舞踏会
今ギルマ帝国では、この国の最も大きな城で華やかな舞踏会が開かれていた。招かれた人々は美しく着飾り、豪勢な料理、美しく音楽が広間を彩っている。
中でも、真っ赤な髪に、真紅の瞳をもつエスペランサは一際美しかった。まだ幼いながら、気品と自信に満ちた表情は、王族の血をひくのにふさわしい出で立ちであった。
(ふふ、皆んな私に注目してる)
エスペランサは何より、舞踏会が大好きであった。寡黙で厳格な父は、舞踏会を嫌いで殆ど顔を見せることはなく、ここでは、エスペランサは自由でいられた。
若い男子が、エスペランサを見るたび頭をたれ、自分に熱い視線が注がれるのも気分がよかった。
(結婚すれば、二度とこの場所に来ることはできない……)
エスペランサは婚約の事を今は忘れ、今夜は思いっきり楽しもうと決意していた。
エスペランサが、男子たちに囲まれ楽しく談笑してると、なんだか広間が騒がしい。
「なんて美しい親子なのかしら……」
「ため息が出るな……」
人々の熱い視線の先にいたのは、アッカーテ一家であった。
実はエリザベート親子がこの城の舞踏会に出るのは初めてであった。アッカーテ一家は、自身の城で舞踏会を行うことが多く、ここまで出向くのは、アッカーテのみであった。
美しい金髪はシャンデリアに輝かされ、そこにいる人々の目をいっしんに集めた。
エスペランサの瞳にも、アッカーテの自慢の息子が目に入ってきた。どうやらエマは連れて来てないようだった。
不機嫌そうなジョルジュとは正反対に、エリザベートはニコニコしている。エリザベートはエスペランサに気がつくと、すぐにジョルジュを従え、駆け寄ってきた。エスペランサはこの母親が苦手であった。自分は美しさには大層自信があったが、この人を目の前にすると、そんなものはどこかに吹き飛んでしまうようだった。
「ご機嫌よう、エリザベートさま」
エマは苦々しく思いながら絵社交辞令を返した。エリザベートはそんな事微塵も感じていないかのように、相変わらずお美しいですね。とニコニコ返事する。エスペランサはこの純粋無垢な感じがまた鼻についた。だが賢く、空気を読む彼女はその後もエリザベートの相手をなんともなしにこなした。その間、ジョルジュが喋った事と言えば、形式的な挨拶くらいであった。
2人が去った後、エスペランサはうんざりした。
(お嫁に行けばこれが毎日……)
(……地獄だわ)
大好きな賑やかな広間も、今はただ鬱陶しく感じた。エスペランサは広間から一人離れ、バルコニーへ出た。バルコニーには誰もおらず、星がチカチカと瞬いている。少し冷たくなり始めた風がエスペランサの体を冷やし、彼女は身震いした。
そんなときふわり温かいものが彼女を包んだ。大きなマントだ。エスペランサは驚き、後ろを振り向くと、そこには、銀色の長い髪の青年がニッコリと微笑んでいた。ツルっとしたおでこには、美しい眉が曲線を描いている。羽根のついた大袈裟な帽子も、彼かぶれば絵画のようであった。手元には楽器が置いてある。
「お嬢様、風邪をひきますよ」
エスペランサの初恋の相手は、いつも優しくエスペランサを包み込む。
「ジョニー、何か一曲お願い。今はなんだか疲れてるの」
ジョニーは仰せのままにというと、この国に昔から伝わる戯曲を奏で始めた。エスペランサは気分が落ち着いていくのを感じた。
いつもいい子の彼女には、ストレスが付いて回った。賢く気が利く事が、彼女の評価を高めると同時に、苦しめたのだ。ジョニーの前でだけ、素直に我儘を言えたし、偉そうな物言いをすることもできた。彼は絶対自分を否定しない。
(ジョルジュ様は今日も凛々しかった。……でも一緒にいても、私に安らぎはない)
エスペランサには彼が年下という事も引っかかていた。せめて夫婦の間でぐらい甘えたかった。
(もう止めよう。この問いを何度繰り返しても応えは同じなのだから……)
エスペランサはジョニーの奏でる演奏に耳を傾けた。
美しい星も、音楽も今は彼女を優しく包んでくれるのであった。




