叱責
あの日から息吹は、尊治の夕食の時刻になると必ず現れ、窓からじっと様子を伺っていた。尊治は7日ほど無視していたが、息吹の性格をここまでくれば熟知していたので、いい加減煩わしく感じ、これ以上続ければお前を斬ると窓から覗いてる息吹に告げた。
息吹はヒラリと、尊治の前に正座し、我慢できず大きな声で懇願した。
「七之助さんに会わせてください!!」
尊治は無視して食事を続けた。息吹は黙っていたが、お腹の音は黙っていられなかった。
(こいつ……)
尊治はホトホト呆れ果てた。息吹がいつもこの時間に来るのはお腹が空いているからだ。
(俺にはこいつの教育は無理だ)
ハアと深いため息をついてから、茶碗と箸を置き尊治は立ち上がった。お前に反省の意味を教えるのは俺じゃない方がいいなと呟いて、息吹について来る様促した。
長い廊下歩いて行くと 、息吹が使っていた畳の部屋に通された。畳の匂いは変わっておらず、息吹はなんだか懐かしく感じた。
布団に年老いた男が座ってこちら見ている。目元しか見た事が無かったが、息吹にはすぐに誰か分かった。
「おじさん!!」
駆け寄った息吹は、言いたい事が沢山あったのにそれ以上何も言えなかった。やつれた七之助は息吹が知っていた頃と違って覇気がなく、鋭い眼光はすっかりなりを潜め、疲れ果てた初老にしか今は見えなかった。
息吹は視界が潤んで、ボンヤリするのを感じながらようやく言葉を紡いだ。
「……私のせいで、うぐっ、ごめっ、うぐっ、んなさい」
最後はしゃくりあげてしまい、自分でもちゃんと言えているかどうか分からなかった。生きていて良かったという安堵と、すまないという気持ちがグチャグチャになって、七之助の目を見る事が出来なかった。
七之助はしばらく黙っていたが、ややあと落ち着いた声で息吹を叱責した。
「何もかもやり直しだ。……部屋への入り方も、挨拶も、感情的になるなとあれほど言ったのに、全く何も変わっておらんな。お前の様な阿呆は、一から鍛え直しだ」
尊治は二人の様子を眺めていたが、何も言わず部屋から出て行った。風鈴の音が遠くで聞こえる。蒸し暑さが続いていたが、今夜は少し柔らかいでいるようだ。
背後で息吹が号泣してるのを聴きながら、尊治はふっと笑った。
(……馬鹿とハサミは使い様だ)




