違う道
「ごめんなさい」
息吹は気まずそうに、七之助を見た。
「もういい 。……秋海棠を探していたのか」
息吹は、髪の隙間から見える青い瞳で、秋海棠の花をじっと見た。
「どうしても、今、見つけたくて……すぐ帰るつもりだったんだけど」
七之助は何も喋らなかった。息吹も、言葉がみつからず、ただじっと花を見つめるしかできなかった。
雨は止むことなく、強くなる一方であった。息吹には、随分長い時間黙っているように思えた。
「お前は、ずっと自分で道を選んで来たはずだ。尊治様とは違う」
息吹は急に七之助が喋りだして、びっくりした。そして、七之助が自分に何を言いたいのかよくわからなかった。
「……我ら一族の怨念が、尊治様に取り憑いている。その原因を作ったのは、他でもなく私達大人だ」
息吹は、七之助が今、息吹自身に道を選ばそうとしてるのがやっと分かった。でも自分がここで逃げ出せば、バカな息吹でも、七之助がどんな目に合うか想像できた。
「……でも」
「ハヤテ様は、きっと幸せだったのだろう。お前を見ていれば分かる」
息吹が何か言おうとしたが、七之助は遮った。息吹は、雨の降りしきる中、ようやく七之助の目を見た。静かな暗闇が、七之助の目に浮かんでる。
息吹のドクンドクンと心臓は脈を打ち、雨でぬれた身体は熱を持っていた。七之助が自分を逃がそうとしている。尊治との関係を壊しても……自由になれと背中を押してくれているのだ。
ピチョンと、ピンクの花びら雫が溢れた。
「……お世話に……なりました」
最後の方は、声が掠れた。目の奥はじいんと熱く、食いしばらなければ、涙が落ちそうだった。
息吹はくるりと後ろを向き、秋海棠の花を脇に置いた。次の瞬間、暗闇へと姿を消した。
「……短き間だったが、楽しかったぞ」
七之助は、ポツリと呟き跡を追うことはなかった。
一層雨粒はおおきくなり、森を暗闇へ誘った。止むことのない雨は、カラスの子を逃すように降り続けるのであった。




