後悔
倭国の中で最も広大な土地で、神谷率いる法力集団は今日も訓練を行なっていた。毎日行われる修行は、各々限界を目指し、流れる汗は日が暮れるまで続いた。
この法力軍団は倭国で最も力のある集団言われていた。そのため、それを率いる神谷が小柄で猫背の青年だという事に誰もが驚いた。神谷自身は殆ど法力が使えず、兄弟の中で最も非力であった。そんな神谷を知るもの達が、この豪腕法力軍団を率いてる事を知れば、逆に人質として捕らえられてるのではないかと疑うほどであった。
法力の青い炎が飛び交う中で、ここにそぐわない青年が肩を落として、フラフラと戦士達を見回っている。心ここにあらずという感じで、足取りは定まらず公務をこなしている様だった。
いつも隣にいる長身の美女の姿はなく、ますます惨めに見えた。
「なんや旦那、しけた顔してえ。ただでさえ華がないのに、そんなんでどないすんねん」
聞きなれない言葉とともに筋肉隆々の兵士たちのなかでひときわ体の大きい者が、小柄な神谷にドシンドシンと近づいて来た。
男らしく快活な顔は女性に好かれそうだ。彼のやんちゃさを、ニッと笑った時に見える八重歯が象徴しているようであった。ガシッと神谷の肩に腕をかけた後、男は少し声を抑えて、話を続けた。
「いつも隣にいる姉ちゃんはどないしてん?皆んなのやる気の元なんやから、連れて来てもらわんと」
神谷の顔を覗き込んだ顔は、日に焼け真っ黒であったが、よく動く大きな黒い目はその中でも輝いている。
「高菜は相良の所だよ。俺が不甲斐ないせいで……」
神谷は唇を噛み締めた。そうせざる得なかったとはいえ、今もこの選択に後悔していた。もっと他にいい方法無かったのだろうか。いつも自分は彼女に助けられてばかりだ。
「……そういうことか。落ち込んでもしゃあないやろ。次の一手を考えるんがあんたの役割やろが。メソメソすんな」
男は神谷の背中をドーンと叩いた。小柄な神谷は心臓が飛び出たのではないかと心配しながら、不様に反論した。
「わかってるさ。ここで落ち込んでる暇なんか無いってことは。でも……高菜が隣に居ないだけで……臆病な自分が俺を支配するんだよ」
ここを仕切る者とは思えない弱気な発言であったが、男は慣れたものでガハハと笑った。
「あんた赤ん坊かい。恥ずかしいやっちゃなー。倭国きっての最強法力軍団の俺らが付いとってそんな発言された日にゃあ、俺らの権威もだだ下がりやな。頭冷やしてまた戻って来いや。今のあんたにここをうろつかれても、指揮が下がるだけやな」
男はまたドシンドシンと足を踏みならして神谷の側を離れていった。神谷は丸まった背中をさらに小さくして、乾いた風の中ここを去るしかないのであった。




