退屈な毎日
エスペランサは妹のマーベリックをあやしながら、窓に映る真っ青な空を眺めていた。
(まるで籠の中の小鳥ね)
小さくため息をつき、桃色の綿毛のようなマーベリックの髪を優しく撫でた。まだ9ヶ月の妹は、つかまり立ちに専ら夢中で、今も立ち上がってこちらを見てニッコリ笑っては、ポテっと座り込むのであった。
褐色の肌をしたマーベリックは、大きな瞳でキョロキョロあたりを見回すと、
「たっった、まんまあ」
と喋った。ドアの前には桃色の髪をふわふわさせながら、母親がニコニコして立っていた。「エスペランサ、もうすぐアッカーテ様達がいらっしゃるようよ。…ふふ。可愛いマーベリック。こちらにいらっしゃい。」
マーベリックを抱っこすると、彼女はからかうように言った。
「ジョルジュ様はとってもかっこいいらしいわよ。あなたにぴったりじゃない!」
エスペランサは喜ぶ母親を尻目に、(つまんない。)小さくため息をついた。まだ幼い彼女には、自分の恵まれた境遇を理解するのは難しかった。いつも周りに見られてるこの生活は彼女には窮屈であった。もっと楽しい事に挑戦したかったし、たった一度しか恋ができない事も、せっかく美しく産まれたのに何てもったい無いのだろうと思っていた。数々の縁談も父親は、会わせることもなく勝手に破談にし、自分の意思などまるで無視であった。結婚して、好きになるかどうか分からない相手のために毎日過ごすのだと思うと、吐き気がした。
エスペランサはこの時代には珍しく、活動的な思考の持ち主であった。貪欲で賢い彼女は、その容姿も加えて、男に人生を捧げるという今の常識が大嫌いであった。
(私はドレスをデザインする仕事をしてみたい。恋をするなら芸術家が絶対いい!)
物心ついた時からずっと描いていた夢だった。彼女は武人が大嫌いだった。寡黙で厳格な父とは全く反りが合わなかった。だが、母親に言わせれば、二人は考え方こそ真逆だが、頑固な所はそっくりとの事だ。
彼女がこの縁談に対して期待してないのは、父の選んだ相手だというところもあった。勿論ハンサムでなければ、絶対にいやだった。ジョルジュが、あの有名な黄金の髪をもつ一族と知って、泣く泣く承諾したのだ。噂では、武人を目指す少年で、気性が激しくケンカが耐え無いとの事だ。
(私の理想と全く違う。ユーモア溢れる優しい紳士がよかったのに……。でも、お父様には逆らえない。私には、夢はあっても叶える方法も、力も無いから)
エスペランサは同じ世代の子供達よりも、オマセであった。それは悪く言えば生意気だが、一方で空気の読める賢い娘ともとれた。
(前向きに考えよう。好きになる努力をすればいいのだから。お父様もお母様も上手くいってる。叶わない夢をみたって無駄なんだから)
誰もが羨む縁談を前にして、本人が気乗りしないなど大人達は気づかなかった。エスペランサも又、それを表に出さなかった。
この国一番の注目の的となる、見合いが、まさに今行なわれようとしていた。