出歯亀
「お姉さん!!」
高菜は今自分がどう言う状態なのか把握して無かった。ただ大粒の涙が高菜の頬に落ちてきて、大きく光る青い宝石が、自分の頭上でキラキラと輝いているのだけはわかった。
(なんて綺麗なの……)
高菜は思わず手を伸ばし、サラサラの真っ黒な黒髪から見える瞳に触れそうになった。
「高菜!すまなかった!すまなかった!」
遮るようにボサボサ頭の神谷が覆い被さり、号泣しながら謝罪を繰り返してきた。
「神谷様……?」
混乱する頭の中を整理しようとしたが、感情は先に溢れ出し、高菜は嗚咽を堪えながら掠れた声で、よくぞご無事でとやっとこさ喋った。息吹はすくりと立ち上がると、その場から一瞬で消え去り、かと思えばすぐその場に戻り、高菜を起き上がらせ白湯を進めた。
(こんなに気が利く子だったかしら)
多少疑問に感じながらも高菜は白湯を一口のみ、ふうっと息を吐いた。
神谷はその様子をじっと見ながら、躊躇うように質問した。
「気分はどうだ?」
「全快とまではいきませんが、ご心配をおかけするほどではございません」
高菜は優しく微笑みかけ、息吹の方を見た。瞳だけは変わらないが背は少し伸び、顔も大人びて来ている。格好は薄汚れ、目は充血し居たたまれない格好であったが、やはり以前より異国の色を強く感じるためか、美しさを兼ね備えてきたようにも見えた。
息吹は見られている事に居心地が悪くなったのか、2人でゆっくり喋ってといい、襖にの外出てしまった。
「驚いたろ?俺もあの子の成長には目を見張るばかりなんだよ」
「ええ、とても美しくなって見違えました。神谷様とさほど身長も変わらないように見えます」
あの格好で美しくなったなどと高菜は言ったので、神谷は今一つよく分かって無かったが、身長の件は引っかかったので一言言って置いた。
「相変わらず厳しいな」
「神谷様の大きな心は身長では表せないですから」
少し痩せた高菜であったが、片目を瞑り微笑んだ様は相変わらず美しさと可愛いらしさを兼ね備えていた。神谷は顔が熱くなるのを感じながら彼女からの愛情を確認した。
「俺で遊ぶのはよしてくれよ。もう歳も歳だ」
「私の中で神谷様は出会った頃と何一つ変わりませんよ。ダメな所も含めてですけどね」
神谷は降参し、息吹がいない事を確認してから高菜を抱きしめた。
「もう二度離さない……約束だ」
高菜は神谷の体温に心地良さを感じながら、困ったように呟いた。
「神谷様、確認する時は天井もお願いします」
神谷は、猛烈に体温が上昇するのを感じながらハハハと頭をガシガシかきながらゆっくりと離れた。
「あー、あー息吹、あー俺はちょっと用事を思い出したので、あーまあ、その高菜をちょっと看ててくれな。うーんまあ、じゃっ」
足を絡れさせながら出て行くその後ろ姿は、とても英雄とは程遠いものであったのは言うまでもないだろう。