役割
息吹がモヤモヤとしている間、神谷と瀬尾は着々と話し合って準備を進めていた。朝がひんやりし、起きるのも辛くなってきた頃、息吹は早朝に瀬尾に呼び出され大きな広間で値踏みされるかのように瀬尾の一族の女達の前に立たされた。
女達は瀬尾と同じ様な格好をしており、神谷とは違う風貌であった。各々着飾り方も独特で、顔には刺青の様な物をし個性を出していた。
「ヨナミとナミキ前にでろ」
息吹の前に立ったのは、二十歳前後の女性だろうか。小柄であったが、凹凸のはっきりとしたがっしりした身体で2人とも髪は真っ白であった。筋の通った鼻に大きな二重の瞳は、彼女達を可愛く魅力的に見せた。ただ気になるのは2人とも左右前髪で片方の目を隠している事であった。2人が向かい合うとまるで鏡の様で、長い垂らされた雪ような髪は巫女の様にも見せた。
2人はじっと息吹を見つめ、周りの女達もその様子をじっと眺めた。息吹は彼女達の黒い瞳に映る自分が、恐怖の色を浮かべていることに気づいた。彼女達は自分を歓迎しておらず、瀬尾と同じ感情を自分に向けていると感じたからだ。
「お前1人で行かせたかったが、数珠や今までの事を考えるとお前が寝返る事もありうるからな。ヨナミとナミキを同行させる。2人が希望した」
「寝返ったりなんかしないよ」
息吹は怒りを込めて言ったが、神谷の命を狙った手前大きい声は出なかった。
「お前の意見なんか聞いとらん。……俺らが神谷と行けば戦争が始まる。それだけは避けなあかん」
背の高い、筋肉隆々した身体は少し震え、自分が今すぐにでも尊治を殺しに行きたい感情を押し殺しているかの様だった。
「お前は尊治の城に詳しい。情報によると七之助翁は今、尊治と離れて城で他の仲間も集め始めたらしい。お前は城へ忍び込み、ヨナミとナミキを七之助翁のもとへ連れて行け。あとはこいつらがなんとかする」
「案内するだけでいいの?」
「いや、お前は数珠の使い手として価値はあるが、逆に危険でもある。お前は今からある訓練をしてもらう。それが最も、重要や」
息吹は嫌な予感がしたので、口から言葉が出てこなかった。瀬尾の表情は硬く、感情を読み取ることは出来なかった。
「……力を使いこなすようになるのは時間がかかるが、暴走させるんはまだ可能や。ヨナミとナミキをいざという時は……自害して逃せ。………それがお前の役割や」