兄弟
鬼瓦の屋根で覆われた、倭国一大きな城は、大勢の人々が様々な事情を抱え暮らしていた。女も男も、ここで一旗あげようとお互い探り合い、蹴落とし合うのが常であった。
尊治は、帝の11番目の子供であった。帝は、正妻以外多くの側女を抱えており、皆自分の子に帝からの寵愛を受けさせようと、躍起になっていた。
「見て、尊治様よ」
尊治が回廊を歩くと、女達は色めき立ち、そわそわした。だが、尊治は表情一つ変えず、まるで女達のことは見えないようであった。角を曲がると、美しい着物を身に纏い従者を側につけた男が、尊治を睨みつけていた。
「いいご身分だな。……おまえのような半端者が、我ら神の遣いの一員とはなんおぞましいことよ」
面長の男は、仮面のような顔で、目も鼻も口も、一筆で描いたように細かった。
「兄上、お久しぶりでございます」
尊治は膝をつき、男に頭をたれた。男は、嫌悪感をむき出しにし、扇子で口元を隠してこの毒虫がと小さい声で悪態をついた。
「 しばらく顔を出さず申し訳ありません。父上の容態が良く無いと聞き、急ぎ参った次第にございます」
尊治は顔を上げず、淡々と述べた。男は、真赤な唇をニヤリとさせ、意地悪く尊治に話掛けた。
「父上はおまえの顔など、見たくも無いそうだ。代わりに私が伝えてやろう」
尊治は、少し間を置き、ありがとうございますと答えた。
「あまりそのような、みすぼらしい格好でこの城を歩くな。……恥ずかしい奴め」
そう言うと、男はしゃんなりと背を向け、はよう去れと言葉を残し立ち去った。
尊治は最後まで、頭をたれたままであった。
「ふん、気の小さい奴め。」
立ち上がった尊治の表情は特に変わらなかったが、瞳だけはギラギラと燃えていた。
(無能なおまえなど、すぐに引きずり落としてやる。……厄介なのは、おまえではなく神谷の方だ)
尊治は、背を向け城の出口へと向かった。
大きな戦が、また始まろうとしている。




