血の呪い
「……えっ?」
息吹は突然、自分の母親の行方が分かって、頭をガーンと金づちか何かで殴られた気分だった。
「……お前の母親は、ハヤテと同じ一族の裏切り者だ」
尊治は、息吹の胸ぐらを放した。ドサッと息吹は床へ落ちると、そのまま気まずくなってうつむいた。
「ハヤテは倭国を離れられたが、お前の母親は逃げ損ねた。ただそれだけだ」
次々発覚する衝撃の事実に、息吹の頭はついていかなった。尊治の怒りも、息吹の表情を見て鎮まっていった。
(こいつは本当に何も知らなかったのだ……)
二人は、多少ハヤテが、息吹に説明していると思っていたため、少々息吹が哀れに思えた。
今思えば息吹の能天気に見える行動も、納得がいった。
「……ごめんなさい」
息吹は、聞こえるか聞こえないかの小さな声で下を向いたまま言った。尊治は表情を変えず、少し黙った。そのあと、重い口を開いた。
「お前のせいではない……だが、俺もお前も簡単に断ち切る事はできん立場なのだ」
尊治の表情は先ほどとはうって変わって、憂いに満ちていた。美しさがより一層引き立てられ、息吹の目には人間ではない違う生き物に見えた。
「今日はもう寝ろ……俺達にはお前の力が必要だ」
息吹は仰天した。あの、鼻っ柱の強い尊治が、息吹に頼み事をしたのだ。
尊治は、そのまま立ち去った。
黒子の男は、尊治の後ろ姿を見つめてゆっくり息吹に話しかけた。
「あの方もまた、お前と同じ血の呪いに縛られているのだ」
息吹は、黒子の男の目を見た。隙間からしか見えなかったが、七之助の面影はなく、淀んだ黒い瞳の周りはシワで囲まれ、苦労の跡が見てとれた。
(血の呪い)
息吹の耳には、黒子の男の声がいつまでもこだましているのであった。




