ヨナミとナミキ
息吹の返事を聞いて、ヨナミとナミキは息吹を固く抱きしめた。息吹は戸惑いはしたが嫌な気持ちはしなかったのでそのまま身動きしなかった。すると2人は、堪えきれずクスクス笑い合い顔を見合わせた。
「なんで笑ったの?」
「あなたの事が少し分かった気がしたからよ」
「あれだけで?こっちはなあんにも分かんないけど……」
息吹はちょっと不気味そうな顔して二人から離れた。
「今いくつ?」
ヨナミかナミキかどちらかが顔を覗き込んで尋ねてきた。
「知らない」
じゃあ、好きな食べ物は?
「ミートパイとかき氷」
「何、ミートパイって。かき氷は私も好きだけど……」
じゃあ、得意なことは?
「狩りと、うーんと気配を消すとか?あ、寝るのも得意」
二人は、妙な物を見るようなな目で息吹をじろじろ観察した。
「なあに」
「だって、悲惨な生い立ちを聞いてたから拍子抜けしちゃって」
「そうそう、もっと暗くて、こう、扱いにくいのかなって」
息吹はなんだか気まずいので早くこの場から立ち去りたくなってきた。クロミはというと、そうそうこいつは簡単、単純、無鉄砲人間やでーとクルクル回りながら二人に囁いている。
「今回の事本当にありがとう」
二人は急に真剣な眼差しで、声を揃えて礼を言った。息吹は、もういいよと益々気まずくなり小さい声で答えた。
「これから短い時間だけどきつい修行を受けてもらうの。あなたが逃げ出すのが得意とは聞いてるんだけど、今回はそれは絶対しないで欲しいの」
白い髪を優雅にかき上げ真っ直ぐ息吹を見つめた。その瞳には苦渋の色が浮かんでいる。
「大丈夫。もう逃げ飽きたから」
「そう」
無言でその先は言ってくれない、この事は息吹でも何を伝えたいのか理解した。
「自分でちゃんと決めたから、お姉さん達はあんま申し訳なく思わないで。なんか、こっちが居づらいし、疲れる」
本音だった。巻き込まれている様に感じた時もあったが、全ては自分で選んできた道なのだ。
「あなたの大切な人に合わす顔がないわ」
片方が少し俯き、自嘲気味で呟いた。息吹はそれがなんだか嬉しかった。クロミは息吹の肩に手を置き、親指を立ててウインクした。
(意味がわかんないですけど)
(気にすんな。なんとなくや!)
意味不明の満面の笑みをみて、息吹はなんだか笑いそうになってしまい急いで話を戻した。
「明日から?」
「いいえ、今から洞窟へ向かってもらう」
二人息吹の両脇に立ち片方しか見えない瞳を怪しく光らした。
「……緑黄石輝く、神秘のほら穴へ」