相良
都からさほど離れていない所に、古い城があった。その城はさほど大きくなく、壁と手入れされてない松の木ばかりに覆われ、うっそうとしていた。この辺りでは、年老いた農民達がひっそりと暮らしていた。ここいらは帝の息子である相良の領地で、都の派手な暮らしを愛する相良は、この田舎が大嫌いであった。この為、宮中の者がこの城を出入りする事は殆どなく、城は古くなるばかりであった。
(ここに来るのは2回目か……)
高菜は引き連れ、神谷は古城を目指していた。面会の相手は相良だ。
神谷は、相良と昔から相性が悪く、相良に昔から一方的にいじめられてばかりいた。それは、陰湿其の物で、踊りや弓が苦手な神谷を、何かにつけて大衆の場で披露させ醜態を晒させるというものだった。今となっては、神谷も水に流せるほど大人になったが、当時の幼い彼はまだ嘲笑に免疫がなく、一人でメソメソ泣いてる事も多かった。
(あの頃の俺って、本当に逃げてばかりいたな。それが、相良の嫌がらせを加速させた。俺にも、悪い所はあったな……)
相良との関係性が変化したのは、あの戦の後だった。英雄扱いの神谷を、年の近い相良は苦々しく思っていたが、彼は馬鹿では無かった。神谷と争うのは得策ではないと睨み、神谷に悪態はつくものの、協力はしてくれるようになった。本心で、神谷の事をどう思っているかは図りかねたが、神谷は今はそれでいいと思っていた。
(だとしても、やっぱり相良は苦手だ)
神谷はハアと馬上からため息をついた。隣を歩いていた高菜は、神谷の気持ちを察して少し休みましょうと提案した。神谷は、そうだなと言い馬を木陰へ促した。
「神谷様、ただでさえ老け顔なのに、ため息ばかりつくともっと老けて見えますよ」
高菜は元気づけようと、からかうように言った。だが、今の神谷には逆効果で、どうせ俺は老け顔ですよといじけさせてしまった。
遠くに向日葵畑が見える。向日葵は高菜が一番好きな花だ。
しばらく二人で黙って向日葵畑を眺めていると、高菜は腰に手をあてて、私は老け顔好きですけどねと付け足した。
「……物好きだなあ高菜は」
声は落ち着いていたが、神谷の耳は真っ赤だった。高菜はふふと微笑し、青空を気持ち良さそうに眺めた。
向日葵が揺れている。久しぶりに気持ちいい風だ。
「相良様、よく面会許してくれましたね。雪姫様、このところあまり体調が優れないとか」
「あの人はいつも床に伏せ気味なんだ。問題は体じゃなくて心なんだよ」
神谷は最後の方は呟くように言った。
「前から思ってたんですけど、雪姫様の事なぜ相良様に任されてるんですか」
「父上がそうしろって言ったんだよ。あいつは気位が高いし、父上にも俺よりは気に入られている。あいつの面子を潰したく無かったんだろうよ」
高菜はそうなんですねとだけ言いそれ以上は聞かなかった。遠くで蝉が鳴き始めている。
「……そろそろ行こうか。あいつは時間に厳しいからな。門前払いは尊治でもうこりごりだ」
幾分元気になった神谷は再び古城を目指した。
風は弱まり、日差しが強くなってきた。暑い一日が始まろうとしていた。




