もう一度
コウテカ庭は、今嵐の真っ只中にいた。風は吹き荒れ、木々をしならせた。
コウテカの庭から、ほど遠くない城もまた、嵐に耐えていた。
だが、閉めきられた、城の窓の中 、小さな灯りが灯っているのが一つ見えた。広い書庫の中で、それはチラチラ揺れている。書庫の中は、カーテンが閉められていたため薄暗く、ホコリと湿気で空気はよくなかった。
(ここに無いのかしら……)
ランプの灯りを手に取り、本のタイトルを凝視していたのは、あの金髪の美しいエマであった。彼女に、この書庫は全く似合っていなかった。
あの日から、アッカーテ一家は、エマはショックで塞ぎ込み心を閉ざしているとみんな思っていた。この家のみんながあの日の出来事で、息吹の事を忘れようとしていたが、エマだけは違ったのだ。彼女は、幼いながら、勇気と強い意志をを持っていた。たった一人の大切な友達を、ただ一人諦めていなかったのだ。
(私にできることがきっとあるはず……)
エマは、ひとつひとつ丁寧に、本のタイトルを確認した。
今まで、エマはあまり勉強熱心では無かった。このため、タイトル一つから本文を想像するのも困難だったし、勉強方法というのも全く身に付いていなかっため、今はただガムシャラに思い付くまま本を読みあさっていた。
「お嬢様……食事にされては?」
ゲリーさんの心配そうな声が、遠くから聞こえたが、今のエマには人を思いやる余裕はなかった。
「ドアの前にでも置いといて」
冷たく突き放す様にしか返答できなかったが、それも今は気にかけれない。寂しそうに去っていく足音も、今のエマには届かなかった。
(陛下が、阿修羅にこだわる理由は一体なんだろう……)
エマはあの日の事を思い出した。もう何回、夢の中で息吹に謝ったかわからなかった。
(私はなんにも分かってなかった。自分がどんなに守られていたのか)
エマは胸がギュッとっして苦しかった。不甲斐ない自分に向き合うのは、簡単じゃなかった。息吹を忘れようと何回もしたし、自分をどうにか説得しようとした。でも、どうしても納得できなかった。
(息吹は今度こそ私達をきっと許さない……)
エマはランプを握り締め、天井を仰いだ。古くなった天井は不気味で、シミはオバケのように見えた。
( ……でも私は、息吹を助けたい)
緑黄石の瞳は、ランプに照らされ燃えるように輝いてる。
(あの子は、私に風を運んでくれた。それだけで、息吹を助けたい理由は十分だもの)
エマはまた、書庫の中の本を物色し始めた。
息吹を思う人が確かにここに存在したが、今の息吹には遠く届かなかった。
(もう一度……コウテカ様)
深夜になっても、ランプが消えることはなかった。城が嵐の中、風に吹きさらされても、一つの希望のように、ランプはそっと書庫を照らすのであった。




