自信
部屋に通された神谷は、始終落ち着かずキョロキョロしていた。
「この城で使用人はごく僅かだ。心配しなくても、人は遠ざけてある」
流れる様な動作で尊治は神谷の前であぐらをくみ、刀を脇に置いた。
(本当に俺と血が繋がってるのか?この優雅さは俺には微塵もないな……)
神谷はどうでもいい事が頭をよぎったので、ゴホンと思わず咳払いし本題に入った。
「百目数珠はこの城にあるのか?」
「知りたくば、先ほど自信満々で言っていた策とやらを先に教えるんだな」
尊治は、質問をさらりとかわし、反対に尋問する側になった。神谷は、やれやれやはり一筋縄ではいかないかと心の中で舌打ちをし、美しい異母兄弟の切れ長の目を見据えた。
「父上が、先代の武者と大きく違うことをしたのは、敵であった者を皆殺しにしなかった事だ」
尊治は少し黙り、長い睫毛が瞳にかかったかと思うと視線を外した。その後、ややあと応えた。
「……奴らは老いぼれの判断に恩など感じていない。その前に殺しすぎたんだ」
神谷は、尊治が思いの外第三者的な立場で意見を述べたので安心した。
「分かっている。だが、お前たちの一族は個々の力があまりにも強大だった。父上もお前たち一族以外も相手にしていた。……お前たちが敵側の陣営にいた以上、目を瞑る事は出来なかった」
「戦であった以上、仕方無かったと説明するのか。……とんだ期待外れの策だな」
尊治は有無を言わさず、指摘した。
「いや、俺が言いたいのはそこじゃない。戦の傷跡は俺たちで簡単に解決出来ることじゃあないんだ。……今優先すべきは、大人達のお前と息吹への関心を、よそにうつすことなんだよ」
尊治は整えられた片眉をあげ、続ける様促した。
「息吹はまだ法力が使えないと聞いたが、あの子は恐らく母親に法力を封印されている。……百目数珠の使い手として最も可能性がある事は確かだ」
「封印……あいつを守る為か」
尊治は自問自答する様に呟いた。
「あの子の母親は、元々、父上と比べられて育てられ、宮中で居場所がなかったんだよ。父上は幼い頃からどの分野に置いても秀でていて、彼女はまるで真逆だった」
「……その話、する必要があるのか?」
「まあ聞けよ。俺もなんとなくわかる所はあるよ。優秀な兄弟と平凡な自分って所がな。……息吹の母親は異国の者に恋をして、宮中から逃げ出したかったんだ。きっと親子水入らず、異国で暮らす事を夢みたんだと思う」
「世間知らずもいいとこだな。……あのバカの親だと思うとなんだか納得するが」
神谷は初めて、尊治を少し身近に感じた。こんな事は初めてだ。
「ははっ、そうだな。俺も息吹みたいな子供は初めて見たよ。あの子はここまで来るのに、随分辛い目にあったはずなのに……あの無邪気さ、一体何処から来るんだろうと思うよ」
「ふっ、あいつの場合ただの阿呆が考えず生きてるだけだ」
尊治は見逃さなかった。初めて尊治が、心から嬉しそうに笑ったのを見た。だが、尊治自身気づいてる様子が無かったので、そっと胸の内にしまうことにした。
「そこでだ、逆に息吹を百目数珠の使い手として倭国を守らせる守護者にするんだ。お前の背後の者達は、息吹の世話役として倭国で地位を与える。闇に葬られた一族を、光の守護者として復活させるんだ」
尊治は神谷がこんな事を言うとは夢にも思っていなかったので、目を見開き、不審な者でも見る様に、神谷の様子を伺った。
「お前正気か。あいつらが権力を手に入れれば、恐らくお前ら朝庭にまた牙をむくぞ」
「そんな事は百も承知だ。だが、俺もここ数年、見た目通りぼおっと過ごしてきたわけじゃあないぞ〜。其れなりに法力の使い手を育てて来たつもりだ」
尊治は猫背でくせ毛の、平凡そうな青年の顔を見た。眠たそうな目は、何を考えてるかよくわからない。
(……分かっている。こいつの部隊は、ここ数年で大きく力をつけている。俺はこいつに挑む事を一番懸念していた)
「お前のその自慢の部隊、俺の背後の者を抑えられる自信が本当にあるんだろうな」
神谷は、自分のことに関してはあまり自信がなかったが、仲間への信頼だけは自信を持って宣言できた。
「ああ、約束しよう。倭国で俺の部隊以上に、強さと賢さを兼ね備えたものはない」




