黄色い月
息吹は白い三日月を眺めながら、どうして倭国の月はこんなにも白いのだろうとぼんやり考えていた。幼い頃自分が眺めた月はもっと大きく、黄色いパンケーキのようだった。
(そういえばパンケーキずいぶん食べてないな……)
頭に浮かんだ大きな明るい大きな月は、エマの黄金の髪を思い起こさせた。あれからずいぶんと時が経ったというのに、懐かしいと感じる気持ちは全く薄れず、それどころか強くなっているように息吹は感じた。
(もう帰れないんだ。……ここで生きていくしかないんだから)
息吹は、これから自分が尊治の元へ向かう事を考えると、やはり恐怖に襲われ、夜も中々眠れなかった。早く解放されたいような、その日が二度と来て欲しくないような、息苦しさを感じていた。
(考えてもしゃあないやろ)
クロミが横に座ってこちらを覗き込んでいる。
(うん……だけど怖いんだ、死ぬかもしれないことが)
息吹は震える声でクロミに返事をした。
(そりゃそうやな)
(うん)
息吹は瀬尾の前では怒りが感情を支配していたが、この数日顔も合わせず自分の時間ができると、少しづつ恐怖が後ろから忍びよって来るのを感じた
(無鉄砲なおばかさんでも、死ぬんは怖いんは当たり前や。でも生き残る事を考えんで、どうするんや?死んで一緒に化け物になってくれるんか?)
(……ごめん、やだ)
(やろ?)
(うん、生き残るしかない)
息吹はクロミが励まそうと自虐的なったので、なんだか笑ってしまった。
(プライド高いくせに)
(無理して言ったー。だから元気だし!)
息吹はもう一度白い三日月を見つめた。
(やっぱり、黄色いお月様の方がいいなあ。だって白いと美味しそうじゃないんだもん)
息吹は笑った。クロミは白い月もいいもんやでと、息吹の隣で月を見つめた。
月は弱いながらも小さな肩をそっと照らし、冷たい風は息吹の頬を優しく撫でていくのであった。