表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
16/139

恨み

寺に着いて、二人が布団で身体を休めた次の日の朝は快晴だった。昨晩の不気味さは嘘のように、寺は美しい新緑に囲まれ、冷たくひんやりとした空気を纏って荘厳な空気を感じさせた。



ハヤテは、布団に横になったまま雲ひとつない青空を眺めていた。見慣れていた寺の天井も、ハヤテが知ってた頃より随分古びていた。それでも、此の木の香りがする空気はどこか懐かしく感じた。


「体の方はあ、どうだあ?」


大きな鐘が鳴り響いたかのような低く、大きな声がハヤテの耳を震わした。


「だいぶ良いよ。面倒をかけたな」


ハヤテは大男を見上げた。黒々とした髭が口の周りを覆っているが、頭部はチリ一つ無く磨き上げられている。髭と同じ質感の眉は黒く太く、倭国の民らしい見た目であった。


「息吹はどうしてる?太陽があがると同時に目を覚ますような奴なんだが」


大男は、少し間を開けた後、口にするのも嫌そうにボソボソ喋った。


「あいつはあ、熱が出てえ、うなされてるわあい」


そうかとハヤテはつぶやき、大男から顔を背けた。


「……あいつの両親には確かに責任がある。だが、それが結果的に、悲しみを生みだしたとしても、信念を持ってやったことだ」


「だからあ、許せというのかあああ!!」


大男は豹変した。黒い瞳にはギラギラと怒りがみなぎった。


「あの女のしたことはあああ、悪戯にいい、夢を見させええ、俺たちが築いたああ、調和を壊しただけだあああ!!」


部屋中に、大きな低い鐘の音は鳴り響き、大男の怒りは溢れ出した。


「お前をおおお、息子の様に大事にしてきたあ、俺の気持ちをおお、お前はああ、思いやったことがあるのかあああ!!」


ハヤテは、少し目を見開き、ゆっくりと身体を起こした。まだ痛みと疲れが伴う身体には、上半身を起こすだけでも辛かったが、今はこの男に向き合う必要があった。


「慶獄、俺にとってもお前は、親父のような存在であることは間違いない。……お前の期待を裏切った事は、本当に済まないと思っている」


慶獄はやせ細ったハヤテをみて、バツの悪そうな顔をした。こんな事が言いたいのではない。再び会えた事をどんなに喜んだか伝えたいのに、ハヤテを目の前にすると、どうしても恨み辛みしか出て来ないのは歯がゆかった。


「……あやつの事は心配するなああ。病人をおお、いたぶる趣味はああ、ないい。」


ハヤテはすまないと小さく呟くと、身体を倒して目をつぶった。


慶獄は眉間にしわを寄せ、空を仰いだ。あいも変わらず澄み切った空は、ヒンヤリとした風を連れて来て、慶獄をなだめるのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ