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コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
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覚醒

 (起きてや!起きてや!)

息吹は耳元で、かなきり声で叫ぶクロミの声で目を覚ました。口にくつわをはめられ運ばれていることに仰天した。確か自分は、昨夜落ち込み気味で寝床に入り、明日から訓練と言われていたはずだった。だが今、屈強な体をした背の低い男たちに担がれて岩場を移動している。海が近いからか潮の匂いがきつく、ユラユラ揺さぶられて今にも吐きそうだ。見たこともない男達であった。肌は浅黒く格好はふんどし一丁、黒い髭ををはやして裸足で歩いている。黒い瞳に、真っ黒な髪、これだけ見れば見慣れた顔のはずだが、大きな二重の目は爛々と輝き、倭国の者にしてはホリが深く、くちばしの様に高い鼻は少し異国の者のように見えた。


 (ヨナミとナミキはどこに行ったんだろう…)

男達の集団は10人ばかりだろうか。列になっている為、もしかしたら後ろで同じ様に縛られているのかもしれないと息吹は推測した。

 (クロミ!クロミ!)

息吹は頭の中で大声で叫んだ。

 (やっと目え覚ましたんやな)

見慣れた素朴な顔が、目の前に現れ息吹は少し安心した。だが、クロミの表情は冴えなかった。今の状況が良くないことは息吹は察した。

 (今の状況を説明して。一番悪い情報から)

息吹は心臓がドクドクしているのを感じた。今まで悪い状況は、本の束の間急速の後現れた気がした。

 (言って。聞かなきゃどうしようもない)

最後は懇願するようにクロミに言った。

 (クロミはふざけるのが仕事でしょ。言ってよ)

クロミの表情は変わらなかった。だがようやく重い口を開き呟いた。





 

(…双子のの姉ちゃんの片っぽが殺された。もう一人の姉ちゃんは無事や)






息吹は耳を塞ぎたくなった。言ってと言ったのは自分なのに、こんな事信じたくなかった。

 (何で…)

 (煙が籠ってた。なんやわからん変な匂いで三人ぐっすり寝てもうて。二人はその後連れて行かれたんや。尋問されたけど姉ちゃんらは、口を割らへんかったから)

 (見せしめってこと.…)

(見てられんかった。最後まで死んだ旦那さんを思ってはった。気高い人やった)




息吹は金槌で頭を殴られた様に感じた。この地に来てからというもの、人々の命のやりとりこんなに簡単に行われていることが息吹には信じ難かったが、今まさに、一緒に飯を共にした者の命が刈り取られたのは、息吹にとって人生で一番大きな衝撃であった。自分には哀しみも、哀しんでくれる人もいないと昨日落ち込んでいたのに、今のこの状況は一体なんなのだ。


(…あのお姉さんの達のことはよく知らない。…でも自分を利用する事を申し訳なく思ってくれて…旦那さんのことを哀しんでて、なんだか優しそうな人達で、それで仲良くなれそうな気がして…)


息吹はこんなに人の死を間近に感じたのは初めてであった。


動揺が大きく占める中で、悲しみと怒りが自分の奥に沸き上がるのを感じた。


(なんで…なんで…平和に暮らしたらいけないの)


心に沸き上がった感情、それは、大人への怒りであった。


(…どうして殺さなきゃダメなの)


自分に理解できない社会の状況は、息吹に初めて考えさせる事を促した。


 (…いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも)


息吹は自分にどす黒い感情が生まれるのを感じた。

 



(…いい加減にしてよ)







”ギャアアア”


男達は悲鳴を上げ息吹きを投げ捨てた。


”化け物じゃああ!”


青い炎に包まれた息吹は自分の身がやけつくように感じた。揺らめき振り向いた姿は、怒りに覆われ、瞳は暗く冷徹であった。息吹きを縛っていた縄やくつわは焼け崩れハラハラと落ちていった。



”逃げろおおお!祟りじゃああ”


逃げ惑う男達を眺めながら息吹はひどく冷静であった。



 (…皆燃えてなくなっちゃえ)


息吹は笑った。さっきまで色んな感情があったのになんだか今は落ち着いている。燃えてしまえばスッキリするというものだ。


息吹は禿げ頭の首を握りしめ持ち上げた。


”やめろおお、この化けもんがあああ”


男は苦しそうに抵抗したが、息吹はにはなんの煩わしさもなかった。


(バイバイ)


そういって男に炎が燃え移ろうとした時であった。


”やめて!”


白い髪の女が息吹に叫んだ。美しく気高い顔は殴られたのであろうか。あちこち薄汚れてあざだらけだ。





(泣いてる)



(ボロボロだね)


(殴られたの?)


男は泡を吹き失神しかけている。息吹は手を離さなかった。



”あなたが殺す必要はないの。あなたはまだほんの子供なんだから”




女は泣いてる。お願いと小さく呟いた。



他の男達は皆逃げてしまい残ったのは三人だけであった。シトシトと雨が降り出し、次第に青い炎も小さくなっていく。


"どうしてかばうの。こいつらが悪いんだよ"



"……そんなのわかってるわ"



女は泣き続けた。



息吹はぼうっと考えようとしたが意識はまもなく消えた。






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