子供らしさ
神谷は、えっえっとなどと動揺しながら瀬尾と息吹の周りをウロチョロし始めた。
「あんなあ、ウザい。悪いけどじっとしててくれや」
瀬尾は苛立ちを隠さず神谷を睨みつけた。
一方の息吹は、何も反応せず石のように固まったままだった。神谷には息吹が何を考えてるか到底分からず、この場の空気が鉛のように重く感じた。
「失敗したら、助けてはくれないよね」
息吹はボソっと呟いただけであったが、瀬尾はちゃんと返事をした。
「仲間の命のついでなら助けてやってもええで。だが、完全なる途中でならお前自身で責任とれや」
息吹の青い瞳がキラリと怪しく光り、そんなん大人のすることじゃないよと瀬尾に小声であったが反論した。
「なんや?お前はおれたちの家族のつもりかなんかか?俺にとってお前は、クソ餓鬼である前に暗殺者なんや。良く言えば、使い勝手の悪い武器やな。そんな事、頭の悪いお前でも理解してるやろうが?」
息吹は、このクソジジイと心の中で悪態をついたが、クロミがチャンスチャンスと煩く喚き立てるので、怒りも段々と収まり、冷静になって返事をする事ができた。
「……分かった。でも策位与えてよ。馬鹿みたいに死にに行くのはごめんだよ」
神谷はこの段階でいきなり大きな声で2人の間にやっと割って入った。
「策は俺が考えよう!!………尊治と交渉するのは無理でも、七之助殿なら可能かもしれんっ」
焦る余り、飛んだ数的のツバが息吹の額にぴっとくっついた。なんとも言えぬ空気がその場を覆った後、息吹は無言で額を拭き拭きし、瀬尾は具体的に思いついたら報告してくれと吐き捨てその場を去った。
「瀬尾!なるべく早く考えるからな!!」
瀬尾への信頼を取り戻そうと必死なのか、神谷は立ち去る瀬尾の背中に大声で語りかけたが、瀬尾は振り向かずそのまま姿を消した。
「息吹、いつもいつも悪いな」
神谷は、瀬尾が立ち去ったのを確認してからどかっと座り、申し訳なさそうに息吹に詫びた。
「ううん。私の方こそごめんね。何にも役に立って無くて……だから今回は頑張らせて」
息吹は最後の方だけ少しニコッとした。その表情を見て少し安心しながら神谷は嬉しい提案を息吹にしてくれた。
「今、ぜんざいを高菜に用意したんだ。高菜の大好物でな。それを高菜に伝えたら、息吹と一緒に食べたいそうなんだ。……一緒に食べてくれるかい?」
「もちろん!」
神谷を気遣ってした先程の笑みと打って変わって、弾けた満面の笑みは束の間であったが、神谷の罪悪感を軽くしてくれた。
「息吹俺の分も高菜に頼んで……って遅いか」
息吹の姿は何処にも無く、部屋は空っぽであったが微かに乾いた風が部屋の中を通り過ぎているのであった。