天敵
息吹は神谷に呼び出され、広い畳の部屋で待たされていた。板の間が多いこの城で畳は気持ちよく晴れた空が障子の隙間から顔を覗かせている。
高菜に対面してから数日が経っていた。神谷は部下を城中に引き寄せ話合いを重ねていた。そこには息吹の苦手な瀬尾の姿もあった。そのため神谷に近づきにくくなり、提案し損ねていた。
(はあああああ)
クロミは息吹の鼻と眼の先で大きくため息ついた。息吹は何も反応せずぼけえっとしていた。このようなクロミの態度は日常茶飯事であった。
(もう決心してからだいぶ経ってますがー)
(そうだね)
(あの時の感動返しくれません?)
(へー感動してたんだ)
(だああああ!!!!あんなあ悠長に構えてる場合ちゃうで?!あの死神の尊治がどう動いてくるか分からんのに、何モタモタしとんじゃい?!)
(クロミ……私だって動きたいけどあのデカい人がこっちを見張ってるから難しいんだよ。クロミはウロチョロしてるだけで良いかもだけど、あの人に殴られたりするのはごめんだもん)
(あんなんちゃっと素早く逃げたら良いやろ)
(無理だよ。この話はもうやだ)
息吹はプイッと顔を背けた途端、顔を硬らせた。例のデカ男の瀬尾と神谷が部屋に入ってきたからだ。
(はいはーい。お出ましやあ)
息吹は喜ぶクロミを苦々しく感じながら、神谷と眼を合わせた。
「息吹くつろいでるとこ悪いな。瀬尾がお前に話があるそうなんだ。俺は邪魔なら出て行くが」
息吹は急いで首をブンブンとふり、これまた急いで正座した。
瀬尾はギロリと鋭い目つきで息吹を睨むとドサッと座り込みあぐらを組んだ。
「俺はお前を信用してへんし、こいつの命を狙ってたんも忘れへんが、お前の態度と働きによってはこっちも譲歩してやってもええ」
「おおっおい瀬尾っ」
神谷はしどろもどろに話に入ろうとしたが息吹はちゃんと返事をした。
「分かってる。どうすればいいの?」
瀬尾は息吹の返答が少し予想外であったようで、ひと時黙ったが、次には命令を下した。
「ほな、尊治の所に行って俺の仲間を解放させてみろ。それ以外は認めへん」