表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
56/139

神谷

年は30前であろうか。どこにでも居そうな猫背のこの青年は、ポカポカ陽気の庭園で、のんびり池の鯉を眺めていた。背も低く、黒髪もモジャモジャで、無理矢理括っている感じだ。決して優れた容姿ではない。


青年の名は神谷。次の帝と、城中の者が噂している。





だが、幼き頃の彼は武術も、勉学も容姿も他の兄弟と比べて突出してるようには思われていなかった。兄弟の中でも目立った特徴は無く、母親もさほど身分が高くなかった為、兄弟のイジメの格好の的であった。帝からの印象も薄く、彼を一目置くものはほとんどいなかった。


そんな彼の境遇が一変したのは、あの法力使いたちが起こした反乱の時であった。


神谷はすでに成人していたが、法力も武術も秀でて無かった為、囮として戦に駆り出された。


多くの兵が費やされ戦が終わる気配がなく、皆疲弊していたあの時、神谷はハヤテとの接触に成功し、彼を帝と取引させた。未だその方法が語られる事はなかったが、彼の働きにより戦が終結したと言っても過言では無かった。





その後神谷はメキメキと頭角を現し始めた。多彩な閃きと、行動力で今まで山積みになっていた問題を次々解決した。


彼は背も低く、容姿も良く無かったが、彼を慕う者は多かった。おおらかな性格と、謙虚な姿勢が、人の心を惹きつけた。


その姿は尊治とはまるで真逆であった。


尊治は神谷に無い物を全て兼ね備えていたが、彼は人遠ざけ、一人でいる事を好んだ。


これと言って特徴のない神谷だったが、たった一つ秀でてることがあった。劣等感まみれの彼であったが、人を妬んだり、恨む事は殆ど無かった。








「神谷様!またのんびり鯉の観察ですか?」


少し茶色めいた黒髪の長身の美女が呆れたように注意した。


「うわあ、なんでここにいるんだよー。新しい警備兵の訓練じゃ無かったっけ?」


神谷は彼女よりかなり高い地位だったが、二人はまるで友達のようであった。それどころか彼女の方が上に見える。


「……お得意のぼんやりもいいですけど、相良様に私は嫌味を言われたんですよ?お前の主人は、見た目も良くないし、その上猫背で気持ち悪いな、ですって!腹が立たないんですか?

ちょっとは、仕返ししてやろうと思わないんですか?あの女男、私達の仕事の邪魔ばっかりして、腹立つ!!そりゃあ、私の様な身分の低い者が宮中を出入りするなどありえない事ですけど……」


最初はまくし立てた高菜であったが、最後の方は少ししょんぼりしていた。神谷はよいしょっとおじさん臭く立ち上がると、籠をガサゴソ探りながら喋った。


「相良は、俺みたいなのに高菜みたいな美女がくっついて悔しいだけだと思うけど……」


慣れない事を言ったせいか、神谷の耳は少し赤く、籠を一心に見ている。


「それ、ホントに思ってます?」


高菜は間に受けなかったが、少し気分は落ち着いたようであった。


「それよりも、尊治の方を気にしてやらなきゃな」


神谷は無理矢理話題を変えた。


「あいつの悪い噂を聞いた。なんだか不穏な動きをしてるらしい。父上の耳に届くまでに、話さなきゃだ」


高菜はハアと大きくため息を吐くと、ややあと喋りだした。


「前も挑戦して、おっさんうろつくなキモいと一喝されませんでしたっけ?無駄ですよ、あの高慢ちきと和解しようだなんて。時間の無駄です」


おっと神谷は籠から鯉の餌を見つけると、近寄って来た鯉たちに餌をやった。


「おっさんとキモいはもう慣れっこですよ。……それより、百目数珠は父上が尊治に管理させてるんだ。ほっとくことはできないよ」


高菜は少し黙り、私に何かできることはありますかと小さい声で言った。神谷はにっと笑うと、立ち上がって伸びをした。


「いつも通り、皆んなに俺の動きを伝えてくれ。俺より優秀なやつばかりだから、後は自分達で考えて動くだろ」


尊治に無くて、神谷が持ってる最高の宝は仲間であった。彼が次の帝と噂されるのも、あらゆる分野の猛者達が彼を慕っているからであった。


温かな日差しを満喫した後、二人は庭園を去ろうとした。




ガサガサガサ--------


植木から何か黒い物が倒れた。神谷は仰天し、わああと高菜の後ろに隠れるという情けない姿を高菜に晒したが、高菜は注意しなかった。それは彼女もかなり動揺していたからだ。


武術の優れた彼女が、気配を察しないなど、通常考えられない。


二人は黒い物体を凝視した。


子供だ。真っ黒なおかっぱ頭の、真っ白な肌の少女が汚れて傷だらけで倒れている。


「神谷様、この子……」


神谷は恐る恐る子供に顔を覗き込んだ。この肌の白さ、倭国の者ではない。


「この子は……息吹だ」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ