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コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
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高剣山

息吹は先生を支えながら、険しい山を歩いていた。倭国はほとんどが山で囲まれていた。平地で育った息吹にとって、急な斜面が続くこの森はコウテカの庭とは全く違った。緑の色は深く濃く、石だらけの地面は水がチョロチョロ流れ、苔が生えて滑りそうだった。こんな山しかない国に人がたくさん住んでいるとは思えなかった。


「っぐ、」


何度も滑り落ちそうになるのを堪えながら、息吹は踏ん張った。額は汗でびっしょりになり、喉もカラカラであった。かれこれ4時間近く登り続けていたが、目的地に着く様には、到底思えなかった。


「わっ、、」


痺れてきた足が、踏み外しそうになった。二人は態勢を崩し、もう少しで石に頭をぶつけるところであった。


「少し休もう。」


先生は息吹に優しく言った。息吹は汗を拭い、そうだねと言うと、先生を岩まで連れて行った。チョロチョロ流れる水で顔をバシャバシャ洗うと、水に映った自分の瞳をじっと見た。


先生のような真っ黒な瞳の人々がこの森には沢山いるのだろうか。心の中にはまだ不安が渦巻き、振り払う様に、先生に水を汲んで渡した。


コウテカの庭とまるで違うこの森は、なんだか不思議な空気を感じた。身体にまとわりつく湿気も冷たい空気もこの森を一層神秘的に感じさせた。


「先生、後どれくらい今日は登るの?」


「日没までには着くだろう。まだしばらく登るが、夜は布団で眠れるぞ」


先生は息吹の頭をクシャクシャっとすると、木々から溢れ落ちる光りに目をやった。光は葉をキラキラ光らせ、ひんやりしたかすかな風が葉っぱを揺らした。


息吹は少し気持ちが落ち着いていくのを感じた。ひんやりとした空気が、火照った身体には気持ちよかった。


「先生、倭国の人も、コウテカ様のこと知ってるの?」


息吹は少し調子を戻して、先生の方を見た。


「いや、ほとんど知る者は居ないだろう。俺も、コウテカの庭で暮らすまで全然知らなかったしな」


「そっか」


息吹は少し気持ちがシュンとしたが、布団でねむれる事を思い出して気を取り直した。


「今日行く所は 、コウテカを信仰してはいないが、神を祀り修行する場所だ」


先生も少し表情を和らげ、懐かしむ様に言った。


息吹は先生の方を見て、自分の知らない先生がいる様に感じた。


二人は新鮮な空気を浴びながら、もう一度山に挑むことにした。先程よりも足取りが軽くなるのを感じながら、山へ親しみを感じていた。


辛い境遇も今は、忘れさせてくれそうだった。


ひんやりした微かな風は、今 二人を導いてくれる様だった。





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