慟哭
ハア、ハアっ……
息吹は、ぬかるみの中必死で走った。森で暮らすことに慣れていた息吹だったが、今日の森はとても怖く感じた。
ーーーー遂に自分は尊治を裏切った。
心の中はグチャグチャで、逃げ出した自分は卑怯者に思えた。
「うわっ」
息吹は足を滑らせ、そのまま転げ落ちた。受け身を取れず、ゴロゴロと転がり、身体中は泥だらけになった。
こんなふうに転んだのは、子供の時以来だ。
息吹は土に頬をつけたまま、ボンヤリした。口の中は土の味がしたし、足首をひねったのかなんだか痛かった。雨は止むことなく、俯けになった息吹に容赦無くぬらした。
(私のせいで殺されたらどうしよう……)
息吹は逃してくれた七之助を思った。冬の間、修行をしてもらえた事で息吹は色々な事が出来るようになった。食事の時、七之助が喋る事は無かったが、いつも、目を瞑った隙にそっと息吹の好物をわけてくれた。勉学も武術も、子供だからといって軽んじることはなく、いつも自分に向きあってくれた。静かに叱る七之助は、尊治と対照的であったが、二人が仲がいいのは見て取れた。
(あの時と一緒だ……)
息吹の頬を一雫の涙が、すうっと流れた。
(また私のせいで壊れちゃう……)
息吹は、あの恐怖の夜を思い出した。エマやジョルジュが、ギアに胸ぐらを掴まれた自分を驚愕の目で見ている。
(どうして……)
もう涙を止めることはできなかった。泥で汚れた顔は、更にグシャグシャになり歯を食いしばっても声を堪える事はできなかった。
「ううう、うわああああ」
息吹はうずくまり泣き続けた。どうして自分だけが、人を不幸に陥れるのか。こんな疫病神になってしまうのか。もう我慢できなかった。
(コウテカ様、教えて下さい。どうして私は産まれたの)




