秋海棠
(はぁ……)
息吹は深いため息をついた。あれから尊治は姿を見せず、七之助も食事は持って来てはくれるものの、避けられてる日々が続いた。
どんよりとした息吹の気分と同様に、この頃雨ばかり続き、ますます気分は落ち込むばかりだった。
(二人とも大嫌いだったのに……)
息吹は二人に会えない事を寂しく感じていた。最初の頃は、押し付けてくる二人がとても嫌だった。
七之助は息吹の行動にいつも厳しく注意してきたし、尊治も、顔を合わせれば、お前のような能天気な奴が存在するとはなと毒づいてばかりいた。
その事を最初は理不尽に感じていた。
だが、いつも熱心に、息吹に武術と勉学を教えてくれたことが、少しずつ息吹の気持ちを変えていった。
(このままお別れするなんて嫌だ)
息吹は畳でゴロゴロしながら、ある雨の日の事を思い出していた。
いつものように、七之助がため息をついたとき、ふと花に目を止めた。
その花は、カエルが傘をさしそうな葉っぱに、ピンクの小さな花がぶら下がっていた。七之助はこの時期に咲くのは珍しいと呟き、狂い咲きだなとその花をみて目を細めていた。息吹は、七之助の様子を見て、尊治が驚くかもしれないと思い、その日、尊治にその花を持っていった。尊治はシュウカイドウか、としか言わなかったが息吹はそれで満足した。
(もしかしたら、探したらあるかもしれない)
ただ見に行って、こっそり帰ってくれば、問題ないと思い、息吹は花を探しに行く事にした。
変えられない状況から、今は思い出に逃げたかった。
支度をして、周りに人が居ない事を確認すると、息吹は、雨の中出ていった。
そんな息吹を慰めるかのように、空っぽになった部屋に、哀しく雨の音は響くのであった。




