立ち向かう勇気
「先生と阿修羅を知っているの?」
息吹は困惑した表情で、ようやく口を開いた。神谷は、深く頷き、君がこんなに大きくなって驚いたよと、グシャグシャと髪を掻きむしった。息吹は、少し俯くと布団をぎゅっと握りしめた。
「……息吹、ごめんな。俺は君を助けたつもりだったけど、結局独りよがりな正義感だった。こんなに傷ついて、結局辛い目に合わせてしまった」
息吹は、少し黙ったが喋る事は放棄しなかった。
「私、ずっと悲しい目にあってたわけじゃないよ。幸せだった時も沢山あった。……だから
悲しそうな顔しないで」
神谷は、この言葉を聞いて、ハヤテは息吹をとても可愛がっていたのだと感じた。この子には、まだ頑張る力がある。真っ直ぐ自分を見つめる青い瞳に誓うように、神谷はゆっくり喋った。
「息吹、俺にもう一度チャンスをくれないかな」
「チャンス?」
「誰かを犠牲にして得た平和なんて、やっぱり無理があった。今回のことで俺はようやくそれがわかった。みんなができるだけ、納得できるよう頑張りたいんだ」
息吹は神谷の黒い瞳をジッと見つめた。そして息吹も、決意を固めるように一言一言噛みしめるように話した。
「私、大切な人たちを沢山傷つけて、自分のことしか考えて無かった。でも、もうそんな自分は嫌だ。……おじさん、私を使って下さい。私、変わりたい」
神谷はそっと息吹の頭に手を置いた。息吹は、ハヤテの事を思い出した。
「ありがとう」
側で高菜が食事を持って、心配そうに二人をうかがっている。神谷はクスリと笑うと、まずは食事だ、と呟いておじさん臭くよっこいしょと立ち上がった。息吹が食べ始めるのを見てから部屋から出て行こうとしたが、ふと立ち止まり顔だけ少し振り向かせた。
「あと……できればおじさんじゃなくて、お兄さんで」
高菜と息吹は顔見合わせて、ぷっと吹き出すのであった。




