だに仲が良い。
「う、うん。今日はこの後急ぎの用事があったから」
「そうなんだ。…少しお話いいかな?」
「う、うん。少しなら大丈夫だよ」
「急いでいるのにごめんね。少しで終わるから。…三組は何をすることになったの?」
「…詳しいことは当日のお楽しみってことになったんだ。…言えなくてごめん。でも、カフェとか屋台とかではない、面白いことになったよ。二組は?」
「へー、楽しみだな~。二組はカフェになった! なんか一味違うカフェにするらしくて…楽しみにしててね!」
「うん、当日は絶対行くよ!」
突然のイベントに心臓がバクバク跳ねたが、なんとか落ち着いて返すことができたと一安心し、一息吐いた。
◇ ◆ ~文化祭当日~ ◆ ◇
「みんな、おはよう! いよいよ今日は文化祭当日だ! 後悔しないように楽しめよ!」
担任がそう言い、生徒達は一層盛り上がる。
「将太、心の準備は良いか?」
「ああ」
将太は気合の入った声で返事をする。彼女に事前に訊いたところ、彼女のカフェのタイムテーブルは午後からなので午前中に誘うということになっている。文化祭の開催式が終わり、二人はすぐに彼女の元に行く。
「やあ、お待たせ」
「わざわざありがとう。今日は楽しみだね」
将太がそう言うと、彼女は愛想良くそう言った。
お化け屋敷に近付くに連れて、だんだんと人が増えてきた。どうやら既にお化け屋敷は行列ができていて大好評のようだ。やがて眼前に迫ったその禍々しい看板を前に、将太は紹介した。
「ここが俺達三組の企画、お化け屋敷”A little hope the dead”だ!」
「お、お化け屋敷? 私、無理だよ…」
「大丈夫だって」
将太と徹に圧されるまま、三人は列に並ぶ。ここからが本当の勝負だ。
体感時間では数分とも思える時間が過ぎ去り、遂に三人の順番が回ってくる。将太達が中に入る時、徹は「俺はこの後の仕込みがあるから」と言って中には入らずに外で見守っていた。徹はわざわざ将太のためにそう言ってくれたのだ。絶対に成功させてみせる、将太は胸にそう誓い、彼女と共に中に入って行く。
中がどのような構造か、勿論将太は完全に把握している。
「さて、俺は後ろにいるから先に行っていいよ」
「え、えぇぇ…。わ、分かった…」
なので彼女を先に行ってくれるよう促す。男として最低の行為かもしれないが作戦のためにもこうするしかないのだ。それ時から、お化け屋敷の中には一人の女子の絶叫が響いた___。
「お疲れ様、もうすぐ出口だよ」
「ハァハァ、こ、怖かった…」
お化け屋敷の中で何度も何度も悲鳴を上げた彼女だったが、ようやくゴールだと知り、ホッと安堵の表情を浮かべる。しかし将太と徹の作戦はまだ終わっていないのだ。彼女が油断している瞬間、将太はどこからかキンッキンに冷えたコンニャクを取り出した。将太は心の中ですまないという気持ちを持ちつつ、そのコンニャクを彼女の背中に……刹那___
「ヒヤァァァァァァァァ!」
今までで一番の絶叫が響き渡った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「もう、酷い!」
お化け屋敷を涙でゴールインした彼女がそう言う。
「怖かった?」
「当たり前でしょ!」
「ははっ、そりゃ良かった。…でも、こんな計画、愛にだけやったんだよ?」
「え?」
「俺は愛に楽しんでほしかったんだ。怖かったみたいで俺は嬉しい。…俺は、俺は、愛のことが好きだよ」
突然の告白に、愛と呼ばれた彼女は目を丸くした。そして若干のタイムラグの後、不器用なその告白にクスッと笑い、
「謹んでお受けします」
彼女は笑ってそう言った。