双子
こんな事になるなんて、思い切って提案してみるもんだわ。
美しい黄金の髪を、指でこねくりまわしながらエマは窓の外を眺めていた。あの晩、自分がいかに無力で、情けないか思い知らされた日からエマはずっと考えていた。
息吹を迎えに行く方法を。
元の2人に戻れる方法を。
息吹は彼女のパーソナリティを形成する大切な時期に、大きな影響を与えた。まるで見たことない容姿、考え方、そして環境。何もかもが、彼女の周りに存在しない稀有なものであった。息吹に比べれば、他のものは退屈で、そして煌めきを感じなかった。
息吹が自分にとって大切かどうかより、一緒に過ごした毎日が彼女にとって失い難いものだったのだ。息吹が消え、毎日は同じ事の繰り返しのような錯覚に見舞われた。
お前ってほんと、いかれてんな。
ふと振り向くと、ドアにもたれ掛かり腕を組んだ見慣れた顔があった。短く狩られた金髪は彼女のものと同じで、美しい陶器にような肌は彼を人間らしく見せなかった。
相変わらず言葉使いが悪いのね。他に言い方がないの?
エマはまた、外を見上げ相手にしようとしなかった。
お前の考えなんてお見通しなんだよ。そこまでして、あいつをここに戻す必要がどこにあんだよ。
何にもわかってないのね。
相変わらず、エマは取り合おうとはしなかった。ジョルジュの大きな猫のようのような緑黄石の瞳は、彼女をにらんだまま問いただした。
無理矢理ここにいさせても、死んじまうんだよ。お前が気に入って連れてきたドラゴン覚えてるか?
忘れたわ
あそこにいた方が良かったんだ。ここで飼おうとして結果死んだ
エマは少し黙った後、怒りを込めて低く呟いた。
息吹を飼おうとしてるって言いたいの。
そうだよ。
ジョルジュは臆さなかった。彼らは双子で誰よりもお互いを理解していた。エマが怒ることが分かっていたが、浅はかだとしか思えなかった。
息吹を取り戻すためにギアに婚姻を持ちかけたのは、他の誰でもなくエマだったからだ。
息吹はここにいて幸せだったわ。何もかもうまくいってた、あの日まで。……エスペランサ様に振られたからって、私に八つ当たりしないで!!
遂に振り向いたエマは、確信を突かれ、動揺を隠すように怒りに震えていた。
結婚なんて、俺たちにとってはただの手段だ。……でも陛下は、お前の想い通りになるような人じゃない。お前が消される事になるだけだ
大袈裟よ!!
ジョルジュとエマはお互い睨み合ったまま一歩も引こうとしなかった。このまま掴み合いそうな空気になると思われた矢先、呑気な声がその場の空気を壊した。
まあ、2人とも大きくなってもケンカばかりして。一体どうしたの。
ニコニコして間に入って来たのは、年を重ねても変わらず美しいエリザベートあった。
エマは、なんでもないのとにこりと微笑むと部屋から出て行った。ジョルジュは、下で稽古してくるとこの場を立ち去った。
まあ、反抗期かしらね。
空気を読んでるかいないか、エリザベートの胸中はだれにもわからないのであった。