神谷の本音 1
帰って来た神谷は、目を赤くした高菜から息吹の状況を聞いた。神谷は優しく高菜の肩を叩き、心配しなくても大丈夫だと言った。
「何を呑気な事言ってるんです?!あの子の体は一命を取り留めただけでボロボロなんですよ?!神谷様だって分かってるはずでしょう?!」
高菜は怒ってるのか、泣いてるのか自分でも分からなかった。
「いつも冷静な高菜が、こんな感情的になるなんて驚いたな」
「何見当違いな事言ってるんです!!」
今は怒りの感情の方が勝っている。まあそう怒るなよと、神谷はオタオタしながら高菜を座らせた。
「あの子は七之助殿と尊治に謝りに行くと言っていた。別に行方が分からんわけじゃあ無いんだ」
高菜の目は釣り上がり、口はワナワナと震えている。神谷は急いで付け足した。
「説明しなかったのは、お前が絶対反対すると思ったからだ」
神谷は髪をクシャクシャとかき、高菜の方を伺った。口の震えは止まったが、目はつり上がったままだ。
「……尊治様には、あの子が行く事は伝えてあるんですか?」
「いや」
一瞬空気は静止し、高菜は口をあんぐり開けたまま、間抜けな表情をしている。
「いやあ〜今日は色んな高菜が見れて俺は嬉しいぞ」
……これは本当に余計な一言だった。高菜の背後には怒りの炎が燃え盛り、顔は鬼の様であった。
「神谷様!!」
神谷は雷に打たれた様にビクっと痙攣し、冷や汗を流しながら顔を引きつらせた。
「あの子のしたい様にさせてやるのが一番だと思ったんだよ。それに、尊治が息吹を気に入っているのは確かだ」
「でも殺そうとしたんですよ?」
「俺もそう思っていたが……尊治も背後の者達の手前、何もしない訳にはいかなかった。あいつほどの腕がある奴が、あの子を取り逃がすなんてそもそもおかしかったんだよ」
高菜は確かにと呟いた。だんだん熱も収まっていく。
「俺も尊治に会うまでは手探りだったが……息吹には思いもよらない展開を起こしてくれる様な期待がなぜか沸いてな。……なあ、なぜ俺たち兄弟全員が百目数珠に選ばれ無かったとおもう?」
高菜は急に思いも寄らない疑問を投げかけられ動揺した。百目数珠は帝の所有物であり、その存在はほんの一部の者しか知らない。法力は誰でも使える物ではなく希少だった。高菜が神谷の側に居れるのも、法力を微弱ながら使えるからだ。
「俺は、法力が強い者がこの国を治めるというこの考えは古いと思うんだ」
高菜の健康的な額にたらりと汗が流れた。それは倭国で暮らしてる者にとって、考えられない事だった。




