牢屋
七之助は今、牢屋にいた。この城に牢屋は一つしかなくお粗末なものであったが、気分を落ち込ませるには十分であった。
山から戻った七之助は、尊治に事の次第を説明した。
いつも怒りを露わにする尊治は、七之助をただ見つめ、何も言わなかった。
しばらくしてから城の者に、白装束を渡され、牢へ連れて行かれた。七之助はただ黙って牢にはいり、ここで自分の今までの人生を振り返った。
(誰の役にも立たぬ人生であった)
数日後、自分が切腹をしなければいけないのは分かっていた。
(死ぬ事は、自分で選んだ事だ。あの子を逃した事は後悔しておらぬ。だが……)
尊治の、切れ長の美しい瞳はただ暗く、闇が浮かんでいる。
(あの方は誠実であった。一族の思いに今日まで必死に報いてくれた)
七之助は唇を噛み締めた。脳裏に浮かぶのは、幼き尊治が自分の手を握り不安そうに自分を見上げている。
(だが、俺は、あの方を、結局孤独に追いやったのだ。許しを乞う事は許されぬ)
握りしめた拳は熱く、いつも冷静であった七之助の胸の内は、隠しきれぬ贖罪の念でおおわれた。
(青藍よ、俺を哀れむ心が少しでもあるならば、あの方を孤独から救ってやってくれ)
これからは側にいて尊治を支えることができない。分かっていたはずなのに……ここまできて、自分は足掻こうとしている。
(俺はただ、歳だけとった、無能な老獪として終わったよ父上、母上)
七之助は目をつぶった。
牢屋カビ臭く、寒かった。暖かな日差しはここまで届く事はなく、闇が近づいている。死はすぐそこまで来ている。
風は吹くことはなく、湿った空気だけが牢屋覆うのであった。




