狼煙
(今日という今日は!)
ゲリーさんは、廊下をドカドカと歩きながら、鼻息荒く書庫に向かっていた。あるミッションを達成する為、毎日、あのてこの手と、あらゆる手を尽くし、勇んでいるのだが、相手もなかなか手強く、一向に顔をみせる様子はなかった。
(今日は特製、ゲリーパイとチョコのアイストッピング付き!それに大好きな靴やドレスもてんこ盛り!お嬢様覚悟してくださいまし!)
書庫の扉の前には、美しいドレスや靴が並べられてあり、ゲリーさんは、作ってきたパイとアイスを扉の前に置き、ムシャムシャと食べ始めた。
「まあああ、なんて美味しい んでしょう!自分で作っておいてなんですけども私は天才ですわあ」
「……」
扉の向こうにいるのは分かっている。ここまで連れて来るのに本当に苦労したのだ。ここでやめてしまえば、全てが水の泡だ。
「アイスも、むぐっ」
最近まで、やせ細っていたげりーさんだったが、今ではすっかり元の体型だ。それが本人にとってよかったかどうかは別として……。
「それにこのドレス、春の新作が遂に!これを試着なさらないなんて、なんと馬鹿なのでしょう!」
ゲリーさんは靴を油のついた手で持ち上げると、惚れぼれとした。
「真っ赤な革にダイヤが散りばめられて、本当に美しい……」
その途端ガタガタと扉が開く気配がした。
「お嬢様!!」
ゲリーさんは小さな金髪の少女を抱きしめた。美しい金髪はすっかりホコリをかぶり、足元まで伸びて、まるで動物の毛皮のようであった。
「別に落ち込んでたわけじゃないのに、ゲリーさんったら」
ゲリーの胸の中で、エマはクスリと笑った。
「逆に出にくかったわ」
ゲリーさんはそんな事聞いていないようで、さあお風呂にしましょうとまたドカドカと廊下を歩いて行った。
エマは久しぶりに浴びる日の光に目を細め、もう春なのねと呟いた。
「おまえ、めっちゃ汚くなったな。臭いぞ」
いつの間にかジョルジュが側に立っており鼻を摘んで、しかめっ面でこちらを見ている。
「相変わらず、口が悪くて安心したわ。兄様」
エマは負けじと言い返し、兄弟はお互いの安否を確認した。
新しい風が吹いている。
反撃の狼煙は、静かに上がっているのであった。




