凶
息吹がこの城に滞在してから随分経った。寒さは一層加速し、雪がちらほら降る日も多くなっていた。
今日も日課の訓練を終えた後、息吹は深夜、城を詮索していた。訓練の方は変化なく、あの不思議な力を教えてもらってはいなかった。なかなか進まない現状に息吹は少し、イライラしていた。その気持ちを抑える様に、夜中の城を探検するのが今の息吹の息抜きであった。
夜中の城の詮索には、もう一つ目的があった。倭国と阿修羅の関係を調べていたのだ。両親の事も知りたかったが、書物には載っていそうになかった。だが阿修羅の事は、絵巻物に大鷲の絵が描いてあるのを見つけ、もしかしたらと思っていた。
(やっぱりここにもワシの絵が書いてある……それも沢山)
その絵はとても凶々しかった。沢山の鷲が炎の中、叫んでるようにみえる。その周りに多くの人々が倒れ血を流している。
息吹はなんだか気分が悪くなって来た。
(もう寝よう)
息吹は巻物をしまい、部屋に戻ろうとした。
「あっ……」
月光で照らされた回廊に、あの美しい人が立っている。息吹は、体中から汗が吹き出すのを感じた。
「っごめんなさい。あの……」
息吹が最後まで言おうとする前に、尊治が遮った。
「お前が夜徘徊してるのを、俺が知らないとでも思ったか」
尊治の顔は月に照らされ、一層美しかった。怒ってる様には見えない。
「お前が自分で此処までたどり着くのを、若様は待たれていたのだ」
黒子の男は気配を消していた。そのため、尊治のすぐ側に立っていたのに、息吹はすぐには気づかなかった。
「どうして」
息吹は心臓がバクバクしてなんだか吐きそうだった。耳を塞いでその場にしゃがみこみたかったが、なんとか踏ん張った。
「阿修羅はこの国の建国に大きく貢献した大鷲の最後の生き残りだ」
尊治の表情から、感情を読み取ることが息吹にはできない。
尊治は黒子の男に目配せした。いつの間にか、息吹の目の前に黒子の男が立っている。
「口で説明するより、俺と記憶を共有した方が早い……」
黒子の男の瞳の奥に、息吹は燃える青の炎をみた。
「っっ、、」
遠のく意識の中で息吹は懐かしい声を聞いた。
「こっちよ」
尊治と黒子の男がこちらを見下ろしている。
(だれ……)
その声が誰なのか息吹には分からないまま、そのまま意識が無くなった




