悲しい再会
真っ白な霧の中を巨大な影がゆっくり動いている。息吹は阿修羅と共に暮らしていたが、この生き物は阿修羅より遥かに大きく、まるで蛇のように波打っているが、体は短く不恰好だ。
息吹は、ある事に気付き、驚愕した。身体中からいくつもの棘のような物に見えたのは、人の手足であった。それも、一本や二本ではない。数え切れないくらいの人間の手足が、その生き物から飛び出しており、まるでナマコのようにウネウネと動いている。その気味悪さは常軌を逸しており、異臭が辺りに立ち込めている。
「ぐっ」
息吹はあまりの臭さに息を止めたが、目尻からは涙が滲み、倒れそうになるのを必死で食いしばった。怪物は、息吹を手探りで探してるようだった。大きな紫色の唇からあの匂いが湯気のように立ち上り、目はなく真っ黒な体は地面を這い蹲っている。
息吹は気配を必死で消しながら、怪物から距離をとった。その時、蠢く手足の中に見たことのある物を見つけた。手足はどれも見分けがつくようなものではなかったが、息吹にははっきり何故だか、だれの手足か分かるものがあった。ーー七之助の両親の物だった。
(……この怪物は可哀想なあの人達なんだ。何にも悪い事していないのに殺されて、今もこんな姿でさまよってる)
息吹の脳裏に、七之助を愛おしむ両親の姿が浮かんだ。今もこんな姿のまま利用され苦しんでる姿を見れば、尊治の背後にいる者達の怒りが消えるとは到底息吹には思えなかった。胸の中に怒りが込み上げて来るのを感じる。
(こんな酷いことをして、どうして平気でいられるの)
後ずさりをしながら、怒りと同時に湧いてきた哀しみに息吹は戸惑った。七之助が今の両親の姿を見たら一体どう思うのだろう。
ーーーードコオ、ドコダア。
怪物は息吹を食べてしまうのだろうか。恐怖は消えはしなかったが今は、七之助の寂しそうな後ろ姿しか思い出されなかった。
「お前はずっと自分で道を選んできたはずだ」
あの雨の日の秋海棠を探しに行った日のことを思い出した。自分のことを顧みず、息吹の未来を思い測ってくれた時のことを。
(私が七之助さんのためにできることがあった……)




