出会い
「あの子はどう?」
神谷は辺りを伺いながら、高菜に尋ねた。ここは神谷がよく使う秘密の部屋で、高菜くらいしか知らない場所であった。高菜は髪をかきあげ、神妙な面持ちで喋り始めた。
「まだ目を覚ましていませんが、ずっとうなされています。……ごめんなさいって時々泣いてるんです。私、可哀想で見てられません」
高菜は、息吹の方を振り返った。熱も高く、衰弱している。このままここで、自分達が看病しても良くなるとは思えない。
「ごめん高菜。でも、あの子の見た目は特別だ。簡単に誰かに頼む事はできないんだ。……俺も出来るだけ見に来るから、もう少し辛抱してくれないかな」
高菜は、分かってます。心配しないで下さいと言うと、そのまま息吹の元に戻った。
神谷は、部屋から出ると、さてどうしたものかと頭を抱えた。
(こんなに早く倭国に戻って来るなんて……ハヤテ殿は一緒なのだろうか)
神谷はあの眼光鋭い、獣のような雰囲気を持つ青年の顔を思い出していた。彼はまだ成人しておらず、自分より若かったが、随分暗い目をしていた。
(助けたつもりで取引を提案したけど、阿修羅を抱えて逃亡するのはやはり厳しかったのだろう)
神谷はモジャモジャ頭をクシャクシャと搔きむしり、さらに髪を爆発させた。
(あの一族がもし、この事を知っていれば大変な事になる……いや、あの子の様子からして追われた感じも見受ける。すでに、伝わっているのかもしれない)
神谷は尊治があの法力使いの血縁者だという事を知らなかった。帝と尊治、七之助だけの秘密であった。この為、神谷の頭の中で線は繋がら無かった。尊治の不穏な動きは、父親の容態悪化によるもののみと考えていた。
(なんでこう、問題ごとって重なるんだろう)
ハアと神谷は大きく息を吐くと、更に背中を丸くさせた。
(取り敢えず今は情報収集が最優先だ。尊治が法力使いと手を組めば、また戦が始まってしまう)
尊治がまさに一族を率いて、復讐を企ててるなど露とも知らず、神谷は足を急がせた。
(もう二度、あの惨劇を繰り返したらだめだ。……俺の手に負える問題と思えないけど、取り敢えず、足掻くしかない)
春を迎えたばかりのこの美しい城で、人々は陽気に過ごしている。この平和が、多大な犠牲を払って作られた事も、いつしか人は忘れてしまうのかもしれない。
だが、今はまだ人々の心に、あの恐怖の出来事は色濃く残っていた。それは神谷も同じであった。神谷は目をつぶった。青い目の少女が、指を加えてこっちをみている。
(息吹……あの子は何も悪くない)
猫背の青年は、焦る心を抑えながら宮中へと戻るのであった。




