怒号
(……大事な人かあ)
息吹は暗い天井を眺めて息を吐くように呟いた
ヨナミとナミキの申し出に、息吹は少し考えさせて欲しいと告げた。断りたい気持ちと、このままではダメだという気持ちに挟まれて、自分でもどうしたらいいのかよく分からなかった。
自分にも大切だと思っていた人達は居たはずだ。だが、皆もう自分から遠く離れ、生きているにしたって二度と会えないのだから、それはもう自分には失っているのと同じように息吹には思えた。
(……じゃあもう大切な物なんて何も自分には無いのかな)
そう思うと、彼女達の為自分の命を使ったって誰も悲しまないし、一番いいのだろうか?
(何言ってねん!!)
息吹は頭上から降ってきた怒号に耳を塞いだ。正確には頭に直接鳴り響いてるのだから、こんな事しても無駄なのだが。
(……死んでるのに元気だね)
(やかましい!無い脳みそで色々考えるからしょうもない考えしか浮かばんのんじゃ!………生きたいと思うのに理由なんかなあ、一個もいらん!そんなん生まれたての赤ん坊やって分かってるわ!こんのっあほ!!)
息吹は半眼しその後ふふっと笑った。
(……何が可笑しいねん。きしょ)
(不気味なもんに取り憑かれてやっぱりついてないなーと思って)
クロミは鼻息荒く反論した。
(こおんな可愛いうちを捕まえて何言ってんねん。もううちは精霊みたいなもんやで)
(図々しいな)
(謙虚な方やで)
(……もう相手すんのもしんどい)
息吹は大の字になった後、うーんと背伸びをした。
(……暴走かあ。なんかもうここまで来ると笑えるなあ。クロミみたいにはなりたくないけど、努力してみて答えを出してもいいのかもね)
クロミの小さい瞳はキラキラ輝き、新しい玩具を手に入れた子どもの様だった。
(そうそう!なんでも挑戦すんのは大事やで)
(ひと事だもんね)
(そうやで)
息吹は勢いよく起きあがりフスマの裾から見える三日月を見つめた。
「……いい夜」
ひんやりとした風が頬を撫でた。とりあえず明日に返事は出来そうだ。